表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
153/157

ポーランド侵攻 8

ポーランド共和国 スタニスワヴフ市


スタニスワヴフ市はポーランド南東部、いわゆるルーマニア回廊の端に位置する地域の中核都市だ。


都市の規模としては対して大きくなく、人口は10万人にもまるで届かない街というには大きいが都市と名乗るにはいささか規模が足りていない。


そんな田舎の小都市だ。


そしてその都市自身の小ささと、ルーマニア回廊の最奥という西部戦線から一番遠い場所に立地していることが幸いしドイツとの戦争の足音もまだまだ遠いものであった。


今日この日までは。


一日の始まりはいつもと同じだった。


流石に軍の動員で若い男の数は減っているものの、朝市はいつも通り開かれ多くの市民で賑わっていた。


朝市の喧騒で最初は市民達は気付かなかったが、ある男がふと違和感を覚えてあたりをキョロキョロ見回した。


どこからともなくブーンという重低音が聞こえてきたからだ。


「おい、なにか聞こえないか」


男は値切り交渉をしてパン屋の店主に話しかけた。


「ん?なんだ?別に何も聞こえ・・・ほんとだな。なんだハチでも飛んでやがるのか?」


男とパン屋の店主はそろって辺りを見回す。

まわりにいた何人かの客も二人の会話に釣られ、音の主をキョロキョロとさがす。


「おかあさん、な~にあれ?」


そんな中一人の少女が空を指差した。


母親にだっこされていたことで誰よりも目線が高かったから最初に気付いたのだった。


「あれは・・・、あれは飛行機だな。ひー、ふー、みー・・・。凄いな30機以上いるぞ。」


店の空き箱に登った店主が目を細め飛行機の数を数える。


「そうなのか。なんだ軍の飛行機か?なんだってこんなところに」


「さぁ・・・。だが前線が押し込まれているってラジオで政府が言ってたぞ。前線の飛行場から退避してきたんじゃねぇか?」


「ったく、なんだって俺たちが貧乏くじをひかなきゃならねぇんだ。英仏はなにをしてるってんだ」


『ほんとそうよねぇ』『ちげぇね』などとその場にいた市民は口々に愚痴る。


ポーランドは英仏とドイツの戦争に巻き込まれたという意識が市民達には強く、一向に動きが伝わってこない英仏軍の様相に苛立ちを覚えていたのだった。


「ん?ちょっと待て。だいぶ高度を落としてきてないか?」


空を見上げていた市民の一人がふと声をあげた。


「あぁ、ほんとだな。おかしいなこの周辺には飛行場など・・・」


そこまで言って店主は言葉をきった。


(いやいやそんなことが、いやそんなまさか)


店主は自分の目を信じれなかった。

いや信じたくなかった。


だがすぐに店主は嫌でも現実を受け入れざるえなくなった。


「ねぇ、おかあぁさん。あの飛行機の翼のマークってな~に?十字架みたいなマークね」


無邪気な少女の声が市民達に無情な事実を叩き付けのだった。


「畜生!あれはドイツの爆撃機だ!」「軍は何をやってるんだ!」


そこから朝市は混乱のるつぼとなった。


必死に頑丈な建物を探す者。

どう考えても間に合わないだろうに穴を掘り始めるもの。

家族のもとにいそいで帰る者。


静かな田舎の小都市は大騒ぎになった。


だがそうなっても警報の一つもならない。


当たり前だ。

そもそも警報を流すスピーカーがそもそも街になかったのだ。


こんな前線から遠い都市がいきなり爆撃されるなど、軍も政府も考えてなかったから設置などしていなかった。


迎撃機一機どころか、対空砲の一発も打ちあがらない中ゆうゆうとルフトバッフェの爆撃機は市民の前に姿を現す。


「なんて大きいんだ・・・」


その威容を目にした市民の口から自然とそんな言葉が漏れる。


堂々たる編隊を組んだルフトバッフェの4発爆撃機はその姿を誇示するようにスタニスラーフ市の上空を低高度でゆっくりと通りすぎる。


パンパン!


警察官だろうか。


ピストルか小銃を散発的に撃つ音が街に虚しく響く。


背一杯の反撃をする小火器の音は市民にむしろ自国の無力さを覚えさせるのだった。


だがそんな蟷螂の斧のような反撃が癇に障ったのだろうか。


数機の爆撃機の爆弾槽がゆっくりと開く。


「やばい!やつら何か投下するぞ」「おい、みんな伏せろ!」


前大戦で従軍したことがある元兵士だろうか。


中年の男性が声を張り上げる。


爆弾も砲弾も同じ爆発物である。


爆発物に対する最も基本的かつ有効な防御方法は地面、できれば少しでもいいからなにかのくぼみや影に伏せることだった。


市民達はその声を聞いて一斉に地面に伏せる。

自らの上に爆弾が落ちてこないよう、そこここで神に祈る声が小さく響く。


だが市民達のその悲壮な覚悟は幸運な形で裏切られる事になった。


ヒラヒラヒラ。


市民の目の前に落ちてきたのは手をあげ降参するポーランド兵士や、占領されたポーランド西方の都市や街のが写った写真であった。そしてその中には空爆で痛めつけられた都市の写真や綺麗な装備のままドイツ国内から撤退するフランス軍兵士の写真も混ざっていた。


そしてそれらの写真の裏にはポーランド語で1行だけこう書かれていた。


『次はない。英仏の為に死ぬのか?』


と。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この日ポーランド南東部の小都市は相次いでルフトバッフェの重爆撃機Do20の襲来を受けた。


まともな航空戦力が残っておらず(もっとも残っていたとしても武装はおろかそもそも劣速のポーランド戦闘機は追いつくことすらできなかっただろうが)、さして重要な戦略目標でなかったゆえに対空火器をろくに設置もしていないポーランドの小都市は低高度でのDo20の示威飛行に指を咥えざるを得なかった。


一連のルフトバッフェの示威飛行はこれまで自らは安全地帯にまだいると考えていたポーランド市民達に既に純然たる意味での安全地帯などポーランドには存在しないことを認識させる結果となったのだった。

スタニスワヴフに都市の名前を変更しました。

なぜ変更したか分かる方は分かるかと・・・笑

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
恐怖は人から人へ感染するからな
この勢いで戦術レベルの描写を続けると、児島譲の「◯トラーの戦い」レベルの超大作になるかと (あっちはさほど戦術レベルの戦いまではやっていませんでしたが) 作者様の方針なので全然良いですが
次が何時なんでしょうねぇ。 これは人里から逃げるの増えるな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ