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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
世界は配信を見る

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前夜、そして壇上


 午前七時。

 音声は、最悪の形で投下された。


 動画形式。

 字幕付き。

 切り取られた会話。

 トウマの声。


《この程度なら修正でいける》

《問題にはならない》


 文脈は不明。

 だが、印象は最悪。


 タイトル。


《倫理軽視の本音》


 拡散は爆発的だった。

 再生数は一時間で五十万を超える。


 零がテーブルを叩く。


「編集されてる」


 国家の男が即座に解析を始める。


「波形に不自然な断絶あり」


 一拍。


「複数箇所で接合」


 七瀬は画面を見つめる。

 コメント欄。


《やっぱり》

《討論前に終わった》

《信用ゼロ》


 トウマは無言。

 だが目は逃げていない。


「原音は?」


 国家の男が頷く。


「大学側のアーカイブに残っている可能性」


「取れる?」


「交渉次第」


 零が言う。


「間に合うか?」


 時計。

 討論は明日、午後七時。

 残り三十六時間。


 七瀬が言う。


「先に触れる」


 全員が見る。


「討論の冒頭で、私が言う」


「七瀬」


「逃げないって決めた」


 一拍。


「向こうが武器にする前に、自分の言葉にする」


 トウマが低く言う。


「私が話します」


「ううん」


 七瀬は首を振る。


「最初は私」


 一拍。


「私の討論だから」


 空気が静かに張り詰める。


 正午。

 企業側の声明。


《公開討論は予定通り実施》

《個人の倫理問題についてはコメントを控える》


 切り離し。

 だが、メディアは結びつける。


 テレビ局が特集を組む。

 テロップ。


《討論の行方は?》


 七瀬のフォロワーは減り、同時に増える。

 炎上と支持が交錯する。


 零が言う。


「数字は落ちてない」


 一拍。


「むしろ注目度は最大」


 国家の男が冷静に言う。


「炎上は拡散力を持つ」


「利用する?」


「利用されないために、制御する」


 トウマが大学に連絡を取る。

 内部監査部門。

 事情説明。

 音声の存在。


 沈黙の後、返答。


《原データは保管されています》


 希望。

 だが条件。


《外部公開には手続きが必要》


 時間が足りない。


 トウマは言う。


「私の責任で構いません」


 相手は迷う。

 最終的に。


《学内限定確認なら可能》


 国家の男が同行。


 午後四時。

 大学の会議室。


 再生。

 完全版。


 トウマの声。


《この程度なら修正でいける》


 その直後。


《再解析して正確な数値に直そう》

《誤差範囲を明示すれば問題にならない》


 文脈は、真逆。

 軽視ではなく、是正。


 国家の男が言う。


「切り取りです」


 一拍。


「悪質」


 トウマは目を閉じる。

 胸の奥が熱くなる。

 悔しさ。

 安堵。


「これを使える?」


「正式公開は難しい」


 一拍。


「だが、要約と証言は可能」


 トウマは頷く。


「十分です」


 夜。

 前日ライブ。


 七瀬はカメラの前に座る。

 同接は過去最大。

 コメントは流星のように流れる。


「明日、討論に行く」


 一拍。


「逃げない」


 ざわめき。


「トウマさんの件も、私から話す」


 チャットが荒れる。


《切れ》

《擁護するな》

《信じる》


 七瀬は続ける。


「人は過ちをする」


 一拍。


「でも、切り取りで人格は決められない」


 静かだが強い声。


「私は全部知った上で隣にいる」


 零が裏でモニターを見ながら呟く。


「いい」


 国家の男が小さく頷く。


 トウマは画面を見つめる。

 守られている感覚。

 それが逆に痛い。


 当日。

 午後六時四十五分。


 都内ホール。

 観客席は満席。

 報道陣。

 カメラ。


 緊張は空気を重くする。


 七瀬は深呼吸。

 零が小声で言う。


「ビビってる?」


「少し」


「正常」


 前と同じ言葉。


 トウマはスーツ姿。

 背筋を伸ばす。


 国家の男は最後列で状況を監視。


 午後七時。

 司会者が登壇。

 企業代表が現れる。


 拍手。


 七瀬も登壇。

 光が当たる。

 視線の海。


 司会が口を開く前に。

 七瀬がマイクを取る。


「始める前に、一つ」


 会場がざわつく。


「支援者の過去の件について」


 代表の眉がわずかに動く。


「十年前の研究手続きミスは事実です」


 一拍。


「音声は切り取られています」


 会場がどよめく。


「完全版では、是正を指示する内容です」


 代表が口を開こうとする。


 七瀬は続ける。


「過去の未熟さと、今の議論は別」


 一拍。


「今日のテーマは、言論と責任」


 静寂。

 主導権。


 司会が咳払い。


「では、本題へ」


 第一ラウンド。

 企業の削除要請の妥当性。


 代表は理路整然と語る。


「誤情報の拡散は社会的損失」


 七瀬は反論。


「誤りがあれば訂正すればいい」


 一拍。


「消すのは最後の手段」


 応酬。

 緊張。

 観客は息を飲む。


 第二ラウンド。

 倫理。


 代表が言う。


「信頼性が重要」


 視線がトウマへ向く。


 七瀬が言う。


「だからこそ透明性」


 一拍。


「隠さない」


 代表の表情が硬くなる。


 第三ラウンド。

 企業の内部文書。


 零が掴んだ新資料。

 モニターに映る。


《炎上対応:影響力低下を最優先》


 会場がざわめく。


 代表の声がわずかに揺れる。


「それは文脈が」


 七瀬が言う。


「切り取られてますか?」


 一瞬、空気が止まる。

 観客席から小さな笑い。


 主導権が動く。


 討論は二時間続く。


 最後の発言。

 七瀬。


「人は失敗する」


 一拍。


「企業も、個人も」


「でも、隠すかどうかは選べる」


 拍手。


 代表も最後に言う。


「議論は必要」


 形式的だが、逃げない言葉。


 午後九時二十分。

 終了。


 控室。


 七瀬は椅子に座り込む。


「終わった……?」


 零が笑う。


「まだ戦争中」


 トウマが言う。


「ありがとう」


「まだ早い」


 国家の男が入る。


「速報」


 一拍。


「世論は拮抗」


「負けてない?」


「少なくとも、一方的ではない」


 七瀬は目を閉じる。

 疲労が一気に来る。


 だが。

 逃げなかった。


 音声も。

 過去も。


 壇上の光は消えた。

 だが戦いは終わらない。


 スマホが震える。

 新着通知。


《企業側、追加声明を検討》


 零が言う。


「第二ラウンドだな」


 七瀬はゆっくり立ち上がる。


「いいよ」


 一拍。


「次もやる」


 炎上は消えていない。

 裁判も続く。


 だが、今日。

 彼らは削られながらも、立っていた。


 第五十一話。

 企業の“逆提案”。

 和解か、徹底抗戦か。

 選択が迫る。


【第五十話 終】


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