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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
四章 金烏玉兎のスカイクラッド

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17/26

17話 encounter´

「んああああああ!!!!! 悔しい!!!!!!!!」


緑豊かなレイージュ村の郊外、少し開けた森の広場。

アタシは天に向かって、心の底からの大絶叫を響き渡らせた。


ロッドからの指示があまりにもフワッとしすぎていて他にやる事もないため、アタシはこの数日間、宣言通り弦弥からみっちりと剣の特訓を受けていた。


正直、最初は舐めていた。五百年も前の古臭い剣術なんて、現代の洗練された戦闘理論の前にどこまで通用するのかと。それに、普段の彼はバイクと並走して喜んだり、変なタイミングで顔を赤らめたりする、ただの情緒不安定な変人なのだ。


「......甘いぞ、ローズ殿! 踏み込みの際に肩に力が入っている。それでは次の一手が完全に読まれてしまう!」


「くっ......! わかってるわよ!!」


しかし。いざ木剣を握り、指導に入った途端──────流石は『鏡映流の開祖』と歴史に名を残すだけのことはあった。


教えるのが、とんでもなく、腹立たしいほどに上手なのだ。

アタシの天断流の超攻撃的な長所を一切殺さず、それでいて防御を捨てたことによる致命的な隙を、最小限の動きと体重移動だけでカバーする技術を的確に叩き込んでくる。普段のあの変人っぷりとのギャップが、悔しくてたまらない。悔しいけれど、反論の余地がないほどに理にかなっている。


「......よし、今日はここまでとしよう! 素晴らしい筋の良さだ!」


「......はぁっ、はぁっ......」


弦弥がパンッと手を叩いて特訓の終了を告げると、アタシは全身汗だくになりながらその場に大の字で倒れ込んだ。


悔しい。本当に悔しいが──────その特訓の甲斐あって、アタシの剣は自分でも恐ろしいほどに見違えるように上達していた。


これまでは、ゲヴェニアのパワーとギミックに頼り切っていた部分が大きかった。だが今では、そのギミックを度外視しても、純粋な剣の腕と身体操作だけでバッチリと一流のモンスターや剣士と渡り合えるほどに、基礎的な地力が底上げされてしまっていたのだった。



◇◇◇◇◇



激しい特訓の合間。木陰でしっかりと水分補給と休憩を済ませたアタシは、少しばかり気になっていた『勇者』のことについて、村の人に詳しく聞いてみることにした。


勇者という称号や、彼が過去に成し遂げたとされる数々の偉業については、もちろん学生時代の歴史の授業で耳にタコができるほど聞かされている。

でも、アタシはどうにも、その教えられた歴史がそのまま真実かどうか怪しいと常々思っていたのだ。


だって、いくらなんでも世間に伝わっている勇者伝説は、内容がデタラメすぎる。


──────『勇者は時を超え、因果を壊した』


──────『勇者はその恵みで、国一つ全ての死者を蘇生した』


──────『勇者は一度の敗走もなく、絶望を覆した』


「......絶対盛られているでしょ。これはさすがに」


教科書の内容を一人で反芻しながら、アタシは呆れて肩をすくめた。

時空を操って因果を捻じ曲げるわ、国中の死者を全員生き返らせるわ、無敗のまま絶望的な世界を救うわ。もはや人間の所業ではなく、創造神かなにかの御伽噺だ。


いくら英雄とはいえ、あの傍若無人で自己中心的なロッドや、変態的な戦闘狂である弦弥のリアルな実態を間近で見ている今のアタシからすれば、こんな完璧超人のようなスペックがそのまま実在したとは到底信じられない。


「火のない所に煙は立たないとは言うけど......真相はどうなのかしらね」


誇張された神話の裏側にある、本当の『勇者』の素顔。

このレイージュ村は、勇者を崇める者たちが集ってできた歴史ある村だ。王都の小綺麗な教科書には決して載っていないような、当時の生々しい真実の口伝が残っているに違いない。


そう思い立ち、アタシは木剣を置いて広場を後にして、勇者伝説について一番詳しそうな村の住人を探して尋ねてみることにしたのだ。


村の古老や歴史に詳しそうな者たちを何人か訪ね歩いてみたものの。

結果として得られた有力な情報は、たった一つだけだった。


「勇者は決して、一人で全ての事を成したのではない。......その傍らには常に『剣聖』が居たのだ」


長老らしきお爺さんは、遠い昔を懐かしむようにそう語った。

伝説として一人歩きしているデタラメな偉業の数々は、勇者と剣聖、二人の英雄が力を合わせた結果だというのだ。


......剣聖ねぇ。だとしても、死者蘇生だの時空を越えるだの、やっぱりあり得ないと思うけど。


アタシは内心で首を傾げながら、村の中心部から郊外の広場へと続く帰り道を、ぼ〜っと歩いていた。

相変わらずのどかな風が吹き抜け、平和な村の風景が広がっている。今日も空は青く澄み渡っていて、これ以上ないほどのどかな──────。


「......え?」


ふと見上げた、その目線の先。

空の『異変』に気づき、アタシは思わずピタリと足を止めた。


「......な、なに、あれ?」


見上げた空が。いや、空という『空間そのもの』が。

アタシたちが謳歌していた、この平和で退屈だったはずの美しい世界のあちこちに──────まるで、目に見えない神のごとき巨大な獣の爪で、世界というキャンバスを無惨に切り裂いたかのような。


禍々しい漆黒の『無数のひずみ』が、唐突に発生していたのだ。

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