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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
二章 画龍点睛のフロストバーン

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6話 北の王国

あの星空の野営から、およそ一週間。

道中、行商人の馬車を直してやったり、絡まれていた旅人を助けたりと、適当に人助けなんかをこなしながらのんびりとバイクを走らせてきたアタシは、遂に最初の目的地である北の大国『ヴァイドヘイム王国』へと到着した。


「......まずは情報収集から。堅実にね」


巨大な石造りの防壁を抜け、活気にあふれた王都のメインストリートをブレイブバスターを押しながら歩く。あちこちの広場から剣戟の音や陽気な歓声が聞こえてくるあたり、さすがはエンターテインメントとしての武芸が盛んな国だ。活気があって悪くない。


さて、右も左も分からない、しかも極寒の祭壇がどこにあるのかも見当がつかないこの国で、アタシが最初に目を付けた確実な情報源がある。


実は、我がアーゼリア家は、このヴァイドヘイムの王室と古くからの太いパイプがあるのだ。

なんでも五百年前、アタシの偉大な先祖である天才魔法技師ソフィアと、当時のヴァイドヘイムを治めていた王女イーシア様が、共に世界を救った親友として深く交流していたらしい。


その歴史的な名残を利用すれば、今や国の象徴として君臨している王家の人間に直接会って、この国に眠っているであろう『英雄』や『剣』についての重要な情報を引き出すことができる......ハズ。多分。


「ま、当たって砕けろってね」


いくら歴史的な繋がりがあるとはいえ、ただの小娘がいきなり王族に面会できるかは未知数だ。それでも、一人で広大な雪山を闇雲に探し回るよりは遥かに効率がいい。


アタシは楽観的にそう結論付けると、今なお王都の中心に堂々とそびえ立つ、荘厳なヴァイドヘイム城へ向けて迷いなく足を運んだのだった。



◇◇◇◇◇



王都の中心地、広く整備された石畳の広場を抜けた先にそびえ立つ、天を突くような巨大な正門。

その真正面に辿り着いたアタシは、ブレイブバスターのハンドルから手を離し、口をポカンと開けて間抜けな声を漏らしてしまった。


「で、でっか~~~い!!!!!」


遠くから見ている分にも十分デカいと思っていたが、こうして真下から直接見上げると、その堅牢な石造りの建築と、歴史の重みを感じさせる荘厳な空気に圧倒される。

あのアーゼリア家の敷地だって世間一般からすればそれなりに広い部類だと思っていたけど、この王城の敷地面積なら、アタシの愛用している倉庫が一体何個建てられるだろうか?


なんて、我ながらアホみたいな計算が真っ先に頭をよぎってしまうあたり、アタシもすっかり重度のバイクバカに染まっているらしい。


「......いけない。観光に来たわけじゃないんだから」


アタシはぶんぶんと首を振って思考をリセットすると、正門の両脇で微動だにせず直立している、厳重な金属鎧に身を包んだ屈強な衛兵たちへと歩み寄った。


普通なら、こんな威圧感たっぷりの門番を前にしたら一般の平民は萎縮してしまうのだろう。だが、あいにくアタシは幼い頃から親の厳しい剣術指導を受けてきたせいで、この手の『いかつい大人』の威圧感にはすっかり慣れっこだった。


アタシは全く物怖じすることなく、一番手前にいた衛兵の目の前までズカズカと近づき、道端で近所のおじさんに道を尋ねるかのような気安さで声をかけた。


「ちょっとアンタ。この城の偉い人に面会したいんだけど、どういう手続き踏めばいいの?」


アタシのあまりにも唐突で馴れ馴れしい問いかけに、衛兵は一瞬面食らったように目を白黒させていた。しかし、そこは腐っても大国の王城を守る門番だ。すぐに職務を思い出したように表情を引き締め、冷ややかな声で答えた。


「ここは一般公開していないんだ。観光客のお嬢さんには申し訳ないが、関係者以外を中に入れることはできないね」


「まあ、そう言うと思ったわ。でも、アタシが『アーゼリア家』の人間だって言っても?」


ニヤリと笑って、伝家の宝刀である英雄の家名を切ってみせる。

これで衛兵の態度もコロッと変わって道が開けるだろう......と期待したのだが。


「......証拠は? 王家との繋がりを示す書状や、あるいはアーゼリア家の紋章が入った品物がないならば、その言葉を信用することはできないな」


衛兵の極めて真っ当で冷静なツッコミに、アタシは思わず天を仰いだ。


......あちゃ~。これは完全にアタシのミスだった。


勢いと期待だけで家を飛び出してきたせいで、身分を証明するような面倒なアイテムは一切持ってきていない。背中に背負っているゲヴェニアは歴史的に見ても途方もない代物だが、見せたところで「不審な武器」として逆に捕縛されかねない。どうしようもないか。


「......わかったわ。謁見するのは諦める」


アタシはあっさりと両手を挙げ、降参のポーズをとった。

無い袖は振れないし、ここで無理やり押し問答をして衛兵と揉めてお尋ね者になるのは、これから始まる旅の幸先として全くスマートじゃない。


「じゃ、お仕事頑張ってね」


あっけにとられる衛兵にヒラヒラと手を振り、アタシは城門からスッと身を翻した。


正面突破がダメなら、別の入り口を探すか、あるいは向こうからアタシに会いたくなるような『特大の騒ぎ』でも起こしてやればいい。

ブレイブバスターの元へと歩きながら、アタシの頭の中はすでに、次なる痛快な作戦の立案へと切り替わっていた。

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