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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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切り取られた過去

 午前七時。

 七瀬は通知音で目を覚ました。


 異様な数。

 SNS、動画コメント、メッセージ。


 その中心にあるリンクを開く。


 見慣れたサムネイル。

 三年前の動画だ。


 タイトルは変えられている。


 《七瀬、事実誤認をしていた証拠》


 動画は切り取られていた。

 わずか二十秒。


 七瀬が企業の品質体制を批判している場面。

 だがその前後が消えている。


 前提説明も、注釈も、訂正も。


 そこだけを抜けば、確かに“誤情報”に見える。


「雑だな」


 零が呟く。


「でも効く」


 トウマが画面を拡大する。


「拡散アカウント、ほぼ同時投稿です」


「業者?」


「可能性高い。ボットっぽい動きもある」


 七瀬はコメント欄をスクロールする。


 昨日までの応援が、揺れている。


《やっぱり嘘だったの?》

《信用してたのに》

《企業叩きたいだけ?》


 胸の奥が重く沈む。


 事実と違う。

 だが、疑いは一瞬で広がる。


 同時刻。

 企業本社。

 広報戦略室。


「トレンド入りしました」


 担当者が報告する。


「“七瀬 誤情報”で二位」


 社長は無言。

 画面を見つめる。


「押し切れるか」


「世論は割れています」


 一人が言う。


「裁判とは別軸で、信用を削れます」


 社長は小さく頷く。


「続けろ」


 七瀬の部屋。

 空気が重い。


「すぐ反論動画出す?」


 零が言う。


 七瀬は首を振る。


「感情的に出すのは危険」


 国家の男が静かに口を開く。


「法廷とは別に、世論は重要です」


 一拍。


「ですが、焦ると“守勢”になります」


 トウマが分析画面を見せる。


「拡散ピークは今日の夜」


「なら」


 七瀬は深呼吸する。


「事実を全部出す」


 昼。

 七瀬は三年前の動画データを掘り起こす。


 元資料。

 当時の調査記録。

 訂正テロップ。

 全て。


 あの動画は、途中で一部数値が更新され、後半で自ら修正している。

 だが切り取りは、修正前だけを抜いていた。


「ここ」


 トウマが指差す。


「更新日と資料番号が一致してます」


 国家の男が頷く。


「証明可能です」


 零が言う。


「全部つなげて出せ」


 夜八時。

 ライブ配信開始。


 同時接続数、急上昇。

 コメントは荒れている。


 七瀬はカメラを見つめる。


「今日、ある動画が拡散されています」


 画面に問題の切り抜き。


「これは三年前の動画の一部です」


 一拍。


「まず、元動画を全部見てください」


 フル映像を流す。


 二十秒の前後。

 状況説明。

 数値の更新。

 自らの訂正。


 コメント欄の空気が変わる。


《あ、後半で訂正してる》

《切り取りじゃん》

《悪質》


 七瀬は続ける。


「間違いは、誰にでもあります」


 一拍。


「だからこそ、訂正する」


 目がまっすぐだ。


「切り取って誤情報にするのは、違う」


 同時接続がさらに伸びる。

 スーパーチャットが流れる。


 応援コメント。

 だが、否定も消えない。


《でも他は本当?》

《今回も盛ってるかも》


 七瀬は正面から言う。


「疑ってください」


 一瞬、コメントが止まる。


「僕の言葉も、企業の言葉も」


 一拍。


「全部、確認してください」


 零が横で小さく笑う。


「強いな」


 企業側。

 配信をモニターしている。


「予想より冷静だ」


 広報が眉をひそめる。


「攻撃的になれば炎上拡大だったのに」


 社長は腕を組む。


「まだ終わらん」


 配信後。

 SNSトレンドが変わる。


 《七瀬 フル動画》が上位へ。


 だが、火は完全には消えない。


 世論は二極化。

 支持と不信。

 境界線は曖昧。


 深夜。

 七瀬は一人でデータを見返す。


「疲れた?」


 零が聞く。


「うん」


 一拍。


「でも、これが本番だと思う」


「裁判より?」


「うん」


 七瀬は静かに言う。


「信用って、判決じゃ戻らない」


 零は黙る。

 その通りだ。


 翌日。

 ニュース番組が取り上げる。


「人気配信者と企業の対立」


 両論併記。


 だがコメンテーターが言う。


「切り取りは問題だが、配信者側も影響力を自覚すべき」


 七瀬はテレビを消す。


「影響力、か」


 国家の男が言う。


「それが次の争点になるでしょう」


「何が」


「公益性です」


 一拍。


「あなたの発信が“社会的利益”かどうか」


 七瀬は考える。


 自分は正しいと思っている。

 だが、それを証明するのは簡単ではない。


 夜。

 高坂からメッセージが届く。


《社内で粛清が始まりました》


 短い文。


《情報統制が強まっています》


 七瀬の胸がざわつく。


「追い詰められてる」


 零が言う。


「だから、焦ってる」


 だが焦った組織は危険だ。

 何をするか分からない。


 七瀬は窓の外を見る。


 街は静かだ。

 だが見えないところで、戦いは激化している。


 翌週。

 裁判所から通知。


 次回期日で、社長本人の証人尋問が決定。


 国家の男が淡々と言う。


「山場です」


 零が息を吐く。


「逃げられなくなったな」


 七瀬は通知書を握る。


 怖さはある。

 だが、視線は揺れない。


「正面から聞く」


 一拍。


「なぜ、3.2%を許容したのか」


 第七十話。

 証人尋問。

 社長の口から語られる“決断”。

 そして、法廷が揺れる。


【第六十九話 終】


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