23話 繋がろうとする層
アタシたち三人は、ひんやりとした地下倉庫から地上の光の中へと戻ってきた。
「あ......! レイ、それって!」
庭先で待っていた勇者ユキは、レイの右腕に装着された真新しい白銀のガントレットに目を留めるなり、ハッと息を呑んで駆け寄ってきた。
「ああ。スミスが最後にやってくれたみたいだ」
レイが少しだけ誇らしげにフェルファクナ・エデニアムを掲げて見せると、ユキは感慨深げに目を細め、二人で顔を見合わせて静かに頷き合った。
言葉は少なくとも、その表情には確かな信頼と喜びが満ちていた。五百年前の壮絶な戦いを共に生き抜いた者同士にしか分からない絆と、彼らだけの深い物語が、そのガントレットの裏にはあるのだろう。
それはアタシには到底わからない領域の事だけれど、今はただ、彼らが味方であることがとてつもなく心強かった。
『さて。......私達はこうして、ようやく一つの場所に揃うことができた』
その時、テラス席に立つロッドが、かつてないほど威厳に満ちた声で庭の静寂を切り裂いた。
彼の傍らには、いつの間にか真剣な武人の面持ちでスッと控える弦弥の姿もある。
ロッドは、庭に集まったアタシたちを見渡し、世界を救うための最終陣形を高らかに宣言した。
『五つの時代、五つの運命を越えて集いし刃たちよ』
──────龍剣ボルケイム ロッド=ガルバス
──────華剣シラサギ 弦弥・セイラム
──────聖剣リュミエール ユキ=リュミエール
──────魔剣ヴァルセリア レイ=ヴァルセリア
英雄たちの二つ名と絶対的な力が、このアーゼリア家の庭に響き渡る。
そして、ロッドの鋭い視線が、最後に真っ直ぐにアタシを射抜いた。
『そして、』
──────銃剣ゲヴェニア ローズ=アーゼリア
ただの小娘だったアタシが、この神代の化け物たちと肩を並べて呼ばれている。その事実に武者震いしながら、アタシはゲヴェニアの柄を強く握りしめた。
『まずは、目の前の障害を駆逐する。......世界を蝕む侵略者、オーバーヒューマノイドの軍勢を、我々”五選剣”の力で一気に押し返すぞ』
「色々聞きたいことはあるが、今は目の前の事態に集中した方が良さそうだな......」
上空のひずみから世界中に降り注ぎ続けるオーバーヒューマノイドの気配を感じ取りながら、レイが冷静に現状を分析して思考を切り替える。
かつての仲間への感傷に浸ることもなく、即座に戦士の顔になるその切り替えの早さ。流石は数々の修羅場を潜り抜けてきた無敗の剣聖だ、頼もしすぎる。
『ああ、その通りだ。各大陸の防衛と敵の掃討についてだが──────ヴァイドヘイムは私、セイラムは弦弥、リベルタスはユキ、リスタリアはレイ。......そして、大陸の中心であるロンベルはローズ。キミに託す』
「......えっ? アタシが、中心のロンベル?」
思わぬ采配に、アタシは目を丸くして聞き返してしまった。
各国の防衛を神代の化け物たちがそれぞれ担当するのはわかる。けれど、世界のへそであり、一番の激戦区になるであろう中心地を、一番の新米であるアタシに任せるというのだ。
困惑して立ち尽くすアタシに向かって、ロッドはいつもの人を食ったような態度を完全に消し去り、さらに真剣な、深い信頼を込めた瞳で真っ直ぐに口を開いた。
『この絶望の壁を打ち破れるのは、キミ達だ』
「............」
分からない。なぜロッドがそこまでアタシの力を確信して、最重要拠点を託すのか。五百年前の英雄たちの方が、どう考えても場数も強さも上のはずなのに。
でも、その答えはきっと、彼が紡いだ言葉の中にあるのだろう。
ロッドは「キミ」じゃなくて、「キミ『達』」と言ったのだ。
アタシは背中に背負った相棒、白銀の銃剣の柄をそっと撫でた。
天才スミスが遺したフェルファクナがレイの決意に応えたように。弦弥の設計理念が込められたこの剣もまた、アタシという『最後の英雄』を選んでくれたのだから。
「......信じてるよ。ゲヴェニア」
ひんやりとした金属の感触が、アタシの心に静かで確かな勇気をくれる。
なら、アタシはアタシ自身と、このゲヴェニアを信じよう。神話の住人たちがアタシに背中を預けてくれるというのなら、その無茶振りな期待に、全力で応えてみせるだけだ。
「よし......行くわよ!」
アタシの気合の入った声を合図に。
世界を救うための最終陣形『五選剣』の五人は、大地を蹴り、それぞれの決戦の地へ向けて力強く駆け出していった。




