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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
世界は配信を見る

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54/83

保護線


 午前九時。

 企業の内部調査は、想像より速かった。


 ニュースは続報を打つ。


《大手企業、機密情報漏洩の可能性で社内監査強化》


 七瀬の名前は出ていない。

 だが、流れは明らかだ。


 零がモニターを睨む。


「内部ログ洗い始めてるな」


 国家の男が淡々と答える。


「アクセス履歴、USB使用履歴、チャット検索履歴」


 一拍。


「数日以内に候補は絞られる」


 七瀬の喉が乾く。


「早すぎない?」


「想定内」


 企業はこういうときだけ、異様に速い。


 トウマが言う。


「告発者の端末は?」


「まだ把握できてない」


 国家の男。


「だが時間の問題」


 七瀬は机に置かれたUSBを見る。

 小さな銀色の塊。

 これ一つで、人の人生が壊れる。


 零が言う。


「出すなら今だ」


 一拍。


「内部が混乱してるうちに」


 理屈は正しい。

 今なら企業は防戦一方。


 だが。


 七瀬は首を振る。


「出さない」


 零が目を細める。


「感情?」


「違う」


 一拍。


「準備不足」


 国家の男が頷く。


「証拠能力を固める」


「どうやって?」


「公証」


 トウマが補足する。


「第三者機関にタイムスタンプ付きで保管」


 一拍。


「出所を隠したまま、存在だけ固定できる」


 七瀬は即決する。


「やる」


 正午。

 告発者からメッセージ。


《部署内で聞き取りが始まりました》


 短い。

 だが切迫。


 零が呟く。


「時間ないぞ」


 七瀬は返信する。


《今は何も話さないでください》

《データは私たちが保全します》


 既読。

 数分後。


《わかりました》


 その一言が、やけに重い。


 午後三時。

 国家の男が動く。


 公証手続き。

 データのハッシュ化。

 改ざん防止。

 法廷提出用の準備。


 零が横で言う。


「ここまでやっても、出せなきゃ意味ない」


「出す前提だ」


 国家の男は冷静だ。


「だが順番がある」


 七瀬は窓の外を見る。

 企業本社ビルの方向。


 あの中で、今、誰かが疑われている。

 胸が締め付けられる。


 トウマが静かに言う。


「情に流されると、両方失います」


「わかってる」


 七瀬は小さく答える。


「守るって言った」


 一拍。


「だから冷静でいる」


 夕方。

 SNSで異変。


 企業寄りのインフルエンサーが投稿。


《一部配信者が違法入手資料を保持との噂》


 匂わせ。

 名前は出していない。

 だが矛先は明確。


 零が舌打ちする。


「揺さぶりだ」


 国家の男。


「内部に向けたメッセージでもある」


 一拍。


「“話せば終わり”と」


 七瀬はスマホを握る。

 投稿画面。


 だが止まる。


 今ここで反応すれば、告発者がさらに危険。


 零が言う。


「沈黙が一番強いときもある」


 七瀬はゆっくり息を吐く。


「今は、何も言わない」


 夜。

 告発者から着信。


 声が震えている。


「今日、上司に呼ばれました」


 七瀬の心臓が強く打つ。


「何を?」


「最近、外部と接触してないか、と」


 一拍。


「スマホ提出を求められました」


 零が目を見開く。


 国家の男が即座に指示。


「提出は拒否できるはずだ。私物なら」


 七瀬が告げる。


「拒否して」


「でも怪しまれます」


「もう怪しまれてる」


 沈黙。


 告発者が小さく笑う。


「そうですね」


 一拍。


「怖いです」


 その言葉が、刺さる。


 七瀬は言う。


「今から弁護士を紹介する」


 国家の男が頷く。


「内部告発者保護制度の適用申請」


 告発者が戸惑う。


「そこまで?」


「守るって言った」


 七瀬の声は揺れない。


「本気で」


 通話が終わる。


 部屋は重い。


 零が低く言う。


「後戻りできないぞ」


「最初から」


 七瀬は小さく笑う。


 翌日。

 企業が公式発表。


《内部監査の結果、情報管理違反の疑いあり》


 名前は出ていない。

 だが“疑い”の存在が公になった。


 メディアがざわつく。

 世論が動く。


《やっぱり何かある》

《企業怖い》

《内部告発?》


 七瀬は決断を迫られる。


 今出せば、世論は味方になる。

 だが告発者の処分は確定的になる。


 零が言う。


「どうする」


 国家の男が補足。


「法廷提出は間に合う」


「世論は?」


「爆発する」


 トウマが静かに言う。


「守ると決めたのは、あなたです」


 七瀬は目を閉じる。


 炎上。

 裁判。

 孤立。


 全部、選んできた。


 でも今は違う。

 自分以外の人生が乗っている。


 七瀬はゆっくり言う。


「先に、保護申請」


 一拍。


「公的に枠組みに乗せる」


 零が頷く。


「遅れるぞ」


「いい」


 七瀬は強く言う。


「勝つより、守る」


 国家の男が即座に動く。


 書類作成。

 提出。

 告発者の法的保護を確保するための手続き。


 時間との戦い。


 夜。

 告発者からメッセージ。


《弁護士と話しました》

《少し安心しました》


 七瀬は画面を見つめる。

 胸の奥の緊張が、わずかに緩む。


 だが同時に。

 企業は、確実に本気になる。


 守るという選択は、攻撃を呼ぶ。


 零が窓の外を見る。


「嵐、来るぞ」


 遠くで雷鳴が鳴る。


 七瀬は静かに言う。


「来い」


 一拍。


「こっちは、逃げない」


 守るための戦いは、

 攻めるよりも、ずっと重い。


 だがもう。

 線は引いた。


 第五十五話。

 企業、反撃開始。

 七瀬個人への“過去”の掘り起こし。

 戦場は、彼女自身へ。


【第五十四話 終】


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