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同接一万でダンジョンが確定する世界で、炎上した元トップ配信者が観測を操る  作者: 海狼ゆうき
世界は配信を見る

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過去形


 午前二時。

 零のスマホが震えた。


「……来た」


 七瀬の名でトレンド入り。

 だが今回は違う。


《七瀬 本名》 《七瀬 高校》


 検索ワードが、生々しい。


 零がリンクを開く。

 匿名掲示板。

 卒業アルバムらしき写真。

 ぼやけているが、面影はある。


 国家の男がすぐに確認に入る。


「削除依頼は可能ですが、拡散後です」


 トウマが低く言う。


「個人攻撃の段階です」


 七瀬は画面を見て、固まる。

 数秒。


「……あーあ」


 軽く言ったつもり。

 だが声がかすれる。


 投稿は続く。


《昔いじめてたらしい》 《性格キツかったって》


 証言と称する書き込み。

 真偽不明。

 だが刺激的。

 拡散。


 零が苛立つ。


「証拠ねえだろ」


 国家の男。


「過去は検証困難です」


 トウマが七瀬を見る。


「事実は?」


 沈黙。


 七瀬は椅子に座る。

 視線が落ちる。


「……キツかったのは本当」


 零が顔を上げる。


「いじめは?」


 少し間。


「いじめ、の定義による」


 部屋が静まる。


「無視したことはある」


 一拍。


「正しいと思って」


 トウマが目を閉じる。

 国家の男は何も言わない。

 零だけが吐き捨てる。


「ガキだろ」


「うん」


 七瀬は頷く。


「ガキだった」


 翌朝。

 ニュースサイト。


《人気配信者、過去に問題行動か》


 “か”で逃げる書き方。

 だが印象は残る。


 同接は、配信開始前から七十万待機。

 過去最高。


 七瀬は深呼吸する。


 逃げれば、確定する。

 黙れば、想像が膨らむ。


 彼女はカメラをつけた。


「おはよう」


 コメントが洪水のように流れる。


《説明しろ》 《最低》


 七瀬は真正面を見る。


「高校の話ね」


 一拍。


「無視したこと、ある」


 チャットが一瞬止まる。


「正しいと思ってた」


 一拍。


「今思えば、傲慢だった」


 トウマが別枠で同時配信を始める。

 彼は言葉を挟まない。

 ただ聞く。


 七瀬は続ける。


「いじめって言われたら、否定はしきれない」


 ざわめき。


「でも、暴力はしてない」


 一拍。


「でも、傷つけた可能性はある」


 コメントが割れる。


《開き直り?》 《認めた》


 七瀬の声は震えていない。


「謝る」


 一拍。


「当時の人が見てたら、ごめん」


 沈黙。

 七十万の静寂。


 零が裏で小さく呟く。


「逃げなかったな」


 トウマがゆっくり言う。


「過去は消えません」


 一拍。


「しかし、向き合うことはできる」


 七瀬は続ける。


「でもさ」


 一拍。


「過去が全部なら、人って更新できない」


 コメントが再び流れ出す。


《都合いい》 《成長はある》


 国家の男が分析する。


「否定と肯定が拮抗」


 七瀬は言う。


「今の私は、あの時と同じ?」


 問い。

 答えは視聴者に委ねる。


 チャットが揺れる。


《違うと思う》 《変わらない》


 数字が上下する。

 七十五万。

 七十万。

 七十二万。


 リアルタイムで評価が動く。


「揺れってさ」


 一拍。


「自分にも向くんだね」


 少し笑う。

 涙は出ない。

 強がりでもない。

 本音。


 トウマが続ける。


「完璧な過去を持つ者は、ほとんどいません」


 一拍。


「だからこそ、今が問われる」


 翌日。

 世論は二極化。


《誠実》 《やっぱ危険》


 スポンサーは様子見。

 だが撤退はしない。


 分散側フォーラムも揺れる。


《失望》 《正直でいい》


 同接は少し落ち、六十五万。

 それでも高い。


 夜。

 四人が集まる。


 七瀬は静かだ。


「終わり?」


 零が聞く。


 国家の男が首を振る。


「まだでしょう」


 トウマが言う。


「今日は個人」


 一拍。


「次は――」


 七瀬が言葉を引き取る。


「関係?」


 国家の男が目を細める。


「可能性は高い」


 七瀬はソファに倒れ込む。


「過去、怖いね」


 零が言う。


「今の方が怖えよ」


 トウマが静かに言う。


「あなたは、更新しましたか?」


 七瀬は天井を見る。

 一拍。


「……したい」


 その言葉は弱い。

 だが、嘘ではない。


 スマホが震える。

 新しいトレンド。


《七瀬 家族》


 零が画面を伏せる。


「来たな」


 国家の男が低く言う。


「個人から、私生活へ」


 七瀬は目を閉じる。

 深呼吸。


「全部、来るね」


 トウマが答える。


「揺れは、波紋を広げる」


 七瀬は小さく笑う。


「じゃあ、耐えるしかないか」


 だが、その笑みは少しだけ疲れている。


 次章。

 構造は、最も触れてほしくない場所へ。

 “家族”。


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