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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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0.8秒の告発

 公開は、午前十時。

 市場が開く時間。

 逃げ場のない時間。


---


1 カウントダウン


 七瀬は編集画面を最後まで見直す。

 テロップは断定を避ける。


《因果関係は未確定》

《仕様上は基準内》

《だが、低血圧時リスク増大の可能性》


 零が言う。


「攻めてるけど、冷静だ」


「煽らない」


「伸びるか?」


「伸びなくていい」


 トウマがモニター越しに呟く。


「いや、伸びないと意味ない」


 一瞬、空気が緩む。

 だがすぐ戻る。


 動画タイトル。


《“基準内”の0.8秒 ― 医療機器RX9死亡症例の検証》


 サムネイルは煽らない。

 黒背景に白文字。

 0.8秒。

 ただそれだけ。


「いくぞ」


 零が言う。


 七瀬は一度だけ深呼吸する。

 公開ボタンを押す。


---


2 静かな始まり


 最初の三分。

 再生数は穏やかだ。


 前回の裁判動画ほど爆発しない。

 だが、コメント欄の質が違う。


《医療系は慎重に》

《本当に大丈夫?》

《ソースは?》


 七瀬はリアルタイム分析を見ない。

 今回は、数字よりも内容だ。


 動画内。


 術中ログの再現CG。

 血圧低下。

 ポンプ起動指示。


 0.8秒。


 画面は静かにカウントする。


 0.1

 0.2

0.3


 無音。


 0.8で回転開始。


 テロップ。


《仕様上は基準内》


 だが次に出るグラフ。


《低血圧域での脳虚血リスク》


 そして内部メール。


《安全マージン再計算案 却下》


 七瀬のナレーションは落ち着いている。


「断定はできません」


 一拍。


「しかし、内部では補正案が検討されていました」


 そして最後に。


「改良版RX9-IIでは遅延補正が0.2秒に短縮予定です」


 画面が止まる。


 問い。


「なぜ、今の仕様は“最適”なのか」


 動画終了。


---


3 波


 最初に動いたのは、医療従事者アカウントだった。


《現場から言うと0.8秒は無視できない》

《仕様内でも危険はある》


 だが反対も強い。


《素人が医療に口出すな》

《因果関係不明なのに煽るな》


 議論は専門的で、激しい。


 株価。

 東和メディカル、寄り付きから4%下落。


 小さい。

 だが確実な反応。


---


4 企業の会見


 午後三時。

 東和メディカル緊急会見。


 社長代行が壇上に立つ。


「当社製品の安全性は確認されています」


 想定通りの言葉。


「改良版の開発は継続的改善の一環です」


 質問が飛ぶ。


「死亡症例との関連は?」


「因果関係は確認されていません」


 七瀬は配信画面でそれを見る。


 零が低く言う。


「“確認されていない”」


「否定ではない」


 国家の男が電話口で言う。


「企業はギリギリのラインを守っています」


「こちらも守る」


「死亡との直接因果を断定しない限り、法的リスクは限定的」


 だが。


「世論リスクは別です」


---


5 遺族


 症例Aの妻から連絡が入る。


「動画、見ました」


 七瀬は緊張する。


「どう感じましたか」


 長い沈黙。


「主人が亡くなった理由が、少し見えた気がしました」


 一拍。


「でも、確定じゃないんですよね」


「はい」


 正直に。


「断定できません」


「それでも」


 声が震える。


「“何もなかった”よりはいい」


 七瀬は目を閉じる。


 救えたわけではない。

 だが、闇に閉じ込めなかった。


---


6 内部崩壊


 夜。


 告発者から新たなメッセージ。


《社内でパニックです》

《安全委員会再招集》

《RX9出荷一時停止検討》


 七瀬の胸が鳴る。


「止まるかもしれない」


 零が言う。


「止まれば勝ちか?」


「違う」


 七瀬は即答する。


「改善されなきゃ意味ない」


---


7 医療業界の反発


 翌朝。


 業界団体が声明を出す。


《根拠不十分な情報拡散は医療現場を混乱させる》


 矛先は七瀬だ。


 専門家の一部も批判する。


《安全性評価は総合的に行うもの》

《単一遅延で危険とするのは不適切》


 零がスマホを置く。


「きたな」


「想定内」


 七瀬は静かだ。


 今回は前回よりも難しい。

 敵は企業だけではない。

 “専門性”だ。


---


8 追撃データ


 トウマが画面を開く。


「見つけた」


 内部臨床試験の追加ログ。


 症例B。


 同様の低血圧。

 同様の遅延。


 だが死亡はしていない。


 七瀬は息を吐く。


 これが現実だ。


 遅延=死亡ではない。


 だが。


 “運”に依存している可能性。


---


9 転機


 午後。


 速報。


《東和メディカル、RX9一部ロット自主点検発表》


 零が立ち上がる。


「止まった」


 七瀬は画面を凝視する。


 理由。


《安全性再評価のため》


 企業は不具合とは言わない。

 だが、動いた。


---


10 夜


 七瀬はライブをつける。


「今日、点検が発表されました」


 コメント欄が流れる。


《やっぱり》

《止めたな》

《まだ分からない》


 七瀬は言う。


「勝ち負けではありません」


 一拍。


「仕様内でも、改善されるなら意味がある」


 零が横で頷く。


「今回、僕は断定しませんでした」


「それが重要です」


 静かな言葉。


「医療は白黒ではない」

「だから、グレーをグレーのまま出しました」


 コメントが静かになる。


「これから専門家の検証が必要です」


 一瞬、カメラを見つめる。


「忘れないでください」


 あの言葉。

 だが今回は違う。


「確認してください」


---


11 静寂の後


 配信終了。


 部屋は暗い。


 零が言う。


「前より重いな」


「命だから」


「怖いか」


「ずっと」


 七瀬は正直に言う。


 前回は企業信用。

 今回は人の人生。


 自分の一言で、手術をためらう患者が出るかもしれない。


 それでも。


「確認は止めない」


 小さく呟く。


 スマホが震える。


 告発者から。


《社内で“遅延仕様見直し決定”》


 七瀬は目を閉じる。


 0.8秒。


 短い。

 だが確実に、何かを動かした。


---


第七十九話。

専門家公開討論。

因果関係の壁。

そして七瀬自身が問われる「どこまで踏み込むか」。


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