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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
二章 画龍点睛のフロストバーン

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8/26

8話 踊る来訪者

さて。長いようで短かった二ヶ月の準備期間はあっという間に過ぎ去り、遂に剣舞祭の本番の日がやってきた。


「ちゃちゃっと優勝しますか!!!」


アタシは宿泊していた宿の鏡の前で身だしなみを整え、ニヤリと不敵に笑う。

背中にゲヴェニアを背負い、アタシは意気揚々と熱気に包まれた王都の大会会場まで足を運んだ。



◇◇◇◇◇



大会のルールは至って簡単。

特設された巨大な舞台の上で一回の演技をして、それを数人の審査員が採点。その最高得点を競うだけだ。純粋な技術と、どれだけ観客を魅了できるかの勝負である。


「13番、ローズ=アーゼリアさん。出番です」


係員の声が響く。

その号令と共に、アタシは堂々とした足取りで、無数の観客が見守る舞台の中央へと進み出た。


大きく深呼吸をして、背中の鞘から銃剣ゲヴェニアをゆっくりと引き抜く。白銀の美しい刀身が日の光を反射し、会場から感嘆のどよめきが漏れた。


「......さあ、行くわよ」


静寂に包まれた会場の中、アタシはアーゼリア家に伝わる伝統的な剣の型を披露し始めた。


最初は静かに、無駄のない流れるような美しい足捌きと太刀筋で観客を惹きつける。

だが、アタシの剣舞はただのお上品な舞で終わるつもりはない。


カチャッ、とゲヴェニアのボルトを引き、予め装填しておいた魔弾を薬室に送り込む。

そして、鋭い踏み込みで剣を振り抜くと同時に、引き金を引いた。


ガァァンッ!!!!


銃口から弾が射出されることはない。代わりに、行き場を失った魔弾のエネルギーが排熱口から青白い炎となって勢いよく噴き出し、強烈な反動となってアタシの斬撃を爆発的に加速させた。


「......ッ!」


目で追えないほどの神速の連撃。空を斬る鋭い風切り音に、リズミカルに重なる銃の重低音。

アタシが舞うたびに、斬撃の軌跡には青白い魔力の残滓が美しいリボンのように尾を引き、舞台の上で弾ける火花と轟音が、一つの強烈な音楽のように会場を支配していく。


ただの剣術でも、ただの魔法でもない。

実用一辺倒だったアーゼリア家の剣術が、ゲヴェニアの規格外な推進力と合わさることで、誰の目にも焼き付く最高に派手で豪快な『剣舞』へと昇華されていた。


最後の型。アタシは空高く跳躍すると、空砲の反動を利用して空中で鋭く身を翻し、舞台の中央へと音もなく着地して、ピタリとゲヴェニアの切っ先を止めた。


一瞬の静寂の後。

アタシの演技が終わったことを理解した観客席から、地鳴りのような割れんばかりの大歓声と拍手が沸き起こったのだった。



◇◇◇◇◇



アタシの完璧な演技に対する、あの地鳴りのような歓声。

誰がどう見ても、今回の剣舞祭の主役はアタシだった。やり切った心地よい疲労感と共に、アタシは自信満々で大会議事堂の前に張り出された結果発表の特大ボードを見上げた。


そこにはもちろん、堂々たる一位の欄にアタシの名前が──────ない。


「......は?」


思わず素っ頓狂な声が漏れた。

目をこすってよく見ると、一位の欄には全く見覚えのない、おそらく何処かの権力者の子息であろう名前が『満点』という露骨なスコアと共に輝いていた。

そして、アタシの名前である『ローズ=アーゼリア』は、そのすぐ下の二位。点数は、一位からわずかに1点だけ低いスコアに調整されていた。


信じられない思いで周囲を見渡すと、掲示板を見に来ていた観客や他の参加者たちから、ヒソヒソと囁き合う声が聞こえてきた。


「あーあ、あの娘の剣舞、めちゃくちゃ凄かったのにな」

「仕方ないさ。また『あそこ』の息がかかった奴が優勝に決まってただろ」

「点数だけ競ってるように見せかけて、結局は上層部の機嫌取りの場だからな。可哀想に」


周囲に漂うのは、同情と諦めが入り混じった『またやったか』という空気。


つまり。


「......出来レースじゃない!!!!!!!!」


腹の底から湧き上がったアタシの純粋な怒りの声が、ざわついていた掲示板の周りに小さく、けれど鋭く響き渡った。


「......お怒りはごもっともです」


背後から、淀んでいた周囲の空気を一変させるような、静かで、しかし確かな威厳を持った声がかけられた。


振り返ると、そこには豪奢な金糸の刺繍が施された外套を羽織る、明らかに只者ではない人物が立っていた。周囲の観客や、他の参加者たちが弾かれたように道を開け、青ざめた顔で畏まって頭を下げているところを見るに、間違いなくこの国の『要人』だ。


その要人は、怒気を放つアタシの鋭い視線を受け止めても全く怯むことなく、むしろ深く感動したような、あるいは奇跡を目の当たりにしたような熱の籠もった眼差しで、アタシの背中にある『銃剣』を真っ直ぐに見つめていた。


「五百年前。偉大なるイーシア様の残された言い伝えが、本当に来るなんて。......私たちとしても驚きです」


「......え?」


突然紡がれたその名前に、アタシは振り上げていた拳の行き場を失い、ぽかんとしてしまう。

イーシア様? この人が言っているのは、あのアーゼリア家の先祖の親友だったっていう、五百年前の王女様のこと?


要人はアタシの戸惑いなど気にする様子もなく、周囲の目があることすら忘れたかのようにその場に静かに片膝をついた。そして、まるで神話に登場する伝説を前にしたかのような、最上級の敬意と恭しさを込めてこう告げたのだ。


「ようこそ、”ゲヴェニア”を持ちし新時代の英雄様。......王と、ヴァイドヘイム全土が、貴女の来訪をお待ちしておりました」


出来レースへの怒りも、理不尽な大会結果も、その一言で完全に頭から吹き飛んでしまった。


どうやら、アタシがわざわざ茶番に付き合って優勝し、王様に謁見の権利を勝ち取る必要なんて、最初からなかったらしい。

この国の中枢は、五百年もの間ずっと。アタシの背中に眠るこの『ゲヴェニア』と、それを継ぐ者が現れるのを、確かな伝説として待ち続けていたのだから。



◇◇◇◇◇



要人に声をかけられてからの展開は、文字通り嵐のようだった。

大会会場からあれよあれよという間に豪華な馬車に乗せられ、王都の中央にそびえ立つ荘厳なヴァイドヘイム城の奥深く、一般人では一生立ち入ることのないような豪奢な謁見の間へと通されたのだ。


そうして、アタシはいきなりこの国のトップである王様の目前に立たされている。


......流石に少し緊張するわね。この状況は


先ほどの大会での怒りはどこへやら。ふかふかの絨毯の上で、アタシはゲヴェニアを背負ったまま居住まいを正した。

玉座に座る王様は、威厳に満ちた白髭を蓄え、いかにも長きにわたってこの大国を治めてきたというような貫禄に溢れていた。だが、その瞳には警戒ではなく、深い親愛と敬意が込められているのがわかる。


「......よくぞお越しになった。ゲヴェニアの持ち主、ローズ殿」


低く、よく通る声で王様が口を開く。


「五百年前の盟約により、我がヴァイドヘイムは新時代の英雄の来訪を歓迎する。......さて、何を知りたいのだ? 我々で力になれることなら、何なりと申し付けよ」


あまりにも話が早くて助かる。王様の方から本題を振ってくれたことに内心で感謝しつつ、アタシは単刀直入に尋ねた。


「あの、この近くに『切り断つ山々に囲まれた祭壇』......それも、極寒の地にある場所をご存知ありませんか?」


その質問を聞いた瞬間、王様はハッとしたように目を見開き、そして深く考え込むように顎髭を撫でた。


「切り断つ山々に囲まれた祭壇、か。......なるほど。お主が探しているのは、かつての龍の信仰にまつわるものかもしれないな」


「龍の信仰......?」


「うむ。五百年前の戦禍よりもさらに昔、この北の地で崇められていた古い信仰だ。......もしや、お主が幻視したというその場所は、『龍の(きざはし)』かもしれん」


龍の階。

その荘厳な響きを聞いた瞬間、背中のゲヴェニアが呼応するように微かに脈動したのを感じた。間違いない、それがアタシの探している第一の目的地だ。


「そこは今、どうなっているんですか?」


「遥か昔に吹雪の奥深くに閉ざされ、今はもう誰も寄り付かない危険な霊峰となっておる。だが......英雄の歩みを止める理由にはならんだろう」


王様は玉座から立ち上がると、傍らに控えていた文官に向けて力強く命じた。


「今すぐ、城の学者に龍の階までの地図を書かせよ。......ローズ殿、それを持っていって、お主の旅に役立てるがいい」


「......! ありがとうございます、王様!」


アタシは満面の笑みで深く頭を下げた。

大会の理不尽な結果なんてどうでもよくなるくらい、最高の情報とサポートを手に入れたのだ。


『龍の階』──────。


そこにどんな英雄と、どんな剣が眠っているのか。アタシの胸は、未知なる冒険への期待で高鳴っていた。

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