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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
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改訂前


 法廷は、これまでで最も重い空気に包まれていた。

 傍聴席は満席。

 記者の数も増えている。


 企業側の席には、見慣れない顔が並んでいた。

 スーツの色が濃い。

 空気が違う。


 零が小さく言う。


「本社の本丸だな」


 国家の男は頷かない。

 ただ書類を整える。


 七瀬の鼓動は、静かに速い。

 今日は、出す。


 裁判官が入廷。

 着席。


 原告代理人が先に立つ。


「当社は、先日提出した品質試験データに基づき、適法性を主張します」


 整然とした声。

 揺らぎはない。


「数値はすべて基準内です」


 一拍。


「被告側の主張は、誤解に基づくものです」


 国家の男が立ち上がる。


「被告側から、新たな証拠を提出します」


 法廷が静まる。


「改訂前の品質試験データです」


 原告側の一人が、わずかに動く。

 ほんの一瞬。

 だが七瀬は見逃さない。


「改訂前?」


 原告代理人の声がわずかに硬くなる。


 国家の男は続ける。


「原告提出データと比較してください」


 モニターに二つの表。

 左が原告提出版。

 右が改訂前。


 トウマが横でページをめくる。

 裁判官が視線を走らせる。


 沈黙。


 国家の男が静かに言う。


「基準値ぎりぎりだった数値が、すべてわずかに上方修正されています」


 一拍。


「誤差の範囲と主張されるでしょう」


 視線を原告側へ。


「ですが修正は、例の会議翌日に集中しています」


 法廷の空気が張り詰める。


 原告代理人が立つ。


「そのデータの出所は」


「社内サーバーのバックアップ」


「不正取得の可能性があります」


 国家の男は即座に言う。


「ハッシュ値は一致」


 一拍。


「提出済みデータとの差分も客観的です」


 裁判官が問う。


「原告、説明を」


 沈黙。


 原告代理人が資料をめくる。

 耳打ち。

 法務部長の表情が硬い。


「……現在、確認中です」


 その言葉が、法廷を揺らす。


 零が小さく息を吐く。


「刺さった」


 だが、原告側も退かない。


「仮に修正があったとしても」


 一拍。


「入力ミスの訂正の可能性があります」


 国家の男は落ち着いている。


「では、その修正履歴の提出を」


 原告代理人が詰まる。


「……社内確認が必要です」


 裁判官が言う。


「次回期日までに提出してください」


 静かな、しかし重い一撃。


 閉廷。


 法廷の外は、騒然としていた。


「データ改ざん疑惑についてどう思いますか!」


 七瀬は一言だけ言う。


「事実を出しただけです」


 それ以上は語らない。


 零が横で小さく笑う。


「今日は完全にこっちだ」


 だが。


 トウマのスマホが震える。

 顔色が変わる。


「……まずい」


「何が」


「第二の告発者」


 画面を見せる。


《本日付で、総務部所属社員を懲戒解雇》


 名前は出ていない。


 だが数分後、メールが届く。


《私です》


 短い。

 それだけ。


 七瀬の胸が強く締め付けられる。


 さらに続く。


《端末を押収されました》

《ログは消された可能性があります》


 零が低く言う。


「報復だ」


 国家の男は冷静だが、目が鋭い。


「予想より早い」


 一拍。


「だが、改訂前データは既に提出済み」


 七瀬はスマホを握る。


「大丈夫?」


 返信はすぐ来ない。


 数分後。


《覚悟していました》


 一拍。


《でも、家族が心配です》


 胸が痛む。


 告発者は二人とも、職を失った。

 七瀬のせいだ、と言われれば否定できない。


 零が言う。


「背負うな」


「でも」


「向こうは覚悟してる」


 一拍。


「俺たちが折れたら、全部無駄になる」


 国家の男が静かに言う。


「ここからが本番です」


「まだあるの?」


「あります」


 一拍。


「原告側は、組織的関与を否定するため、責任を個人に押し付ける可能性が高い」


 七瀬の心臓が強く打つ。


「トカゲの尻尾」


「ええ」


 一拍。


「“一部社員の暴走”という構図」


 トウマが補足する。


「法務部長が切られる可能性もあります」


 零が吐き捨てる。


「上は逃げるか」


 七瀬は空を見上げる。


 曇り空。

 だが確実に、ひびが入っている。


 そのとき。


 ニュース速報。


《企業、法務部長が辞任》


 全員が止まる。


「早すぎる」


 トウマが呟く。


 記事を読む。


《一連の対応の責任を取り――》


 七瀬の胸が冷える。


 切った。

 尻尾を。


 国家の男が低く言う。


「ここからが難しい」


「何が」


「組織責任を立証すること」


 一拍。


「個人の逸脱で済まされれば、企業は生き残る」


 零が拳を握る。


「でも録音は?」


「発言者は特定できる」


 一拍。


「だが、その背後の指示までは映らない」


 沈黙。


 戦いは、次の段階へ。


 表の責任者は消えた。

 だが構造は残る。


 七瀬はゆっくりと言う。


「やることは同じ」


 一拍。


「全部出させる」


 トウマがスマホを見る。


 第二の告発者から最後のメッセージ。


《ありがとうございました》


 その後、既読はつかない。


 七瀬の胸が締め付けられる。


 守ると言った。

 だが守れなかった。


 零が言う。


「終わってない」


 国家の男が続ける。


「次は、役員会議の議事録を請求します」


「そこまで行ける?」


「行きます」


 一拍。


「組織責任を証明する」


 七瀬は深く息を吸う。


 重い。

 だが止まれない。


 第六十六話。

 役員会議の“非公開議事録”。

 そこに記された一文が、企業の命運を決める。

 そして七瀬に、最大の圧力がかかる。


【第六十五話 終】


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