21話 集いし五つの剣
「ふぅ。......これで第一陣は片付いたか。それにしても......あの敵の戦術、見覚えしかないな」
広場を埋め尽くしていた鉄屑の山を前にして、剣聖レイは魔剣ヴァルセリアの刀身を軽く振って汚れを落としながら、ため息まじりにそう呟いた。
「そうなの? レイ」
「ああ。統率の取り方といい、あの無機質な陣形といい......多分、俺たちのいた『アッチの世界』の住人だ」
レイの言葉に、勇者ユキは顔色一つ変えずに納得したように頷く。
「なるほどね。......じゃあまずは、ここから準備を整えて反抗する。でしょ?」
「ああ。その通りだ」
つい先ほどまで村を滅亡の危機に陥れていた大軍を単騎で殲滅しておきながら、息一つ乱さず、何気ない顔で世間話のように次の反撃作戦を練っている二人の青年。
その様子を地面にへたり込んだまま見ていたアタシは、ただただ「......まさに異常ね」と内心で呆れることしかできなかった。
ある程度、今後の算段について話し終わったのか。
剣聖レイは、くるりとこちらを向くと、座り込んでいるアタシの元へ静かな足取りで近づいてきた。
「遅れてすまなかった。......一人であの数を相手に、よく耐えきったな」
そう言って、レイは労いの言葉と共に、スッとアタシに向かって右手を差し伸べてくれた。龍のような異形の右腕ではなく、手袋に包まれた人間の左手の方だ。
......な、なんてこと。普通に会話が通じるし、気遣いまでできるじゃない......!
アタシは思わず、その差し出された手と彼の顔を二度見してしまった。
これまで出会ってきた神代の英雄二人が揃いも揃って常軌を逸した変人だったこともあり、目の前にいるレイの『真っ当な常識人』としての振る舞いが、とんでもないレベルで後光が差して輝いて見える。
「......助かったわ。ありがとう」
アタシは差し出された彼の手を遠慮なく取り、その力強い引き上げに身を任せて立ち上がった。
「ん。......その剣、ゲヴェニアか?」
立ち上がったアタシの背中にある白銀の銃剣に目を留め、レイが少し驚いたように目を見開いた。
「え? ああ、そうよ。......なんか、アタシはこのゲヴェニアに選ばれたらしいわよ」
弦弥が「設計の半分は拙者が考えた」と言っていたことは一旦伏せて、アタシはあのフードの人から言われた通りに答えた。すると、レイはどこか懐かしむように目を細め、ぽつりと優しく呟いたのだ。
「なるほど。......ロータシーの願いは、無事に未来へと届けられたのか。良かった」
「......そういえば、自己紹介がまだだったな」
ロータシーという謎の人物の名を懐かしそうに呟いた後、レイは居住まいを正し、改めてアタシに向き直った。
「俺はレイ。一応『エデニアム』の隊長を務めている......いや、五百年も経っているなら、エデニアムという組織はもうこの時代にはなくなっているのか?」
「僕はユキだよ。よろしくね」
少しだけ時代錯誤な戸惑いを見せるレイの横から、勇者ユキがふわりとした人畜無害な笑顔で手を振ってくれる。
......ああ。まともだ。この人たち、本当にまともな人間だわ。
アタシは思わず、目頭が熱くなるのを感じた。
相手の顔を見て名乗り、状況を鑑みて会話のキャッチボールができる。そんな当たり前の真面目さと優しさが、あのロッドと弦弥に振り回されて荒みきっていたアタシの心と体に、温かいスープのようにじんわりと染み渡っていく。
「ご丁寧にどうも。アタシはローズ。......ローズ=アーゼリアよ」
アタシは少しだけ表情を和らげ、自分の家名を名乗った。
すると、その名前を聞いたレイが、微かに目を見張り、どこか遠い昔の記憶を探るような顔つきになった。
「アーゼリア、か。......そうか。懐かしい名前だな」
彼がどうしてアタシの家名を知っているのか。五百年前にアーゼリアの先祖と何か関わりがあったのか。
聞きたいことは山ほどあった。でも、こんな風にまともな英雄二人と出会えた幸運にただ静かに感謝し、この平和な対話の余韻をもう少しだけ味わっていたい。
そう思って、アタシが口を開きかけた──────その時だった。
『......聞こえるか、輪廻に囚われし三人の英雄よ』
......うわっ、出たわね。まともじゃない方。
突如として、アタシの脳内に直接、あの癪に障る爽やかな声が響き渡った。
平和な空気を一切読まないその強制通信に、アタシは思わず顔をしかめる。ロッドの念話は、どうやらアタシだけでなく、レイとユキの頭の中にも同時に届いているようだった。
『これで、この世界に五つの剣は無事にそろった』
ロッドはいつになく真面目な声色で、アタシたちに語りかけた。
『ここに、世界を救うための”五選剣”の設立を宣言する。 ──────キミたち三人は、早急にアーゼリア家に集まってくれ』
ロッドからの短くも絶対的な召集命令。
その言葉が意味するものの重さに、アタシはゴクリと息を呑んだ。この世界に五つの剣が揃い、平行世界からの侵略が本格化した今。この集まりは、単なる作戦会議などではない。
「......ついに、この旅も佳境、ってコトかしら」
アタシはフッと口角を上げ、覚悟を決めたように小さく呟いた。
平和だった日常から放り出され、神代の英雄たちに振り回されてきたこの厄介な旅も、いよいよ最終局面を迎えようとしているのだ。
「レイ、ユキ! 話の続きは走りながらよ、急ぐわよ!」
「ん? 走るって......」
「いいから、後ろに乗って!!」
状況を察して即座に行動を切り替えたアタシは、広場の端に停めてあったブレイブバスターに跨ると、戸惑う剣聖と勇者の二人を強引に後部シートへと押し込んだ。
「ちょ、ちょっとローズちゃん、これ三人乗りは狭いんじゃ......!」
「舌噛まないように、しっかり捕まってなさいよ!!」
ブオォォォォォォンッ!!!!!
ユキの焦ったような声をかき消すように、アタシはエンジンのアクセルをフルスロットルで全開に捻った。
アーゼリア家で待つ、始まりの英雄と鏡の開祖の元へ。世界を救う『五選剣』の集結に向けて、アタシたちを乗せたブレイブバスターは、土煙を上げてリスタリアの地を急発進したのだった。




