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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
終章 限界突破のアルティメットパイル

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24話 銃のような貫きを

ブレイブバスターのエンジン音だけが、荒涼とした道に響き渡る。

アーゼリア家を飛び出してから、ちょっと久しぶりの一人旅だ。でも、愛車に跨って風を切るこの感覚は、あの退屈から逃げ出した最初の旅立ちの時とは、何もかもが違っていた。


ただの家出少女だったアタシが、今は神代の英雄たちと肩を並べて最前線へ向かっている。

少しだけハンドルを握る手が震えるけれど、怖くはない。だって、今アタシが背負っているのは、自分の自由だけじゃない。この世界そのものなんだから──────。



◇◇◇◇◇



大陸の中心であり、最大の要衝である都市『ロンベル』。

全速力で駆けつけたアタシの目に飛び込んできたのは、かつての美しい街並みとは程遠い、上空のひずみから侵攻を受けた無残な光景だった。建物の壁は崩れ、道は抉れ、街のあちこちから黒煙が上がっている。


「......でも、これは......」


アタシはブレイブバスターを物陰に隠し、双眼鏡で街の様子を窺って驚きの声を漏らした。

街は破壊されているのに、逃げ遅れたはずの住民たちの姿が見当たらない。よく見ると、崩れた建物の隙間や地下鉄の入り口などに、青白く光る『巨大な氷の結晶』のようなものが無数に形成されており、その頑丈な氷の結界の中に、人々が安全に隔離・保護されていたのだ。


「これ、全部ロッドの魔法なの......?」


遠く離れたアーゼリア家に居ながら、あらかじめ世界中の中心都市にこれほどの規模の結界を張っていたというのか。あの始まりの英雄の規格外っぷりに呆れつつも、そのおかげで死傷者がゼロに抑えられている事実に、アタシは深く安堵の息を吐いた。


「それにしても......敵の兵士の数が、思ったよりも少ないわね」


双眼鏡で通りを索敵しながら、アタシは首を傾げた。

もっと街全体がオーバーヒューマノイドで埋め尽くされているかと思っていたが、巡回しているのは小規模な部隊ばかりだ。


......なるほど。東西南北の各大陸には、あの化け物四人が向かっている。敵が彼らの異常な脅威度を察知して、戦力のほとんどをそっちに振り切っているって感じみたいね


敵からすれば、アタシのいるロンベルは「手薄」だと判断されたのだ。舐められたものだが、こちらとしては非常に都合がいい。


「さて。所持している弾数は......って言いたいところだけど」


アタシは腰のガンベルトに装着された、たった一つの特殊なクリップをポンと叩いた。

出撃前、あの常識人だと思っていた剣聖レイから、「とんでもない量の魔力を凝縮して作っておいた」と、しれっと渡された代物。なんとこれ一つで、三日間は『実質無限』に撃ち続けられるという、物理法則を無視したとんでもないチートアイテムなのだ。


「本当に、あの人たちの常識はどうなってるのかしらね。......まあ、ありがたく使わせてもらうけど」


弾切れの心配がなくなったアタシは、音を立てずに路地裏へと潜伏し、オーバーヒューマノイドの部隊を各個撃破していく戦術を取った。


「───対象を発見。排除す、ガッ!?」


「遅いわよ」


曲がり角で鉢合わせた三体の下級兵士の首が、アタシの放った神速の一閃で音もなく刈り取られる。

ゲヴェニアのトリガーは引いていない。レイから無限の弾をもらっても、無駄撃ちして自分の腕に反動の負荷をかける必要はないのだ。


弦弥からみっちりと叩き込まれた鏡映流の歩法と、無駄のない剣の軌道。

ギミックに頼り切っていた昔のアタシとは違う。自らの身体能力と純粋な剣術だけで、敵を圧倒できる。アタシは確実に、そして静かに、ロンベルの街を侵略者から取り戻し始めていた。



◇◇◇◇◇



瓦礫の陰に身を潜めながらの、息の詰まるような襲撃と隠密。

ロンベル市街での孤独なゲリラ戦を開始してから、あっという間に二日ほどの時間が経過していた。


「......ふぅ。こんなところかしらね」


アタシはゲヴェニアの刀身についた黒いオイルのような汚れを布で拭き取りながら、小さく息を吐き出した。


レイから貰った無限のクリップと、弦弥に叩き込まれた鏡映流の剣術。その二つが完璧に噛み合ったおかげで、ロンベル市街のあちこちに蔓延っていたオーバーヒューマノイドの下級兵士たちは、この二日間であらかた片付けることに成功した。

ロッドの張った氷の結界に守られている市民たちにも、今のところ被害は及んでいない。


「ロンベルの防衛は、ひとまずこれで完了。......あとは、他の四人がどうなったか、って感じね」


アタシは少しだけ緊張の糸を緩め、水筒の水を飲みながら空を見上げた。

東西南北の各大陸に向かった、あの四人の規格外な英雄たち。彼らのことだ、きっとアタシなんかよりもずっと派手に、そしてあっさりと敵の軍勢を蹴散らしているに違いない。連絡がないのは、単に通信の仕方を忘れているか、戦いに夢中になっているだけだろう。


そんな風に、少しだけ楽観的な思考を巡らせていた──────その直後だった。


ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォォォッ!!!!!


「......な、なに!?」


突如として、頭上の空気を激しく震わせ、鼓膜を劈くような凄まじい轟音がロンベルの街全体を大きく揺らした。


ただの爆発音じゃない。何万トンという巨大な質量が、無理やり大気を押し退けて降下してくるような、腹の底から湧き上がるような重低音。

アタシは弾かれたように立ち上がり、轟音の発生源である上空の『ひずみ』へと目を凝らした。


「............嘘、でしょ」


晴れ渡っていたはずのロンベルの空が、圧倒的な『影』に覆い尽くされていく。


ひずみの奥深くから、漆黒の雲を突き破ってゆっくりと姿を現したのは。

これまでアタシが相手にしてきた歩兵部隊などとは比べ物にならない、都市一つを丸ごと焼き尽くすほどの威容を誇る、敵の本丸であろう超巨大な『航空戦艦』だった。


全長数キロはあろうかという鋼鉄の浮遊要塞が、絶望的な威圧感を放ちながら、アタシのいるロンベルの上空で静かにその砲門を開こうとしていた。


上空を覆い尽くす、都市一つを優に超える巨大な航空戦艦。

その圧倒的な質量と絶望感を前にして、アタシの足は無意識に竦み、背筋に冷たい戦慄が走った。無理だ。あんな規格外の化け物兵器、たった一人でどうにかなるスケールじゃない。


そう思って一歩後ずさりかけた、その時だった。


『──────』


戦慄しているアタシの背中を、ドンッと力強く押すような感覚があった。

手にした白銀の銃剣、ゲヴェニア。その冷たいはずの金属の柄が、まるで鼓動するように微かな熱と魔力の光を放ち、アタシの心に真っ直ぐに呼応していたのだ。


「......アイツをぶっ倒そうっていうの? ゲヴェニア」


アタシの問いかけに、当然、無機物である剣から言葉としての返答はない。

でも、手から伝わるその確かな熱と重みで、心でハッキリとわかる。アタシを選んだこの相棒は、あんな巨大な鉄塊を前にしても一歩も引く気はないのだと。


「......ふふっ。ホント、持ち主に似て無鉄砲なんだから」


アタシは小さく笑い、震えていた両足に力強く喝を入れた。

世界を背負うと決めたんだ。ここで怯んで逃げるくらいなら、最初からこの旅には出ていない。


「なら、全力で立ち向かわないとね!」


アタシは空を見上げ、瞬時に頭の中でルートを構築した。

あの遥か上空に浮かぶ戦艦に直接乗り込むには、地上からではどう足掻いても届かない。なら、どうする?


視線の先にあるのは、ロンベルの中心にそびえ立つ、街で最も高い建造物──────『音韻魔導塔』。


ここから建物の屋根を伝って駆け抜け、あの大空を穿つ塔の頂上まで登り切る。そして、塔の最上階からゲヴェニアの弾丸を利用した大跳躍を行い、強引に敵艦のハッチへと侵入する。

狂気沙汰の作戦だが、これしかない!


「行くわよッ!!」


タンッ! と瓦礫を強く蹴り上げ、アタシはロンベルの屋根へ飛び乗った。

弦弥の特訓で極めた鏡映流の身体操作が、アタシの体を羽のように軽くする。屋根から屋根へ、崩れかけた壁から壁へ。風を切り裂きながら、一直線に音韻魔導塔へと駆け抜ける。


「───対象の接近を探知。迎撃態勢」


上空の戦艦から、アタシを狙って雨のような機銃掃射が降り注ぐ。

だが、止まらない。アタシはゲヴェニアのトリガーを引き、弾丸の反動をスラスターのように使って空中で軌道を急変化させ、すべての銃弾を紙一重で躱していく。


「遅いッ!」


塔の外壁に取り付くや否や、無限のクリップから連続で爆発を起こし、その推進力で垂直の壁をロケットのように駆け上がる。


ズガガガガガッ!!!


塔の頂上に到達した瞬間、アタシは残るすべての脚力と、ゲヴェニアの最大出力の反動を真下に向けて解き放った。


「吹き飛べえええええええええッ!!!」


爆発的な推進力が、アタシの身体を砲弾のように空へと撃ち出す。

重力を完全に振り切り、雲を裂き、巨大な航空戦艦の開いたままの搬入口へと──────アタシとゲヴェニアは、弾丸となって見事に飛び込んだのだった。

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