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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
二章 画龍点睛のフロストバーン

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7話 ロマンこそ最大の武器

城門で衛兵に締め出されてからというもの、アタシは切り替え早く町へと繰り出し、酒場や広場で手っ取り早く情報を集め回った。


結果として判明したのは、この平和ボケした国で王様に直接お目通りを願うなんて、ただの平民には「大会で優勝する」くらいしか現実的な方法がない、ということだった。


「......まあ、他の方法がないわけでもないけどね」


案内人の一人が冗談半分に教えてくれた『その他の方法』は、この国でとんでもない大罪を犯して、処刑される瞬間に遠目から王様の顔を拝む......なんていう、ロマンの欠片もない代物だった。さすがにそれじゃあ、アタシの首が飛んで歴史の闇に埋もれて終わりだ。


「自分でも優勝できそうな大会となると、かなり限られるわね」


アタシは近くの掲示板に貼られた祭典の告知を眺め、頭の中で候補を整理する。


──────剣戟祭。簡単に言うと、刃を潰した木刀を使ったガチの対人戦。


──────剣舞祭。剣を振るう所作の美しさや、魔力の演舞を競うもの。


──────歌唱祭。純粋に歌の上手さを競うもの。


「......歌唱祭は、さすがに畑違いにも程があるわね」


アタシがこの喉を披露したところで、せいぜい酒場の酔っ払いを黙らせるのが関の山だ。


そうなると、武芸にまつわる二つのどちらか。一番直近で開催されるのは、今から二ヶ月後に行われる『剣舞祭』だった。

アタシの剣は親に叩き込まれた実戦用だけど、そこにアーゼリア家の伝統的な型を乗せれば、演舞としても十分に見栄えはするはずだ。


「よし。とりあえず、二ヶ月後の剣舞祭。これで優勝して王様に会いに行くのを、当面の目標にするかな」


不敵に笑い、アタシは掲示板を背にして歩き出した。

二ヶ月。ただ待つには長いが、この国の流儀を学び、アタシの剣を『見せるための技』へと調整するには丁度いい時間だ。


退屈だった日常に、明確な『攻略目標』が現れた。

アタシの胸の奥は、二ヶ月後に待ち受ける華やかな舞台への期待で、早くも熱く疼き始めていた。



◇◇◇◇◇



「......というわけで、今はダンジョンの前にいるってワケ」


王都の郊外、鬱蒼とした森の奥深くにある薄暗い洞窟の入り口。アタシは、澱んだ魔力が漂うその危険な穴を見下ろしてニヤリと笑った。


いくら王様に謁見するためとはいえ、二ヶ月間も大人しく剣舞の型ばかり練習し続けるなんて、アタシの性分からすれば退屈すぎて気が狂ってしまう。だから、手っ取り早くその鬱憤とストレスを発散させるために、こうしてモンスターが跋扈するダンジョンへと一人で足を運んだのだ。


それに、ここに来た理由はただのストレス発散だけじゃない。


「アンタの本当の使い勝手、実戦でしっかり確かめさせてもらうわよ」


背中に背負っていた『ゲヴェニア』を専用の鞘から引き抜き、その特異で重厚なフォルムを目の前で構える。

美しい白銀の刀身に、複雑な銃の機構が組み込まれた、始まりの銃剣。


──────銃剣というカテゴリの武器は、初心者が扱うにはあまりにもピーキーすぎる。


斬撃の遠心力、発破の反動、そして魔力の排熱。それら全てのタイミングを完璧に制御しなければ、真価を発揮するどころか、隙だらけの鉄屑に成り下がる。

でも、それは裏を返せば。使い手の洗練された技術と魔力操作に比例して、どこまでも青天井に力を発揮してくれる、最高にロマン溢れる武器だということだ。


小さい頃から手の皮が擦り切れるほど叩き込まれてきた、アーゼリア家の剣術。それがこの神代の遺物と合わさった時、どんな威力が出るのか。


「......とにかく、使ってみようじゃない」


アタシはズシリと重い銃剣を片手で軽々と振り回して肩に担ぐと、未知の獲物たちが待ち受けるダンジョンの暗闇の奥へと、一切の躊躇いなく足を踏み入れた。


薄暗いダンジョンの浅い階層。奥から漂ってくる魔物たちの生臭い気配を感じながらも、アタシは焦る事なくゲヴェニアの細かな機構をじっくりと観察していた。


「......これ、魔弾の作り方が普通の銃剣と全然違うのね」


アタシが知っている現代の一般的な銃剣は、そもそも使用者に合うように魔弾の構成データが初めから術式として組み込まれている。使用者は特定の場所に手をかざすだけで、自分の魔力を元手に、カチャリと着脱可能なマガジンへと自動で魔弾が充填されるという親切なオートマチックの仕組みだ。


でも、この銃剣ゲヴェニアは、どうやら完全なマニュアル仕様らしい。

あらかじめ用意されたデータなんてない。自分自身の魔力と感覚だけを頼りに、この銃の規格にピタリと合う魔弾を、ゼロから練り上げないといけないということだ。


「しかもこれ、マガジン式じゃない。......上から押し込むクリップ装填なの?」


機関部を覗き込み、そのクラシックすぎる構造に思わず笑みが溢れる。なんてピーキーで、なんて手のかかるじゃじゃ馬なんだろうか。

だが、その難しさが逆にアタシの職人魂と剣士としての闘争心を熱く焚きつける。


アタシはゲヴェニアの装填口に手を添え、目を閉じて大体の規格と魔力伝導の仕組みを頭の中で探った。

すると、言葉はないけれど。背中を預けた沈黙の相棒から、微かな魔力の脈動と共に、最適な魔弾の『設計図』が直接脳内に共有されてくるのを感じた。


「......なるほど。そういうことね」


アタシは口角を上げ、共有されたイメージの通りに自身の魔力をギュッと圧縮して成形する。

ほんの数秒。アタシの手のひらには、青白い魔力の光を帯びた八発の魔弾が、美しいクリップ状に連なって見事に生成されていた。


カチャッ、ジャキィィンッ!


生成した魔弾のクリップを上部から押し込み、勢いよくボルトを引いて初弾を薬室へと装填する。

重厚な金属音が薄暗いダンジョンに反響し、それと同時に、獲物の匂いを嗅ぎつけた異形の魔物たちが、唸り声を上げて暗闇から姿を現した。


「さあ、肩慣らしと行こうか。......振り落とされないようについてきなさいよ、ゲヴェニア!」


アタシは装填したての銃剣を構え、一切の恐怖を感じることなく、獲物たちの群れへと豪快に飛び込んでいった。



◇◇◇◇◇



ズドンッ!!!! と、空気を震わせるような重低音がダンジョン内に轟く。

魔弾の推進力を利用した一閃が、分厚い装甲を持つ巨大なモンスターの身体を、まるで紙切れのようにあっさりと両断した。


「......これは、凄い」


飛び散る魔物の残骸を前に、アタシは思わず感嘆の息を漏らした。

世間一般に出回っている現代の銃剣に比べるのが烏滸がましいほど、一撃の『出力』が桁違いに高いのだ。これだけ無茶な斬撃と排熱を連続で繰り返しているのに、刃こぼれ一つ、歪み一つ生じない圧倒的な耐久性。

どんなに荒っぽく扱っても、まるで壊れる気がしない。


──────流石、銃剣の始祖ってわけね。


ピーキーで手のかかるマニュアル仕様のじゃじゃ馬だが、アタシの剣技と魔力にどこまでも限界なく応えてくれる、最高の相棒だ。


「よしよし。これなら、あの剣舞祭でもとびきり派手な演舞ができそうじゃない」


アタシは満足げにゲヴェニアの刀身についた汚れを軽く払い、背中の鞘へとカチャリと納める。

ついでに、倒したモンスターたちから金になりそうな素材をちゃっかりと剥ぎ取って袋に詰め込んだ。


これで、王都での当面の宿代と生活費はバッチリ確保できた。

何より、ゲヴェニアの具体的な使用感や、魔弾生成のコツといった超重要な実戦データをこの身体に叩き込めたことが、今日の一番の大きな収穫だ。


「さーて、いい汗かいたし、今日は美味しいご飯を食べてゆっくり寝るとしますか!」


ストレスも完全に吹き飛び、足取りは羽のように軽い。

アタシは満面の笑みで魔物の素材が詰まった袋を肩に担ぐと、心地よい疲労感と共に、薄暗いダンジョンから明るい外の世界へと勢いよく飛び出したのだった。

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