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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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事故配信


 空中に浮かんだ画面が、静かに揺れていた。


 古いニュース記事。


 画面の中央。


 写真。


 そこに写っている。


 少し若い。

 髪も今より長い。

 男。


 だが、顔は同じだった。


 ——俺だ。


 沈黙。


 そして、チャットが動き出す。


〈……え?〉

〈これなに〉

〈事故配信って書いてある〉

〈おい待て〉


 視聴者数はまだ増えている。


 224,000


 数字が静かに上がる。


 だが、コメントの流れは遅くなっていた。


 誰も、何を書けばいいのか分からない。


 記事の文字が拡大される。


「人気配信者のダンジョン探索中、視聴者が死亡」


 その下に、小さな説明。


「視聴者がリアルタイムのコメントで危険行為を煽った結果、配信者がそれを実行。

事故に巻き込まれた現地観覧者一名が死亡」


 チャットがざわつく。


〈ちょっと待て〉

〈現地観覧?〉

〈リアルで人死んだの?〉

〈え、これ本物?〉


 俺は画面を見上げた。


「……古い記事だな」


 声は、静かだった。


 チャットが荒れ始める。


〈説明しろ〉

〈本当なの?〉

〈人殺したの?〉


 俺はため息をついた。


 椅子の横に腰を下ろす。


 巨大な空洞の中。


 二十万人の視線。


 逃げ場はない。


 俺はカメラを見る。


「半分、違う」


 チャットが止まる。


「半分は、事実だ」


 沈黙。


 遠くで、ダンジョンの岩がきしむ音がした。


 俺は言った。


「三年前だ」


「まだ俺の配信が伸び始めた頃」


 頭の奥に、あの夜の映像がよみがえる。


 暗い洞窟。

 湿った岩。

 スマホのライト。

 チャットが流れる画面。


〈もっと奥いけ〉

〈ジャンプしてみろ〉

〈度胸ねえな〉


 あの頃の俺は、若かった。


 配信は数字だった。


 視聴者数。

 コメント。

 同接。


 それが全部だった。


 だから。


「煽られた」


 俺は言う。


「コメントに」


 チャットが静かになる。


「崖があった」


「ダンジョンの裂け目」


「幅は三メートルくらい」


「普通に回り道すればよかった」


 俺は目を閉じる。


 だが、チャットが言った。


〈飛べる〉

〈いける〉

〈ジャンプ配信しろ〉


 視聴者数はその時、三万人だった。


 当時の俺には、世界の全てだった。


「飛んだ」


 俺は言った。


「成功した」


 チャットがざわつく。


〈え?〉

〈成功した?〉


 俺は頷いた。


「俺はな」


 沈黙。


 その瞬間。


 後ろから、音がした。


 ガラッ。


 岩が崩れる音。


 振り向いた。


 そこにいたのは——


 男。


 配信を見て、現地に来た視聴者だった。


 スマホを持っていた。


 笑っていた。


「俺もやる」


 そう言った。


 チャットが叫んでいた。


〈やれ〉

〈いけ〉

〈二人ジャンプ〉


 俺は。


 止めなかった。


 男は走った。


 跳んだ。


 そして。


 足を滑らせた。


 落ちた。


 沈黙。


 チャット欄が止まる。


 俺は、目を開けた。


「……それが事故だ」


 二十万人の沈黙。


 コメントが、ゆっくり流れる。


〈止めなかったの?〉

〈助けなかったの?〉


 俺は首を振る。


「助けられない高さだった」


「落ちたら終わりだ」


「俺は、ただ見てた」


 そして。


 チャットも、見ていた。


 沈黙。


 長い沈黙。


 視聴者数。


 231,000


 数字が、また増える。


 俺は空中の文字を見る。


【観測記録】


 新しい文字が現れた。


【三年前の事故】


【観測ログ保存】


 俺は目を細めた。


「……やっぱりか」


 チャットがざわつく。


〈なにが?〉

〈何分かった?〉


 俺は言った。


「このダンジョン」


「全部見てる」


「俺の配信も」


「事故も」


「全部」


 チャットが凍る。


 その瞬間。


 空中の文字が変わった。


【次の試験】


【観測対象】


 ゆっくりと表示される。


「死者」


 空洞の奥。


 暗闇が、動いた。


 何かが立ち上がる。


 人の形。


 だが、顔は見えない。


 そして。


 その体は——


 三年前、落ちた男と同じ服だった。


 チャットが絶叫する。


〈うそだろ〉

〈復活?〉

〈幽霊?〉


 俺は静かに立ち上がった。


「……なるほど」


 ナイフを握る。


「そういう試験か」


 目の前の影が、ゆっくり顔を上げる。


 そして。


 声が聞こえた。


「なんで」


「止めなかった」


 ダンジョンの空気が、凍った。


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