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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
終章 限界突破のアルティメットパイル

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22/26

22話 時を超えたプレゼント

「う......うぇぇぇぇ......」


「大丈夫、レイ? 吐けるなら全部出しちゃった方が楽になるよ」


アーゼリア家の広大な庭先に、文字通り死にそうな呻き声が響き渡る。

これは世紀の大発見だった。あの大軍を単騎で殲滅した無敗の剣聖様は、なんと『ゴリゴリに乗り物酔いするタイプ』だったのだ。


ブレイブバスターから降りるなり地面に四つん這いになり、胃の中身をリバースしそうになっているレイ。そして、その後ろで慣れた手つきで背中をさすってあげている勇者ユキ。


......なんか、ごめんなさいね。


少しだけ罪悪感はあったが、その後部座席の犠牲もあって、アタシたちはリスタリアの辺境からたったの一日という超短時間で、ここリベルタスとリスタリアの間にあるアーゼリア家まで帰還することができたのだ。


『フッ。思ったよりも早い帰りだったな、最後の英雄よ』


庭のテラス席では、いつの間にか実体化したロッドが、優雅に紅茶のカップを傾けながらアタシたちを出迎えた。


「......アンタね。急に呼びつけておいてその態度は何よ。こっちの都合も少しは考えてほしいものだわ」


アタシがヘルメットを脱ぎながらジロリと睨みつけると、ロッドの隣で饅頭を頬張っていた弦弥が、口の周りを粉だらけにしながら呑気に割って入ってきた。


「まあまあ、ローズ殿。ロッドをあんまり責めないでやってくれ。......ここは一つ、この拙者に免じてな!」


「アンタに免じる理由がどこにあるのよ......」


アタシは深く、ひたすらに深いため息を吐き出した。

もうダメだ。この五百年前からアップデートされていない自分勝手な二人言動に、いちいちマトモに付き合いきれるわけがない。アタシは早々にそう悟り、ツッコミを入れることすら受け入れて放棄した。


そんなアタシの呆れ顔をよそに、ロッドはティーカップを置き、ゆっくりと立ち上がった。

そして、地面でうずくまっている青年を見下ろし、いつになく荘厳で、重々しい声色で語りかけたのだ。


『......それよりも。ようやく会えたな、剣聖。いや、──────勝利(ヴァル)を冠し英雄よ』


「............ん? ああ、俺のことか?」


ロッドの放った、神話の一節のようなあまりにもカッコいい呼びかけ。

しかし、それに答えた剣聖は──────顔色を真っ青にしたまま、ふらふらと立ち上がり、かつてないほど覇気のない声で間抜けな返事をするのだった。


『......レイ。キミに向けて、スミスが遺したものがある。ついてきてくれ』


顔色最悪のレイに対し、ロッドはふざけた態度は一切見せず、ただ静かに、過去の盟友の名を口にした。


「スミス、か。......わかった」


その名を聞いた瞬間、レイの土気色だった顔からスッと疲労の色が抜け落ち、かつての鋭い剣聖の瞳へと戻る。


『それと、ローズもついてくるといい。......お前もあれを見るべきだと、私は思うしな』


「アタシも?」


ロッドに促されるまま、アタシとレイは屋敷の中へと入り、薄暗い階段を下っていく。

向かった先は、アーゼリア家の地下深くにある広大な貯蔵庫。数日前、アタシがロッドの思念に導かれ、相棒である『ゲヴェニア』を初めて手にした始まりの場所だった。


『確か......このあたりだったか?』


ロッドは埃を被った石造りの壁をペタペタと触りながら歩き、やがて何かを確かめるように、壁の特定の一点を力強く押し込んだ。


ゴガガガガッ......! プシューッ!!


「うおっ!?」


鈍い地鳴りのような音と共に、ただの石壁だと思っていた箇所がスライドし、厳重にロックされた隠し格納庫が姿を現した。そして、圧縮された冷却ガスのような白い煙が晴れた後、そこからせり出してきた台座の上には──────。


「............っ!! な、なにこれ、ロマンの塊じゃないの......!!」


アタシは思わず、目を輝かせて台座に駆け寄っていた。

そこに鎮座していたのは、見惚れるほどに精巧な作りをした、重厚な白銀の『ガントレット』だった。ゲヴェニアと同じ材質で打たれたであろう美しい装甲に、魔力を通すための幾何学的なラインが刻まれている。ギミック武器好きのアタシからすれば、まさにヨダレが出るほどの最高傑作だ。


ロッドは、呆然とガントレットを見つめるレイの肩に手を置き、誇らしげに、そしてどこか寂しそうに宣言した。


『これは、天才と呼ばれたあのスミスが、己のすべてを懸けて遺した人生最高傑作』


『──────その名も、フェルファクナ・エデニアムだ』


「フェルファクナ......エデニアム......」


レイが、自身の所属していた組織の名を冠するそのガントレットの名を、噛み締めるように反芻する。

神代の天才が、剣聖のためだけに遺したロマン溢れる神造兵装。薄暗い地下室で、その白銀の装甲は、主の帰還を歓迎するように微かな魔力の光を放ち始めていた。


背中のゲヴェニアが震えている。あのフェルファクナと何かつながりがあるの......?


「......使わせてもらうぞ。スミス、アクシア、イーシア、ソフィア、カシムさん」


薄暗い地下貯蔵庫の中。

レイは静かに目を閉じ、かつて共に戦い、別れたであろう大切な仲間たちの名前を、祈るように一つ一つ紡いだ。


「皆の意志、俺が絶対に死なせない」


そう彼が力強く決意を込めて右手を伸ばした、その瞬間だった。

台座の上に鎮座していた白銀のガントレット『フェルファクナ・エデニアム』が眩い光を放ち、まるで意思を持った液状の金属のように形を変え、レイのあの異形の龍の右腕へと吸い込まれるようにして融合・装着されたのだ。


シュオォォォォ......ッ!


魔力と機械が完全に結合し、彼の禍々しい右腕を覆うように、洗練された白銀の装甲が形成されていく。


「......はは。またあの激痛を覚悟していたけど、その心配はなかったな」


レイは新しくなった右腕を何度か開閉して馴染ませると、ホッと安堵したように小さく笑った。過去にその異形の腕を得た時、どれほどの苦痛を伴ったのか。彼の何気ない一言から、その壮絶な過去が垣間見える。


「ありがとう、ロッドさん。......これで俺はまた、全力で戦える」


過去の天才からの贈り物を受け取り、レイはロッドに向けて深く頭を下げた。


......うんうん、いい話だわ。過去の因縁と仲間の意志を受け継いでパワーアップなんて、すごく熱い展開じゃない。


アタシはロマン溢れる光景に感動し、うんうんと頷きながら聞いていた。

......聞いていた、のだけれど。アタシの耳は、彼の放った最後の一言を絶対に聞き逃さなかった。


......ちょっと待って。「全力で戦える」? ──────ってことは、あのリスタリアでの、一人で大軍を紙切れみたいに蹂躙した天下無双の戦いっぷりで、まだ『全力じゃなかった』っていうの......!?


アタシは戦慄と共に目を見開いた。

先ほどまで庭先で乗り物酔いでゲロゲロに吐いていた姿を見て、少しだけ親近感を覚えていたけれど、完全な撤回だ。この男、やっぱり根本的な強さのスペックが頭一つ抜けて狂っている。


アタシは、剣聖レイ=ヴァルセリアという青年に対する「規格外」という評価を、心の中でさらに数段階ほどぶち上げたのだった。

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