融資 (ep111として挿入します )
ep111として途中挿入します。1週間を目処に移動します。
「それではよろしく頼む」
「承知いたしました。当家はちょび髭ファンドに5000万マルク出資させて頂きます」
総統官邸の貴賓室で二人の男がとある件での合意を約して握手をする。
だが二人の男の表情は対照的であり、片方は満面の笑みを浮かべているのに対しもう片方はどこか強張った笑顔を浮かべていた。
いうまでもなく満面の笑顔を浮かべているのは俺の方である。
そしてやや強張った笑顔を浮かべているのはロスチャイド=ウィーン家の当主であった。
「君と、君の一族。ひいては君の民族のライヒへの貢献はライヒ市民にも広く受け止められるだろう。いやぁ実に良いことだ!」
「・・・そう願っております。では私はこれで」
そう言うとただでさえぎこちなかった笑顔をさらにぎこちなくさせ、当主は部屋を出ていった。
「閣下。よろしかったのですか?ユダヤ系の出資を受け入れて」
我慢できずといった様子でヒムラーが口を挟む。
「そうです閣下!ユダヤ系の金を受け入れてしまっては、結局ライヒがまたしもユダヤに牛耳られることになりませぬか!」
ゲッペルスもヒムラーに同調して意見してくる。
普段足並みを揃えることがあまりないこの二人もちょび髭党の根本に関わる事態とだけあって物申さずにはいられないようだ。
「ふむ、どうやら諸君は出資と借金を取り違えているようだな。これはまるで違うものだぞ」
「「違うもの・・・ですか」」
見事にゲッペルスとヒムラーの言葉がハモる。
「あぁ、そうだ。諸君らもウィーン家当主の顔を見ただろう?あれが何よりの証拠だ」
(やれやれこういう時だけは見事に波長が合うな君らは)
どこかデジャブを感じながら俺はそう思った。
だが彼らが戸惑うののも無理がない事情が今回の件にはある。
今回の件はライヒの外貨不足を補う一手として、俺はシャハト大臣と作り出したものだ。
元々構想はあったのだが、先月起きた『水晶の夜事件』をキッカケにロスチャイルド家に突きつけたのだ。
彼らに突きつけた提案はざっくり言うと『ライヒ国内のユダヤ系市民の権利を守りたければ我々に協力しろ。』というものである。
『水晶の夜事件』を収束させるにあたって俺はかなり強くライヒ内の過激派を取り締まった。
それこそちょび髭党内で軋轢が生まれかねないほど強く取り締まったのだ。
その結果、多くのユダヤ系商店やユダヤ系の市民の財産は守られた。
だがその反面、『あぁ、ちょび髭総統も結局ひよるのか』という俺の独裁者としての求心力の低下も同時に起きてしまうこととなった。
軍や穏健派からの評価は上がったから致命的な痛手ではないものの、俺の最も強固な支持母体を揺るがしてしまう一件となり何らかのテコ入れをしたいところだったのだ。
そこで俺が考えたのは『身内を守ってもらった感謝をカタチにしてもらおう』という碌でもないジャイアニズムだ。
あまりのジャイアニズムにシャハト大臣、ノイラート大臣は渋い顔をしたが俺は押し通した。
シャハト大臣を動かし、ロスチャイルド=ウィーン家に強引にコンタクトを取らせた。
当然交渉は難航した。
俺は知らなかったのだが、ウィーン家はそもそも金がなかったのだ。
これも当たり前だ。
ウィーンに拠点を置いていることから察せられる通り、ウィーン家はオーストリア帝国のハプスブルク家と密に取引をしていた。
だが、その当のハプスブルク家は第一次世界大戦の敗戦で国を追われ返済能力を喪失。
ウィーン家は膨大な損害を抱える事になったのだ。
そんなウィーン家にライヒが必要とする膨大な資金がある訳なかった。
だがそこで引き下がらないのがちょび髭総統である。
『自分に金がないなら身内から金を借りてこい』という〇〇〇金融伝の真っ青な理屈をつきつけた。
ロスチャイルド家は国際金融資本というだけあり各国に身内を持っている。
パリ家、ロンドン家がその典型的なものだ。
俺はその辺りの身内から金を引っ張ってくるように仕向けたのだった。
要求した金額は1億マルク。
ちょうどフォルクスワーゲン=ヴォルフスブルク工場の建設費用の半分程の金額となる。
彼らからしても出せないことはないが、そこそこ太い金額。
もちろん話はすんなりと前に進まなかったが、皮肉にもここで生きてきたのは彼らユダヤ系の国際ネットワークだった。
『ようやく迫害が収まってきたところなのに、また迫害が再燃しかねないことは勘弁してくれ』と、何処からともなく話を聞きつけたライヒ勢力圏下のユダヤ系実業家がロスチャイルド家に直談判したのだ。
それからかなりユダヤ社会の中でもすったもんだがあったらしいが、最終的にライヒ勢力圏内のユダヤ系実業家達とロスチャイルド家が投資金額を折半することに落ち着いた。
献金ではなく投資という体裁をとっていたこともロスチャイルド家の背を押す材料となった。
今回俺が立ち上げた『ちょび髭ファンド』はフォルクスワーゲンなどの民需企業に分散投資するファンドだ。
基本的には足りない運転資金をユダヤ系に融資させようという思想ではあるが、一応彼らも金を出しやすい様にある程度仕組みづくりをしている。
利回りはお友達価格の利回りとなっているが、『出資を受けた通貨で利益を還元し、10年後には全額返済する』という条項を設けておりパリ・ロンドンのロスチャイルド家にも一応の配慮をしている。
(まぁ、彼らも善意の融資であるわけもないがな)
重ねて言うがウィーン家には金がなかった。
金がない金融屋などボールがないサッカーと同じだ。
最早お家取り潰しの瀬戸際に彼らはいたのだ。
本来であればパリ・ロンドンのロスチャイルド家が手を差し伸べることないどない。
彼らとて無限に資金があるわけでもないし、彼らにとっての敵国に融資し資金に行き詰ったウィーン家を救う理由など何処にもなかった。
だが俺が絡んでくるとまた話は変わってくる。
ちょび髭総統が絡んできたことで、ウィーン家の問題からロスチャイルド家全体・ユダヤ系ヨーロッパ人全体への話にことが大きくなってしまったのだ。
ウィーン家はこのチャンスに飛びついた。
自らのお家の存続をユダヤ人全体の問題とすり替えて動くことができるのだ。
彼らにとっては一石二鳥のようなものだろう。
(そういう意味でいうと、当主のあの表情は演技の可能性が高いわな)
ウィーン家の当主は渋い顔をしてはいたが、相手は海千山千のロスチャイルド家だ。
ちょび髭党のお偉方面々の前では引き攣った笑顔を浮かべておくくらいが丁度いいと考えたとしてもおかしくない。
「ですが、閣下。ユダヤ系資本を間接的ではありますが国策企業に入れることになります。よろしいのですか?」
そう口をさらにはさむのはゲッベルスだ。
今回の一件を上手く宣伝工作しなければならない立場にあるものとして気になるのだろう。
普段より食い下がってくる。
「あぁ、問題ないぞゲッベルス。断言しよう。ビートルは間違いなくヒットする。奴らに融資させた金を返せなくて困ることはまずない。」
(どう転んでも・・・な)
と、俺は心の中で付け加えながらゲッペルスに答える。
今回のロスチャイルドに持ち掛けた出資話だが、まぁどう転んでも俺に負けはない。
ビートルが名車なのは歴史が約束している。
あとはそれを売りさばく市場があるかだが、これから平和が続けば今後10年内に間違いなくライヒ経済は大きく拡大をしている。
同盟国であるイタリアのリビア油田が本格稼働するだろうしライヒの勢力圏ではないが中東の石油の開発も始まる。
目下研究中の矮性小麦の品種改良も完了し『緑の革命』がおこるだろう。
燃料価格の下落と、食料価格の下落。
この二つの人類文明にとってもっとも根本的な支出が減るということは、富の再分配がまともな社会においては市民の可処分所得拡大を意味する。
ビートルの市場は今の比ではない規模に拡大すること間違いない。
そして、『もし』平和が続かなかった場合。
その場合は勿論返済の無期限延期をする。
ロスチャイルド家はライヒに返済させるために英仏政府を巻き込むだろうが、その2国と戦争するのだ。
貸金や融資というものは取り立てることが出来て初めて成り立つ。
ここでアメリカ政府が絡んでくるとややこしいが、今回の話はパリ・ロンドンのロスチャイルド家までということで話がとまっている。
アメリカが出張ってこないのであればどうとでもなるだろう。
「閣下がそうおっしゃるであれば・・・。分かりました。国民には私がうまい具合に宣伝いたします」
「うむ。ゲッペルス、任せたぞ」
かくしてライヒは貴重な外貨を手にするのであった。
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『ちょび髭ファンド』これは世にも奇妙で悪名高いファンドである。
一時よりはマイルドになったとはいえ、反ユダヤ主義を掲げるちょび髭総統にユダヤ系資本が出資するという非常に不可思議な構図のものだ。
もっとも、実態としては投資というよりユダヤ系市民・企業・商店に対する踏み絵の性格が強く、実際ちょび髭ファンドに出資した者は『ライヒ市民の一員』として遇されるようになった。
この辺りはゲッペルス宣伝大臣が非常に上手く世論を誘導しており、最終的には額の大小はあれど多くのユダヤ系市民がちょび髭ファンドに出資することになったのだった。
ちょび髭ファンドに出資したことを証明する証明カードが証券とは別に当初から用意されていたことを考慮すると、ちょび髭ドイツの資金集めと同時に踏み絵の役目も初めから目的になっていたと推察されている。
史実では水晶の夜事件の後、ユダヤ系資本からの資産没収が激しさを増します。ちょび髭ファンドは本作において資産没収を実施しないことで不足する資金を補うために立ち上げられました。
なのでそこまでちょび髭ファンドの実施で史実よりライヒが資金的に助かる訳ではありません。
ちょいプラくらいの想定です。




