ひび
最初の“ひび”は、匿名の暴露だった。
《七瀬、裏でスポンサーと取引か》
証拠画像。
ぼやけたチャット画面。
『炎上は想定内です』
差出人不明。
拡散速度は異常に速い。
零が画面を睨む。
「偽造くせえ」
国家の男が拡大する。
「加工痕あり」
「じゃあ即否定」
だが、トウマが首を振る。
「早い否定は、火種になります」
七瀬は黙って画面を見ている。
コメント欄が荒れ始める。
《やっぱ計算?》 《炎上商法》
七瀬は静かに言う。
「否定する」
一拍。
「でも、感情的には言わない」
その夜。
七瀬は単独配信。
同接六十万。
「この画像、偽物」
画面共有。
拡大。
タイムスタンプの矛盾。
フォントのズレ。
国家の男が裏で技術的説明を整理。
七瀬が淡々と話す。
「炎上は想定内?」
一拍。
「そんな余裕ないよ」
笑うが、少しだけ疲れが見える。
コメントは割れる。
《信じる》 《でも怪しい》
トウマが続く配信で言う。
「疑いは自然です」
一拍。
「しかし、証拠なき疑いが連鎖すると、関係は崩壊する」
その言葉通り――
翌日。
Lattice内部フォーラム。
《七瀬は結局ビジネス》 《裏で手を組んでる》
分散側の一部ユーザーが揺れる。
零が苛立つ。
「内側だぞ」
国家の男が冷静に言う。
「分断の第一段階です」
七瀬はモニターを見つめる。
自分を守ってきた場所で、疑いの声。
胸が、少しだけ痛む。
夜。
四人会議。
「放っておく?」
零が問う。
トウマは考える。
「全てに反応すれば、疲弊します」
国家の男。
「しかし、無視は既成事実化のリスク」
七瀬がぽつり。
「信じてくれてた人が、迷ってる」
沈黙。
翌日。
七瀬はあえて、Lattice限定配信を行う。
主流ではやらない。
小さな場所で。
同接二十万。
「ここで話したい」
一拍。
「信じるかどうかは、任せる」
彼女は収益画面を一部公開する。
スポンサー履歴。
炎上期間中の損失。
「炎上は、痛いよ」
正直な数字。
コメントが静まる。
《思ったより減ってる》 《得してない》
七瀬は続ける。
「でもさ」
一拍。
「全部疑われるなら、揺れなくなる」
その言葉に、チャットが止まる。
「疑うのは自由」
一拍。
「でも、疑いだけで人を決めないで」
零が裏で小さく呟く。
「刺さるな」
トウマは別枠で短く補足する。
「分断は、信頼の摩耗です」
一拍。
「摩耗は、静かに進む」
数日。
暴露アカウントは沈黙。
だが代わりに、新しい噂。
《トウマ、政府と裏で接触》
今度は彼。
写真。
国家の男と話す姿。
角度は遠い。
だが事実。
零が笑う。
「事実混ぜてきた」
国家の男は動じない。
「公的会議です」
トウマは静かに言う。
「隠していません」
だがコメントは揺れる。
《やっぱ繋がってる》 《中立じゃない》
七瀬がその配信に乱入する。
「それ、私もいた」
画面分割。
三人並ぶ。
国家の男は出ない。
トウマが説明する。
「対話です」
一拍。
「敵対ではなく」
七瀬が続ける。
「揺れってさ」
一拍。
「壁作ることじゃない」
コメントが高速で流れる。
《でも信用は?》 《近すぎる》
零が珍しくカメラに出る。
「距離ゼロなら癒着」
一拍。
「距離無限なら断絶」
ぶっきらぼう。
「間で揺れるのが俺らだろ」
沈黙。
チャットが少し和らぐ。
だが完全ではない。
数日後。
分散側の古参配信者が声明。
《七瀬たちは変わった》
支持者の一部が離脱。
同接、五万減。
七瀬は数字を見る。
胸が締まる。
「減ったね」
トウマが言う。
「信頼は選別でもあります」
国家の男が補足。
「全員を維持することは不可能です」
零が言う。
「残ったやつが本物」
七瀬は首を振る。
「違う」
一拍。
「離れた人も、間違ってない」
その夜。
七瀬は配信で言う。
「離れてもいい」
コメントがざわつく。
「でも、また戻りたくなったら、来て」
一拍。
「ここ、閉じないから」
沈黙。
ゆっくりと流れるコメント。
《考える》 《今は距離置く》 《戻るかも》
分断は完全には成功しない。
だが、傷は残る。
四人が静かに集まる。
空気は重いが、壊れてはいない。
国家の男が言う。
「次は、おそらく――」
一拍。
「直接です」
零が目を細める。
「やっとか」
七瀬は深く息を吸う。
「分断、怖いね」
トウマが答える。
「信頼は、最も脆い」
七瀬は小さく笑う。
「でも」
一拍。
「まだ、揺れてる」
同接は五十万。
減ったが、止まらない。
ひびは入った。
だが、崩れてはいない。
次章。
構造はついに――
“個人の過去”を掘り起こす。
逃げ場のない場所。
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