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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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二十万人の観測


 天井が、裂けていた。


 黒い岩が割れ、巨大な穴が空いている。


 その穴の奥から、ゆっくりと何かが降りてきた。


 最初に見えたのは、翼だった。


 黒い翼。

 岩よりも暗い色。


 広げれば、この空洞の半分を覆うほどの大きさ。


 次に、目。


 赤い光が二つ、闇の中で燃えている。


 そして、全身。


 高さ十メートルはある。


 黒い骨のような体。

 歪んだ角。

 翼を広げた、異形の巨体。


 ドォン——


 巨体が地面に着地した。

 衝撃で床の岩が砕ける。


 チャットが爆発した。


〈デカすぎ〉

〈無理だろこれ〉

〈さっきの影の十倍ある〉

〈ボス戦きた〉


 視聴者数。


 画面の端の数字が更新される。


 193,000


 俺はその数字を見て、小さく息を吐いた。


「……増えたな」


〈そりゃ増える〉

〈今世界で一番ヤバい配信だろ〉

〈海外も来てるぞ〉


 コメントの流れが速い。

 画面が文字で埋まる。


 俺は椅子の前に立ったまま、巨体を見上げた。


 赤い目が、こちらを見ている。


 そして。


 ギャァァァァァァァァァ!!


 怪物が咆哮した。

 空気が震える。

 耳の奥が痛い。


 ズン。


 怪物が一歩踏み出す。


 ズン。


 もう一歩。


 床が割れる。


 チャットが叫ぶ。


〈逃げろ〉

〈さすがに無理〉

〈装備足りない〉

〈レベル差やばい〉


 俺は静かに言った。


「落ち着け」


 そしてカメラを見る。


「さっき言っただろ」


 指を立てる。


「コメントが世界を作る」


 チャットが少しだけ静かになる。


〈……〉

〈つまり?〉


 怪物が腕を振り上げる。


 巨大な腕。

 岩よりも太い。


 俺に向かって振り下ろされる。


 ドォン!!!


 地面が爆発した。

 石の破片が飛ぶ。

 煙が広がる。


 チャットが絶叫した。


〈終わった〉

〈直撃〉

〈死んだ〉


 煙の中。


 俺は立っていた。


〈え?〉

〈なんで〉


 俺は肩についた石の粉を払う。


「簡単だ」


 カメラを見る。


「お前ら」


「“攻撃外れた”ってコメントしただろ」


 チャットが止まった。


 数秒前のコメント欄。


〈攻撃外れた〉

〈外れろ〉

〈外れろ〉

〈当たるな〉


 俺は笑った。


「観測だ」


 怪物が再び咆哮する。

 怒っている。

 赤い目が強く光る。


 ズシン!!


 怪物が突進した。


 巨体が一直線に迫る。


 俺は動かない。


 チャットが焦る。


〈逃げろ〉

〈コメント何書けばいい〉

〈どうすればいい〉


 俺は言った。


「簡単だ」


「弱点を書け」


 チャットが一瞬止まる。


 そして爆発する。


〈心臓〉

〈目〉

〈首〉

〈翼〉

〈頭〉


 コメントが嵐のように流れる。


 その瞬間。


 怪物の体に光が走った。


 赤い線。


 一本。

 二本。

 三本。


 体の数カ所が、光り始める。


 俺は笑った。


「ほら」


「弱点表示だ」


 チャットが絶叫した。


〈うそだろ〉

〈ゲームみたい〉

〈俺ら作ってる〉


 怪物が突っ込んでくる。


 俺は走った。


 岩の床を蹴る。

 体を低くする。


 怪物の足の下を滑り抜ける。


 ズン!!


 背後で巨体が回転する。


 俺は腰のナイフを抜いた。


 ただの鉄のナイフ。

 普通なら、こんな怪物に通じない。


 だが。


 俺はカメラに向かって言った。


「コメント」


「“一撃で倒せる武器”」


 チャットが爆発した。


〈一撃武器〉

〈最強武器〉

〈神ナイフ〉

〈チート〉


 ナイフが光る。


 白い光。

 刃が震える。


 俺は目を細めた。


「やっぱりな」


 怪物が振り向く。

 翼が広がる。

 突風が吹く。


 俺は地面を蹴った。


 走る。

 岩を蹴る。

 跳ぶ。


 怪物の胸。


 赤く光る弱点。


 ナイフを突き出す。


 ズン。


 刃が刺さった。


 一瞬、静寂。


 次の瞬間。


 ドォォォォォォォォォン!!!


 怪物の体が、爆発した。


 黒い破片が空中に散る。

 翼が崩れる。


 巨大な体が、ゆっくりと倒れた。


 ドサァァァァァァァァン。


 地面が揺れる。


 沈黙。


 そして。


 チャットが爆発した。


〈倒した〉

〈マジか〉

〈俺ら倒した?〉

〈神配信〉

〈歴史〉


 視聴者数。


 218,000


 俺は息を吐いた。


 ナイフを抜く。

 刃の光が消える。


 そして。


 空中の文字が変わった。


【試験クリア】


【観測制御 適合率】


 51%


 チャットがざわつく。


〈半分?〉

〈管理者まだ?〉


 俺は椅子を見る。


 巨大な石の椅子。

 静かに佇んでいる。


 そして。


 新しい文字。


【次の試験】


【観測対象】


 一瞬。


 画面が暗くなる。


 そして。


 配信画面の中央に。


 一枚の写真が表示された。


 古いニュース記事。


 タイトル。


「配信事故で視聴者死亡」


 写真の中。


 若い男。


 ——俺だった。


 チャットが凍った。


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