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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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90/100

コメントが世界を作る


 ダンジョンの空気が、重くなっていた。


 石の椅子に座ったまま、俺は天井を見上げる。


 黒く染まった岩壁が、ゆっくりとうごめいている。

 さっきまでただの空洞だった場所が、どこか生き物の内側のように感じる。


 そして。


 空中に浮かぶ文字。


【観測感情 検出】


【怒り 63%】

【恐怖 18%】

【興奮 14%】


【管理権限 適合率】


【上昇中】


 チャットは相変わらず荒れている。


〈説明しろ〉

〈事故の件どうなってる〉

〈人死んでるんだぞ〉

〈でも配信やばい〉

〈ダンジョン変わってる〉


 視聴者数はさらに増えていた。


 146,000


 俺は腕置きに肘を乗せる。


「……面白いな」


〈何がだよ〉

〈笑ってる場合か〉

〈炎上してるぞお前〉


 俺は小さく肩をすくめた。


「炎上も観測だ」


 チャットがざわつく。


〈は?〉

〈何言ってる〉

〈頭おかしいのか〉


 俺は空中の文字を指さした。


「見ろ」


【怒り 63%】


「怒ってる人間が六割以上」

「それが数値で出てる」


〈だから?〉

〈関係あるの?〉


 俺は周囲を見渡す。


 黒い壁。

 揺れる影。

 そして椅子。


「多分これ」


「視聴者の感情も観測に含まれる」


 チャットが一瞬止まった。


〈感情?〉

〈そんなわけ〉


 その時だった。


 コメントの一つが流れる。


〈怒り63%なら敵出てきそう〉


 その瞬間。


 ズン。


 ダンジョンが揺れた。


〈今揺れた〉

〈まただ〉


 俺は目を細める。


 ズズズズ……


 床の岩が、盛り上がる。


 黒い影が、形を作る。


 チャットが凍った。


〈え〉

〈待て〉

〈今のコメント〉


 影が膨らむ。


 そして。


 巨大な影の塊が、立ち上がった。


 高さ三メートル。

 腕のような突起。

 歪んだ頭部。


〈敵出た〉

〈嘘だろ〉

〈コメントで?〉


 俺は静かに笑った。


「ほらな」


 影の怪物が動く。


 ズシン。

 ズシン。


 床が震える。


〈やばい〉

〈逃げろ〉

〈ボス?〉


 俺は椅子に座ったままだ。


 立たない。

 動かない。


〈何してる〉

〈戦えよ〉


 俺は言った。


「まだだ」


 影の怪物が近づく。


 距離十五メートル。

 十メートル。


 チャットが叫ぶ。


〈死ぬぞ〉

〈早く動け〉

〈逃げろ〉


 俺は笑う。


「お前ら」


 カメラを見る。


「理解したか?」


 チャットが止まる。


「今の敵」


 指を立てる。


「お前らが作った」


 沈黙。


 数秒後。


 コメントが爆発した。


〈マジ?〉

〈コメント反映?〉

〈嘘だろ〉

〈やばいゲームじゃん〉


 影の怪物が腕を振り上げる。


 巨大な黒い腕。


 俺の頭上に落ちる。


 その瞬間。


 俺は一言言った。


「コメント」


「“弱い敵”って書いてみろ」


 チャットが一瞬迷う。


 そして。


〈弱い敵〉

〈弱い敵〉

〈弱い敵〉

〈弱い敵〉


 コメントが埋まる。


 次の瞬間。


 ズン。


 影の怪物が止まった。


 体が、揺れる。


 そして。


 ボロッ。


 腕が崩れた。


 チャットが絶叫した。


〈ええええ〉

〈弱くなった〉

〈マジで反映された〉


 怪物の体が崩れる。


 巨大だった影が、

 人間サイズに縮む。


 ドサッ。


 地面に倒れた。


 動かない。


 チャットが完全にパニックだ。


〈今の何〉

〈ゲームじゃない〉

〈神回すぎる〉

〈配信史変わった〉


 視聴者数。


 171,000


 俺はゆっくり立ち上がった。


 椅子から降りる。


 影の残骸を見下ろす。


「なるほど」


 完全に理解した。


 この椅子は


 観測を操作する装置だ。


 視聴者の視線。

 感情。

 コメント。


 それを

 ダンジョンに変換する。


 俺はカメラを見る。


「お前ら」


 笑う。


「面白くなってきたな」


 その時だった。


 空中の文字が、再び変わる。


【観測制御 確認】


【管理権限 適合率】


 37%


 チャットがざわつく。


〈管理って何〉

〈これ本当にゲーム?〉


 そして。


 最後の文字。


【管理者候補】


【追加試験 開始】


 ダンジョン全体が、震えた。


 ゴゴゴゴゴゴ……


 俺は空を見上げる。


「……試験?」


 次の瞬間。


 ダンジョンの天井が割れた。


 巨大な影が、

 上から落ちてくる。


 それはさっきの怪物とは比べ物にならない。


 高さ十メートル。

 黒い翼。

 赤い目。


 チャットが絶叫した。


〈ボス〉

〈無理〉

〈死ぬ〉


 俺は笑った。


「なるほど」


 カメラを見る。


「次は」


「お前ら全員で倒す敵だ」


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