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ポーランド侵攻 6

「なぜだ!なぜ英仏は動かん!」


モシチツキ大統領は外務大臣に思わず罵声を浴びせた。

その顔は怒りで真っ赤になっているが同時に目の下に炭坑夫の手と見紛うばかりの真っ黒な隈ができていた。


亡国の瀬戸際に追い詰められつつある国の大統領の責務にモシチツキは押しつぶされそうになっていた。


「・・・英仏からは英国大陸派遣軍が展開を終え次第、ドイツ西部に攻勢を仕掛けると」


「そんなもの、待ってられるか!もうすぐそこまで奴らは迫っているのだぞ!」


外務大臣の言葉を遮りモシチツキは大声をあげる。


「し、しかしですね!大統領も元帥もおっしゃっていたではありませんか!単独でも6か月は前線を持たせれると!」


叱責された外務大臣はたまらず声を上げる。


ポーランド外交部もただの無能集団なわけではない。

自国とドイツの戦力差を計算した上で動いていた。


6ヶ月。


それが軍部が国家指導部に提示したリミットだったのだ。


勿論これは前線をそのまま6ヶ月維持できるというものではない。

戦略的後退や遅滞戦闘を含めたものではある。


だが現実はポーランドにとって過酷なものになった。


防衛線は至るところでドイツ軍機甲部隊に食い破られ6ヶ月どころか1週間余りで前線は崩壊。


それどころか前線というものが今どこに位置しているのか、そんなことすらポーランド指導部は分からない状況にすらなっていた。


ドイツ空軍がいたる所をひっきりなしに爆撃し鉄道路線・幹線道路の往来はいたる所で不通。


敵の斥候部隊が国内深くに浸透しており、電話線もそこかしこで寸断。


それどころか無線通信用のアンテナすらドイツ空軍は見つけ次第攻撃してくる始末だ。


ポーランド軍も連絡将校や伝令兵を大量に派遣するなどして必死に状況把握に努めているが、全く追いつけていないのが現状だ。


(もっとも最近はまだ情報が早いがな)


そんなことをうんざりしながらモシチツキは思う。


戦線が押し込まれ首都と前線との距離が近づくにつれ、それこそ騎兵の伝令ですら前線の情報を持って帰って来れるようになった。


そうやって次第に解像度と鮮度が上がる情報はポーランド軍にとって絶望的なものばかり。


挙句、直近の報告ではドイツ軍の先鋒がワルシャワから40キロあまりの地点にまで進出してきているという情報まで入ってくる始末。


そして乾坤一擲行った反攻作戦もあえなく失敗。


モシチツキを初め国家指導部が焦りを募らせるのも仕方ないことだった。


「それは軍の動員が完了していればの話だ!我が軍は未だに7割ほどしか動員が完了しておらん!これで一体どうやって戦争しろというのだ!」


そうやって顔を真っ赤にし反論するのはシミグウィ陸軍元帥だ。


ここで普通なら『軍の動員を完了するのは軍部の責任のはずだ!』と反論が来るところだが、元帥の言葉には続きがあった。


「そもそも君たち外交部が情けないからこんな事態になったのでないか!諸君らだぞ!動員を止めろ言ったのは!何が英仏が仲介してくれるだ!なんだこの様は!」


外務大臣に反論の隙間を与えず、元帥は捲し立てる。


元帥がそう言うのも無理がない事情がこの時のポーランドにはあった。


約1ヶ月前『ダンツィヒか戦争か』とちょび髭総統がぶち上げると同時にポーランドは軍の動員を開始。


同時期に英仏も軍の動員を開始し、対ドイツへの備えを足並み揃えて開始した。


一旦は。


だがドイツとの戦争回避を望む英仏は自らの軍の動員を部分的に中止すると同時に、ポーランドにも軍の動員を中止するように通告してきたのだ。


英仏の言い分は『ちょび髭総統を不用意に刺激してくれるな』というものであった。


当然ポーランドは反発したが、『流石にちょび髭総統もドイツ国民も素面で3国を敵にまわし開戦する気ににはまずならないだろう、むしろ下手に緊張を高めて血迷わせた方が危ない』という英仏の見解に折れる形で動員を中断したのだ。


多少の持久戦はできても、英仏の協力がなければまず敗戦を免れ得ないポーランドとしては危険な賭けと分かりつつも呑まざるを得なかった。


他国に安全保障を頼らざるを得ない中小国の悲しさと言えよう。


だがポーランド政府・軍部とて馬鹿ではない。


ドイツ国防軍が軍の動員を全く緩めない事。


ルフトバッフェ(と思わしき)偵察機の領空侵犯が激増した事。


挙句には国境付近に大規模にドイツ軍が集結しつつある事。


これらの情報を諜報組織や軍の偵察部隊から入手したポーランドは軍の動員を8月上旬という比較的早期の段階で再開しようとした。


だが、ここでポーランドの前に立ちはだかったのはまたしても同盟国である英仏であった。


『交渉の邪魔をするな。邪魔をするようなら安全保障を取り下げる』


先の戦争のトラウマが残る英仏は、ドイツが明らかに戦争準備を開始していることを理解しつつも戦争回避を優先したのだ。


(所詮は他国(ひとごと)ということか)


モシチツキはそんなことを自嘲気味に思う。


ポーランドにとって軍が準備不足な状態での『戦争回避の失敗』は国土を戦場にされ蹂躙されることに他ならない。


とてもじゃないが戦争回避の『可能性』と天秤に載せられるものではない。


だが立場が変われば見方が変わる。


マジノ線という絶対防壁に守られているフランスと、海とそれを支配するロイヤルネイビーに守られているイギリス。


その2つの大国からしたら『戦争回避の可能性』と『ポーランドが征服される可能性』というのは天秤に載せられるものだったのだろう。


戦争の回避に失敗したとしても、英仏が国土を焼かれることはない。


英仏も軍の動員は遅れているようだが、流石のドイツも現状2正面で攻勢をかける余力はない。

ドイツの体勢が整う頃には英仏も動員が完了しており、そうなったらドイツに勝ち筋はない。


モシチツキには英仏の思考が手に取るように分かった。


(そしてその結果(ツケ)はポーランドが現在進行形で払っているのだ)


目の前で責任のなすり付け合いをする軍のトップと外務省のトップという救いようのない光景を見ながら、そうモシチツキは思った。


「元帥。君の言いたいことはよくわかる。私も全くもって同じ気持ちだ。だが、現実を見なければならない。我々の当初の防衛計画は破綻した。次の策に移るより他はないのではないか?」


「・・・それは国土の大半を明け渡すことになるのではないですか?」


そう真っ青な顔をして外務大臣が口を挟む。


「その通りだ大臣。そしておそらく我が軍の大半の野戦軍を失うことにもなる」


元帥は外務大臣を睨みつけながら答えた。


ポーランド首脳部もバカではない。


英仏の圧力により軍の動員や配置などの戦争準備は遅れをとったが、戦争遂行のためのプランは練るには練ってあった。


ポーランドの産業はもともと西武地域に集中しており、ドイツの攻勢を国境付近で押し留めるのが戦争遂行を考えた上でもベスト。


第一次世界大戦と同様の塹壕戦になると踏んでいたポーランドは、その考えに従い軍を国境に薄く伸ばして配置していたがその防衛が失敗した場合のことも一応考えていた。


それは南東部国境地域(ルーマニア回廊)への全軍の退避と遅滞戦闘。


前線の長さを圧縮することで防衛効率をあげ、さらには第3国のルーマニア経由で英仏の支援を受けつつなんとか英仏のドイツへの攻勢まで国を持たせるというもの。


当初のプランでも消極的に過ぎ、あまり良いものではなかったが現実はさらに過酷だった。


現状、各所で様々な部隊が連絡路を絶たれ孤立してしまっており、それらの部隊の内ほとんどはそのまま敵の包囲下に取り残され殲滅されることになるだろう。


そしてそもそも遅滞戦闘、つまり撤退戦というものは過酷を極めるというのは古今東西を問わない軍の常識である。


特に敵の方が機動力に優れている場合だと尚更だ。


今まだなんとかドイツ軍に組織だって抵抗している部隊も、果たしてどの程度がルーマニア回廊に引き直す防衛線に到達できるのか未知数といったところであった。


(だが、他に選択肢がない・・・か)


碌な結果にならなさそうな事はモシチツキもポーランド首脳部も皆薄々分かっていたが、現実問題としてポーランドに他に軍事上の選択肢はほぼないに等しかった。


「だが他に選択肢もあるまい。元帥。全軍に命令を通達してくれ。我々指導部も本日付でワルシャワから退避する。」


モシチツキは暗澹たる気持ちでそう閣僚に告げるのだった。






投稿ミスりました。笑

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