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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
世界は配信を見る

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非公開


 午前十一時。

 公式リリースが出た。


《◯◯メディアグループ代表と七瀬氏、公開討論を実施予定》


 日時未定。

 形式調整中。

 第三者司会者を立てる可能性。


 零がスマホを机に叩きつける。


「本当にやる気だ」


 七瀬は画面を見つめる。

 現実味が、急に増す。


「逃げなかったね」


 トウマが頷く。


「企業側も世論を無視できなかった」


 国家の男が冷静に補足する。


「討論は法的手続きとは別です。訴訟は継続」


 つまり。

 言論戦と法廷戦。

 二重構造。


 七瀬は深呼吸する。


「準備しよ」


 零が笑う。


「大舞台だな」


 だが、その数時間後。

 静かに、別の揺れが始まる。


 トウマの大学研究室。

 午後三時過ぎ。


 メール通知。

 差出人不明。


 件名:非公開資料について


 トウマは一瞬だけ、無視しようとした。

 だが、開く。


 本文は短い。


《あなたの過去の研究倫理違反に関する資料を所持しています》


 心拍が一拍、跳ねる。


 添付ファイル。

 PDF。


 開く。


 そこにあったのは、十年前の内部調査報告書。

 学会発表前のデータ修正疑惑。

 最終的に“軽微な手続きミス”として処理された案件。


 処分はなかった。

 公表もされていない。


 だが、事実としては存在する。


 トウマの指先が冷える。


 次の一文。


《公開討論を辞退するよう七瀬氏に助言してください》

《さもなくば、この資料を公表します》


 脅迫。

 直接的。

 だが理性的な文体。

 感情はない。

 だからこそ冷たい。


 トウマは椅子に座ったまま動けない。


 十年前。

 若かった。

 締切に追われていた。


 データの一部を再解析し、記載を修正した。

 意図的な捏造ではない。

 だが、手続きは甘かった。


 内部監査で指摘され、修正。

 公には出ていない。

 “なかったこと”になっていた。


 しかし、完全な無罪でもない。


 スマホが震える。

 七瀬から。


《代表、やる気みたい》


 返信できない。

 画面がぼやける。


 もしこれが出れば。


 “倫理違反の学者が支える配信者”。


 構図は完成する。


 零。

 国家の男。

 七瀬。


 全員を巻き込む。


 トウマは立ち上がる。

 窓の外を見る。


 学生が歩いている。

 平和。


 だが自分の内側は崩れかけている。


 夜。

 四人が集まる。


 公開討論の資料を広げるはずだった。

 だがトウマは無言。


 零が気づく。


「どうした」


「……来た」


 短く。


 国家の男の視線が鋭くなる。


「内容は」


 トウマはノートPCを開き、メールを見せる。


 沈黙。


 零が低く言う。


「クソが」


 国家の男は資料を読む。

 目の動きは冷静。


「内部資料です」


 一拍。


「入手経路が問題」


 七瀬はトウマを見る。


「本当?」


 責める声ではない。

 確認。


 トウマは頷く。


「手続きミスはあった」


 一拍。


「意図的な改ざんではない」


 零が言う。


「でも“倫理違反”って言われたら終わる」


 国家の男が淡々と告げる。


「タイミングが明確です」


 一拍。


「討論辞退を促すための圧力」


 七瀬は小さく言う。


「私のせい?」


「違います」


 即答するトウマ。


「私の過去です」


 部屋が重くなる。


 公開討論は、企業対個人。

 だが今、内部に亀裂が入る。


 トウマが続ける。


「辞退すべきかもしれません」


 零が即座に否定する。


「ふざけんな」


「でも」


 トウマは目を伏せる。


「私が出れば、論点が変わる」


 国家の男が言う。


「あなたは当事者ではない」


「しかし支援者です」


 一拍。


「信頼性が崩れれば、七瀬の発言も疑われる」


 七瀬は立ち上がる。


「やめて」


 全員が見る。


「一人で背負わないで」


 トウマは静かに笑う。


「背負うのは、私の過去です」


「違う」


 一拍。


「今は、私たちの今」


 沈黙。


 零が言う。


「出されたら、その時説明すりゃいい」


「世論は単純ではありません」


 トウマの声は冷静だが、指は白くなっている。


 国家の男が言う。


「法的には脅迫に該当する可能性があります」


 一拍。


「通報すれば、捜査対象になる」


 トウマは首を振る。


「匿名です」


「ログは追えます」


「時間がかかる」


 時間。

 公開討論は迫っている。


 七瀬はトウマの前に立つ。


「聞く」


 一拍。


「それ、出たら致命的?」


 正直な問い。


 トウマは考える。

 数秒。


「傷にはなる」


 一拍。


「だが、即死ではない」


 零が言う。


「じゃあ闘える」


 トウマは目を閉じる。


 十年前の自分。

 焦り。

 未熟さ。

 傲慢さ。


 七瀬の言葉が重なる。


 “更新できない?”


 彼はゆっくり目を開ける。


「逃げれば、事実になる」


 七瀬が小さく笑う。


「最近それ多いね」


 国家の男が言う。


「公開討論は予定通り準備」


 一拍。


「同時に、この件も対策」


 零が拳を握る。


「脅されて引くとか、最悪だ」


 トウマは深く息を吸う。


「……続けます」


 七瀬が頷く。


「一緒に」


 その夜遅く。

 トウマのスマホに再び通知。


《返答を求む》


 短い。

 圧。


 彼は返信しない。

 既読もつけない。

 ただ、スマホを伏せる。


 窓の外は静かだ。

 だが内部は嵐。


 公開討論は決まった。

 法廷も動く。

 そして裏では、過去が牙を剥く。


 揺れは、個人を選ばない。

 誰の過去も、武器にされる。


 トウマは呟く。


「更新、できているか」


 答えはまだ出ない。


 次章。

 討論日時、正式発表。

 そして――

 内部資料が、ついにリークされる。


【第四十八話 終】


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