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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
世界は配信を見る

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通知

 それは、封筒だった。

 電子通知ではなく、紙。

 七瀬の事務所宛に届いた、簡易書留。


 零が受け取った瞬間、顔色が変わった。


「……来たぞ」


 七瀬はソファで台本を読んでいたが、その声で顔を上げる。


「何?」


 零は封を切らずに、表面を見せる。


 差出人。

 某大手メディアグループ 法務部


 空気が一段、重くなる。


 国家の男がゆっくり立ち上がる。


「内容は」


 零が封を切る。

 紙の擦れる音が、やけに大きく響く。


 読み進める。

 沈黙。


 七瀬の喉が鳴る。


「言って」


 零は一度、息を吐く。


「名誉毀損」


 一拍。


「お前が三週間前の配信で言った、“既存メディアは揺れを恐れる”発言。あれが営業妨害にあたる可能性があるって」


 七瀬は瞬きを数回する。


「……可能性」


「損害賠償請求を検討中、だと」


 金額は記載されていない。

 だが文末にある一文。


《誠意ある対応が見られない場合、法的措置を取る》


 国家の男が紙を受け取り、目を走らせる。


「典型的な圧力文書です」


 トウマが静かに言う。


「訴える、ではなく、検討」


「脅し?」


 零が吐き捨てる。


「合法な脅しです」


 国家の男の声は淡々としている。


「訴訟はコストが高い。しかし通知は安い」


 七瀬は立ち上がる。

 足元が少し揺れる。


「私、名前出してないよね」


「出してない」


「具体例も出してない」


「出してない」


 だが。


 国家の男が言う。


「影響力の問題です」


 一拍。


「彼らは、“特定されうる”と言えば成立を主張できる」


 零が机を叩く。


「無茶だろ」


「無茶でも、裁判はできます」


 七瀬は笑う。

 乾いた笑い。


「裁判って、どのくらい?」


「長ければ数年」


「費用は?」


 国家の男が数字を挙げる。

 弁護士費用、着手金、成功報酬。

 ざっくり、数千万規模。


 七瀬は座り込む。


「はは」


 笑いが止まらない。


「私、そんなの払えないよ」


 零が即座に言う。


「クラファンでいける」


「違う」


 一拍。


「それやったら、“煽って稼ぐ”って言われる」


 トウマが口を開く。


「選択肢は三つです」


 指を立てる。


「一、謝罪し、発言を撤回する」


「二、無視する」


「三、闘う」


 沈黙。


 国家の男が補足する。


「謝罪は短期的安定」


「無視はエスカレートの可能性」


「闘う場合、消耗戦」


 零が七瀬を見る。


「どうする」


 七瀬は天井を見る。


 揺れ。

 合法化。

炎上。

 家族。

 そして今、法。


「……謝ったら、終わる?」


 トウマが答える。


「今回の件は」


 一拍。


「しかし次も来ます」


 零が低く言う。


「一回膝ついたら、次も膝つけって言われる」


 七瀬は黙る。

 正しい。

 でも怖い。


 裁判は、抽象じゃない。

 現実。

 銀行口座。

 時間。

 精神。


 国家の男が静かに言う。


「これは象徴です」


 一拍。


「あなた個人ではなく、“揺れ”を止めたい」


 七瀬は小さく呟く。


「制度で?」


「はい」


 夜。

 七瀬は配信をつけない。

 代わりに、四人でホワイトボードを囲む。


 想定シナリオ。

 謝罪文案。

 反論文案。

 法的リスク。


 零が言う。


「闘うなら、徹底的にやる」


 トウマが頷く。


「感情ではなく、論理で」


 国家の男が言う。


「記録を全て保存してください」


 七瀬はペンを握る。

 震えている。


「私、怖い」


 誰も否定しない。


「普通です」


 トウマ。


「正常な反応です」


 国家の男。


 零だけが言う。


「でも逃げないだろ」


 七瀬は顔を上げる。


 一拍。


「……逃げたくない」


 その夜遅く。

 彼女はカメラをつけた。


 告知なし。

 同接、瞬時に九十万。

 過去最高。


 コメントが流れ落ちる。


《どうした》 《また何か?》


 七瀬は封筒を机に置く。


「来た」


 一拍。


「法的措置、検討中」


 チャットが爆発する。


《やりすぎ》 《訴えられろ》


 七瀬は続ける。


「私は、名前を出してない」


 一拍。


「でも影響力があるから、ダメかもだって」


 トウマが別枠で同時配信。


「公共的議論と営業妨害の境界」


 一拍。


「曖昧です」


 国家の男は出ない。

 だが裏で拡散状況を分析。


 七瀬は言う。


「謝れば、楽かもしれない」


 一拍。


「でも、何を謝るの?」


 沈黙。

 九十万の静寂。


「“揺れを恐れる”って言ったこと?」


 一拍。


「それ、事実じゃない?」


 コメントが割れる。


《挑発するな》 《言論の自由》


 七瀬は続ける。


「私、闘う」


 零が裏で息を呑む。


「時間かかるかも」


 一拍。


「お金もかかるかも」


 彼女はカメラを真っ直ぐ見る。


「でも」


 一拍。


「制度で揺れを止めるなら、制度で揺らす」


 チャットが一瞬止まり、そして爆発する。


《支援する》 《やめとけ》


 トウマが静かに言う。


「法廷は、もう一つの配信です」


 一拍。


「公開の場」


 翌日。

 ニュースが報じる。


《人気配信者、法的措置に反論》


 世論が再び揺れる。


 擁護タグが急上昇。


言論を守れ


 だが同時に、


配信者の暴走


 対立が可視化される。


 スポンサーは静観。

 株価は微動。

 メディアは沈黙を保つ。


 圧は、まだ本格化していない。

 だが、戦線は引かれた。


 夜。

 四人が再び集まる。


 静かな決意。


 零が言う。


「戻れねえぞ」


「うん」


 トウマが言う。


「長期戦です」


 国家の男が言う。


「相手は資本と時間を持つ」


 七瀬は深呼吸する。


「私も、持つよ」


 一拍。


「視聴者」


 九十五万。

 同接はさらに伸びている。


 揺れは止まらない。

 制度が刃を向けても。

 むしろ、加速している。


 七瀬は小さく笑う。


「法廷、配信する?」


 零が吹き出す。


「さすがに無理だ」


 だがその冗談に、少しだけ空気が軽くなる。


 戦いは始まった。

 炎上でもなく、分断でもなく。

 制度との、真正面衝突。


 揺れは、次の段階へ入る。


 次章。

 実際の“訴状”。

 そして――

 仲間の誰かが、狙われる。


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