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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
世界は配信を見る

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家族線

 朝六時。

 七瀬のスマホが鳴り止まない。


 通知欄。


《七瀬 母》 《七瀬 実家》


 零がすぐに連絡してくる。


「見るな」


 だが、もう見ている。


 掲示板。

 地元の写真。

 ぼかされた家。


《この辺らしい》


 推測。

 だが十分。


 国家の男が即座に言う。


「法的措置可能です」


「間に合う?」


「拡散速度次第です」


 トウマは七瀬の表情を見る。

 彼女は無言。

 ただ、呼吸が浅い。


 スマホが震える。

 “母”。

 表示。


 七瀬の喉が詰まる。

 出る。


「もしもし」


 向こうの声は、思ったより明るい。


『あんた、またニュース出てるね』


 強がり。


「……ごめん」


『何が』


 一拍。


『こっちは平気よ』


 嘘だ、と七瀬はわかる。


『近所の人がちょっと聞いてくるだけ』


 “ちょっと”。

 その言葉が刺さる。


「家、特定されそう」


 沈黙。

 ほんの一瞬だけ、向こうが黙る。


『大丈夫よ』


 また強い声。


『あんたのほうが大変でしょ』


 七瀬は何も言えない。


 通話が切れた後、手が震えている。


 零が低く言う。


「家族は違うだろ」


 国家の男は既に動いている。


「プラットフォームへ緊急通報済み。投稿削除依頼提出」


「物理的危険は?」


「現時点では確認なし」


 トウマが静かに問う。


「配信、どうしますか」


 沈黙。


 もし今日、配信すれば。

 話題は家族。

 触れれば拡散。

触れなければ憶測。


 七瀬はソファに座る。

 顔を覆う。


「線、越えてる」


 誰に向けた言葉か、わからない。


 零が言う。


「やめるか?」


 それは初めての提案だった。

 逃げる、ではなく。

 守るために、止まる。


 トウマは否定しない。

 国家の男も、無言。


 七瀬はゆっくり顔を上げる。


「私がやめたら、止まる?」


 零は答えない。


 国家の男が事実を言う。


「保証はありません」


 やめても、残る。

 検索履歴。

 スクリーンショット。

 まとめサイト。


 沈黙。


「じゃあ」


 一拍。


「隠すしかないか」


 その夜。

 七瀬は配信をつける。

 タイトルはなし。


 同接、八十万。

 過去最高。


 コメントは荒れ狂う。


《家族守れ》 《自業自得》


 七瀬は真っ直ぐカメラを見る。


「家族のことは、話さない」


 一拍。


「触れないで」


 チャットがざわつく。


「私のことは、いくらでもいい」


 一拍。


「でも、関係ない人はやめて」


 トウマが別枠で言う。


「境界線の問題です」


 一拍。


「公と私の」


 七瀬は続ける。


「私が選んだ」


 一拍。


「家族は選んでない」


 沈黙。

 八十万の視線。


 零が裏で拳を握る。

 国家の男が拡散グラフを見る。


 徐々に、家族関連ワードの勢いが鈍る。

 完全には消えない。

 だが、勢いは落ちる。


 七瀬は続ける。


「揺れってさ」


 一拍。


「境界も揺らすよね」


 苦笑。


「でも全部は開かない」


 コメントが流れる。


《わかった》 《線はある》


 一部はまだ攻撃的。

 だが、全体のトーンが変わる。


 翌日。

 ニュースサイト。


《家族への攻撃に配信者が苦言》


 論調が変化。

 “被害”という言葉が使われ始める。


 国家の男が報告。


「世論は、家族攻撃に対しては敏感です」


 零が言う。


「さすがに引いたか」


 だが。


 トウマが静かに言う。


「一部は、引きません」


 事実。

 DM。

 匿名の脅し。


 “実家知ってる”。


 七瀬はそれを見て、スマホを伏せる。

 手が止まらない。


「怖い?」


 零が聞く。


 一拍。


「うん」


 初めて、はっきり言う。


 トウマが近くに座る。


「やめますか」


 もう一度。


 七瀬は考える。

 母の声。

 “こっちは平気”。


 あれは強がり。


「……引っ越してもらう」


 国家の男が即座に動く。


「支援制度を確認します」


 零が言う。


「金なら出す」


 七瀬は首を振る。


「私が出す」


 一拍。


「私の揺れだから」


 夜。

 母に電話。


「ちょっと引っ越そ」


 向こうが笑う。


『大げさよ』


「お願い」


 沈黙。

 そして、ため息。


『わかったわよ』


 小さな勝利。


 だが代償はある。


 七瀬は電話を切った後、崩れるように座る。


「これ、いつまで続くの」


 誰にともなく。


 トウマが答える。


「揺れが止まるまで」


 零が言う。


「止めるか?」


 七瀬は目を閉じる。

 長い沈黙。


「……まだ」


 一拍。


「止めない」


 国家の男が静かに言う。


「構造は一線を越えました」


 一拍。


「次は、より強い反発も起きます」


 実際。

 SNSでは新しいタグ。


家族に触れるな


 広がり始める。

 擁護だけではない。

 “線”を引く動き。


 七瀬は小さく笑う。


「境界、できた?」


 トウマが頷く。


「少し」


 完全ではない。

 だが、ゼロでもない。


 八十五万。

 同接はさらに増える。


 揺れは拡大している。

 痛みと共に。


 七瀬はカメラに向かう。


「私は続ける」


 一拍。


「でも、線は引く」


 その宣言は、弱くない。

 ただ、疲れているだけだ。


 次章。

 構造は、最後の圧をかける。

 “法的措置”。

 揺れを、制度で封じる。


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