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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
観測の暴走

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非公開


 役員会議の議事録。

 そこに辿り着けるかどうかで、この戦いの意味が変わる。


 国家の男は、法廷で淡々と申立てを行った。


「原告企業の取締役会議事録の提出を求めます」


 法廷がざわつく。


 原告代理人は即座に立ち上がる。


「必要性がありません」


「あります」


 国家の男は視線を逸らさない。


「品質試験データの修正が、組織的判断か個人の逸脱か」


 一拍。


「それを判断する資料です」


 裁判官は静かに双方を見る。


「原告、提出は可能ですか」


 原告代理人が一瞬黙る。

 背後で小声のやり取り。


「……機密情報が含まれます」


「該当部分を黒塗りにすることは可能です」


 国家の男が即座に返す。


 空気が張る。


 裁判官が告げる。


「必要部分の提出を命じます」


 その一言で、場の温度が変わる。


 零が小さく息を吐く。


「踏み込んだな」


 七瀬の心臓が強く打つ。

 ここまで来た。


 数日後。

 提出された議事録。


 厚い。

 だが、ところどころ黒塗り。


 トウマがすぐに精査に入る。


「該当日の会議は……ここ」


 ページをめくる。


 品質試験の報告。

 基準値未達の項目。


 そして。


 黒塗り。


「ここが怪しい」


 零が覗き込む。


 国家の男は冷静だ。


「前後の文脈を見る」


 黒塗りの前。


《発売延期は市場シェアに影響する》


 黒塗りの後。


《広報戦略を再検討する》


 七瀬の喉が乾く。


「間に何がある」


 トウマがデータを拡大する。


「……インデントのズレがあります」


「ズレ?」


「本来三行のはずが、四行分の空白」


 零が低く言う。


「一文、抜いてるな」


 国家の男が静かに言う。


「黒塗り部分の開示を追加で求めます」


「通る?」


「状況次第」


 一拍。


「だが、もう一押し必要です」


 その夜。

 七瀬のスマホに、見知らぬ番号から着信。


 出る。


 男の声。

 落ち着いている。


「提案があります」


 七瀬は無言。


「訴訟を取り下げます」


 一拍。


「和解金も請求しません」


 心臓が強く打つ。


「条件は」


「動画の削除」


 一拍。


「録音データの非公開」


 静かな圧力。


 零が隣で息を止めている。


 七瀬はゆっくり問う。


「議事録は」


「それ以上、追及しないこと」


 国家の男が小さく首を振る。


 七瀬は答える。


「断ります」


 電話の向こうが一瞬黙る。


「賢明ではない」


「そうかもしれません」


 一拍。


「でも、消費者の問題です」


 通話が切れる。


 部屋の空気が重い。


 零が吐き出す。


「和解金ゼロってことは」


「向こうも危ない」


 トウマが言う。


「議事録の中身に、出せないものがある」


 国家の男が静かに言う。


「最大圧力は、これからです」


 翌日。

 ネットに記事が出る。


《七瀬、過去の税務申告に不備か》


 七瀬の顔から血の気が引く。


 数年前の収益。

 申告ミス。

 修正済みだが、記録は残っている。


 零が怒りを滲ませる。


「完全に潰しに来たな」


 トウマが冷静に分析する。


「タイミングが露骨です」


 一拍。


「法廷外の圧力」


 国家の男が言う。


「想定内です」


「でも印象は悪い」


「だからこそ正面から行く」


 七瀬は深く息を吸う。


 怖い。

 自分の過去。

 完璧ではない。

 叩けば埃は出る。


 それでも。


「会見、開く」


 零が頷く。


「全部話すか」


「うん」


 記者会見。


 七瀬は自ら口にする。


「過去に税務申告の修正を行いました」


 一拍。


「意図的なものではありません」


「裁判への影響は」


「ありません」


 視線を上げる。


「問題があれば、責任を負います」


 沈黙。


 逃げない姿勢。


 世論は、完全には傾かないが、崩れもしない。


 その夜。

 国家の男から連絡。


「黒塗り部分、開示命令が出ました」


 七瀬の鼓動が跳ねる。


「全部?」


「必要部分のみ」


 一拍。


「明日、受け取ります」


 翌日。

 法廷資料室。


 追加提出された議事録。


 黒塗りが外れている。


 トウマがページをめくる。

 そして、止まる。


《品質数値については、発売優先とする》

《リスクは広報で吸収可能》


 空気が凍る。


 七瀬の手が震える。


「……組織だ」


 零が低く言う。


「役員レベル」


 国家の男が静かに言う。


「これで、個人の暴走では済まない」


 一拍。


「組織責任が立証可能です」


 七瀬は椅子に座る。


 重い。

 ここまで来た。


 だが同時に、胸が痛む。


 告発者二人は職を失った。

 自分も、傷だらけだ。


 それでも。

 前に進むしかない。


 そのとき、スマホが震える。


 非通知。


 出る。


 低い声。


「あなたの家族は、今どこにいますか」


 通話が切れる。


 七瀬の背筋が凍る。


 零がすぐに気づく。


「どうした」


 七瀬は、ゆっくり言う。


「……次は、私の番みたい」


 国家の男の目が鋭くなる。


「警察に通報します」


 一拍。


「ここからは、法廷だけの問題ではありません」


 七瀬は震える指を握り締める。


 逃げたい。

 だが。


 録音の声。

 議事録の一文。

 告発者の覚悟。


 全部が背中を押す。


「やる」


 小さく。

 しかし確かに。


 第六十七話。

 七瀬への直接的攻撃。

 家族を守るための決断。

 そして企業内部で、想定外の動きが起きる。


【第六十六話 終】


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