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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
世界は配信を見る

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原告

 それは、午前十時三分だった。

 インターホン。

 事務所のモニターに映る、無表情な制服。


「特別送達です」


 零が画面を見た瞬間、舌打ちする。


「……本物だ」


 国家の男は立ち上がり、七瀬を見た。


「落ち着いてください」


 トウマは何も言わず、テーブルの端を握っている。


 ドアが開く。

 白い封筒。

 赤い文字。


 特別送達


 受領印。

 紙の感触が、やけに重い。


 零が封を切る。

 七瀬は立ったまま、動けない。


 数枚の書面。

 活字。

 整然と並ぶ主張。


「……提訴」


 零の声が低く落ちる。


「正式に来た」


 七瀬の喉が乾く。


「金額は」


 ページをめくる音。


「損害賠償、三億円」


 空気が止まる。


 三億。

 具体的な数字は、抽象を壊す。


 トウマが目を閉じる。

 国家の男が書面を受け取り、冷静に確認する。


「請求額は最大値です」


 一拍。


「交渉前提」


「三億だぞ」


 零が吐き捨てる。


「脅しじゃねえか」


「法的には脅しではありません」


 国家の男の声は変わらない。


「正式な権利行使です」


 七瀬はゆっくり椅子に座る。


 三億。

 自分の口座残高が頭に浮かぶ。

 現実感がない。


「私、三億の価値ある発言した?」


 誰も笑わない。


 訴状の内容は詳細だった。


 ・配信日時

 ・発言の逐語録

・その後のSNS反応

 ・関連企業への問い合わせ増加

 ・株価の一時的下落


 因果関係を“推認”する文面。

 確定ではない。

 だが、裁判では戦える構造。


 トウマが低く言う。


「論理は組んでいる」


 国家の男が補足する。


「勝てるとは限りません」


「でも、負けるとも限らない」


 零が苛立つ。


「グレーで削る気だ」


 七瀬は訴状をじっと見つめる。

 自分の名前。

 “被告”。


 活字は冷たい。

 人格が、条文に変換される。


「……配信する」


 零が即座に言う。


「今か?」


「うん」


 トウマが慎重に言う。


「感情が先行すると不利です」


「でも隠したら終わる」


 国家の男が言う。


「事実の公開は問題ありません。ただし、内容の取り扱いには注意」


 七瀬は立ち上がる。

 手の震えは止まらない。


「怖い」


 はっきり言う。


「当然です」


 トウマ。


「三億は、人生を壊せる額です」


 零が言う。


「でもお前一人じゃねえ」


 国家の男が続ける。


「支援の法的枠組みもあります」


 七瀬は頷く。

 深呼吸。


 カメラをつける。

 告知なし。

 だが開始一分で同接百二十万。

 過去最高を更新。


 コメントが滝のように流れる。


《来たか》 《本当に訴えられた?》


 七瀬は封筒を机に置く。


「正式に、提訴された」


 チャットが爆発する。


《三億!?》 《終わった》


 七瀬は続ける。


「三億円」


 一拍。


「正直、払えない」


 笑わない。

 事実だけ。


 トウマが別枠配信を開始。


「請求額は象徴的です」


 一拍。


「萎縮効果を狙う」


 七瀬は訴状の一部を読み上げる。

 感情を乗せない。

 条文の冷たさが際立つ。


「私は名前を出してない」


 一拍。


「でも、“特定されうる”って」


 コメントが割れる。


《言論弾圧》 《影響力考えろ》


 七瀬は視線を落とす。


「私の言葉で、誰かが損したかもしれない」


 一拍。


「でも」


 顔を上げる。


「議論もダメ?」


 百二十万の静寂。


 零が裏で拳を握る。

 国家の男がグラフを見る。


 擁護タグ急上昇。


三億はやりすぎ


 だが同時に、


発言の責任


 対立はさらに鮮明。


 七瀬は言う。


「闘う」


 一拍。


「時間も、お金も、かかる」


 深呼吸。


「でも、ここで謝ったら」


 一拍。


「次は誰?」


 コメントが一瞬止まり、再び流れ出す。


《支える》 《無理するな》


 トウマが言う。


「この裁判は、個人対企業ではありません」


 一拍。


「言論空間の境界線の裁判です」


 国家の男は表に出ない。

 だが裏で弁護士と連絡を取り始める。


 専門家チームの編成。

 費用試算。

 分割払い。

 寄付スキーム。

 合法範囲の設計。


 配信終了後。

 七瀬は椅子に沈む。


「百二十万」


 零が数字を見る。


「まだ増えてる」


「怖いのに、増えるんだね」


 トウマが言う。


「危機は最大の可視化です」


 国家の男が報告する。


「原告側、コメントなし」


 一拍。


「沈黙戦術」


 七瀬は天井を見る。


 三億。

 裁判。

 数年。

 精神。


「ねえ」


 小さく言う。


「もし負けたら?」


 零が即答する。


「また考える」


 トウマが静かに続ける。


「最悪を想定し、準備する」


 国家の男。


「自己破産の可能性も含めて」


 七瀬は苦笑する。


「重いね」


 沈黙。

 だが、逃げない。


 スマホが震える。

 新しい通知。


 共同被告の可能性


 零が眉をひそめる。


「……なんだこれ」


 訴状の追補書面。

 発言の補助者として、トウマの名前。

 さらに――


 匿名で国家の男の関与を示唆。


 空気が凍る。


「俺らもか」


 零が低く言う。


 国家の男は一瞬だけ、目を細める。


「想定内です」


 トウマが静かに言う。


「分断の次は、連帯責任」


 七瀬の心臓が跳ねる。


「やめて」


 思わず出る。


「私一人でいい」


 零が笑う。


「今さら言うな」


 トウマも微笑む。


「選びましたから」


 国家の男が言う。


「構造は、個人ではなく連帯を潰します」


 一拍。


「だからこそ、連帯が武器になる」


 七瀬は目を閉じる。


 怖い。

 だが、孤独ではない。


 三億。

 裁判。

 共同被告。


 圧力は最大出力。


 それでも、同接は百三十万を超えている。


 揺れは止まらない。

 制度が刃を向けても。


 七瀬は小さく呟く。


「法廷、配信できないかな」


 零が笑う。


「だから無理だって」


 だが、誰も完全には否定しない。


 これはもう、個人の炎上ではない。

 構造と構造の衝突。


 そして次。

 原告側が、動く。

 沈黙を破って。


 次章。

 原告企業のトップが、直接声明を出す。

 戦いは、公開討論へ。


【第四十六話 終】


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