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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
世界は配信を見る

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拡散速度


 午前六時三十二分。

 零のスマホが震え続けていた。

 通知音が止まらない。


 半分眠ったまま画面を見る。

 トレンド欄。


《#倫理違反学者》

《#七瀬のブレーン》

《#討論前に発覚》


 目が一気に覚める。


「……来たか」


 リンクを開く。

 匿名掲示板発。

 まとめアカウントが拡散。

 すでにニュース系インフルエンサーが引用。


 画像。

 十年前の内部報告書。

 赤線で囲われた一文。


《データ記載に不備。研究倫理上の問題を指摘》


 その下に煽り文。


《これが七瀬を支える“専門家”の実態》


 零はベッドから飛び起きる。

 即、グループ通話。


 七瀬が出る。


「見た?」


「今見た」


 声は落ち着いている。

 だが静かすぎる。


 トウマが最後に入る。

 沈黙。


「……出ましたね」


 国家の男はすでに状況を整理していた。


「発信源は海外サーバー経由。拡散は国内」


 一拍。


「企業側が直接関与した証拠は現時点なし」


 零が吐き捨てる。


「でもタイミング完璧すぎるだろ」


 事実。

 公開討論の日時発表が、今日の午前十時予定。

 その四時間前。

 リーク。


 七瀬が言う。


「どうする?」


 問いは単純だが重い。


 トウマが静かに言う。


「私が声明を出します」


「待って」


 七瀬が止める。


「単独はダメ」


 零も同意する。


「切り離されるぞ」


 SNSではすでに始まっている。


《七瀬も同類》

《やっぱり裏で操作》

《正義ヅラ》


 世論は“関係性”を叩く。


 国家の男が冷静に言う。


「二択です」


 一拍。


「無視するか、先に認めて説明するか」


 トウマは答える。


「説明します」


 迷いはない。

 だが、七瀬は見る。

 その目の奥の震えを。


「怖い?」


 率直。


 トウマは一瞬だけ言葉を失う。

 そして頷く。


「怖い」


 一拍。


「十年前、終わったはずの話です」


「終わってないから武器になる」


 零が低く言う。


 七瀬は決める。


「同時声明」


 全員が見る。


「私も出す」


「七瀬、それは」


「切らない」


 一拍。


「切ったら、本当に利用してたことになる」


 空気が固まる。


 国家の男が確認する。


「覚悟は」


 七瀬は小さく笑う。


「もう炎上慣れしてる」


 だが今回は違う。

 仲間の過去。

 信頼。

 自分の判断力。

 すべてが問われる。


 午前九時。

 拡散は加速。

 ニュース系メディアも取り上げ始める。


《討論前に支援者の過去発覚》


 コメント欄は二極化。


《人は過ちを犯す》

《やっぱり胡散臭い》


 拡散速度は、説明速度を常に上回る。


 零がモニターを睨む。


「今出すぞ」


 トウマの声明文。

 短い。


《十年前、研究手続きに不備があり内部指摘を受けました》

《意図的な捏造ではありませんが、私の責任です》

《処分はありませんでしたが、未熟さを認めます》

《現在の議論とは無関係ですが、隠すつもりもありません》


 送信。

 投稿。


 数秒。

 いいねとリプが雪崩。


 直後。

 七瀬の投稿。


《トウマさんの件は事実です》

《私は知った上で意見を聞いています》

《過去の過ちと現在の発言は切り分けて考えるべきだと思っています》

《討論は予定通り受けます》


 零も続く。


《脅しに屈する理由はない》


 国家の男は投稿しない。

 水面下で動く。


 十時。

 公開討論の正式発表。


 三日後。

 会場は都内ホール。

 オンライン同時配信。

 司会は中立系ジャーナリスト。


 火種はさらに広がる。


 SNSでは構図が固定され始める。


《倫理違反学者 vs 大企業》

《若手配信者の暴走》


 トウマは研究室で一人、モニターを見る。


 学生からメッセージ。


《先生、大丈夫ですか》


 胸が痛む。

 自分の過去が、今の教え子に影響する。

 それが一番重い。


 再び通知。

 例の匿名アドレス。


《残念です》

《次は音声です》


 凍る。


 音声?


 零に転送。

 国家の男が即解析。


「加工の可能性あり」


 一拍。


「だが、元データが存在するなら厄介」


 七瀬が静かに言う。


「討論前に全部出してくる気だ」


 心理戦。

 削る。

 自信を奪う。

 孤立させる。


 トウマは椅子に沈む。


「私がいなければ」


「またそれ?」


 七瀬の声が鋭くなる。


「いなかったら、もっと楽だった?」


 トウマは答えない。


 七瀬は続ける。


「楽な戦いなんて最初からない」


 一拍。


「私はあなたを利用してない」


 静かだが強い。


「信じてるから横にいる」


 沈黙。


 零が言う。


「討論は七瀬が主役だ」


「そう」


 一拍。


「私は補助」


 トウマが小さく息を吐く。


「……了解」


 夜。

 ニュース番組で特集。


 コメンテーターが言う。


「過去の倫理問題は軽視できない」


 別のコメンテーター。


「ただし現在の議論とは別」


 分断。

 視聴者は迷う。


 七瀬は自室で画面を見つめる。

 手が少し震えている。


 零からメッセージ。


《ビビってる?》

《少し》

《正常》


 少し笑う。


 トウマからも来る。


《迷惑をかけている》

《一緒にやるって言ったでしょ》


 既読。

 しばらく返信がない。


 やがて。


《ありがとう》


 短い。

 だが重い。


 深夜。

 国家の男が報告。


「音声データは未公開」


 一拍。


「だが複数の記者に匿名送付された形跡あり」


 零が吐く。


「討論前日に出す気か」


「可能性高」


 七瀬は立ち上がる。


「じゃあ、先に言おう」


 三人が見る。


「全部、想定内にする」


 一拍。


「当日、最初に触れる」


 攻め。

 守りではない。


 トウマが言う。


「自ら?」


「うん」


 一拍。


「逃げない」


 部屋の空気が変わる。


 恐怖は消えない。

 だが方向が定まる。


 拡散は止まらない。

 だが、説明も止めない。


 夜は深い。

 世論は揺れている。


 三日後。

 公開討論。


 その前に、もう一波来る。

 確実に。


 トウマのスマホが光る。

 未知の番号。

 着信。


 全員が画面を見る。

 鳴り続ける。


 出るか。

 切るか。


 七瀬が言う。


「スピーカーにして」


 トウマは指を動かす。

 通話ボタン。


 繋がる。


 無音。


 そして、低い声。


「討論、楽しみにしています」


 ブツッ。


 切断。


 番号は非通知に変わる。


 零が呟く。


「完全に遊んでやがる」


 七瀬は静かに言う。


「いいよ」


 一拍。


「こっちも本気だから」


 拡散速度は止まらない。

 だが。


 覚悟も、加速している。


 第五十話。

 討論前日。

 音声データ、投下。

 そして――

 会場に“想定外”が起きる。


【第四十九話 終】


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