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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
四章 金烏玉兎のスカイクラッド

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16/26

16話 勇者の眠る地

アタシたちはセイラムの国境を越え、『リスタリア』の南部に位置する小さな村までやってきた。


アタシの記憶が正しければ、確か学生時代の歴史の授業でこんな風に習ったはずだ。

リスタリア共和国は、五百年前まで隣国であるリベルタス王国と『同君連合』を組んでいた。しかし、かつて世界を巻き込んだ『円卓の脅威』という災厄が去ってから、その強固な結びつきは時代の流れと共に緩やかに解消され、現在のリスタリア共和国として独立を果たした......と。


そのリスタリアの最大の特徴は、何と言っても国土の圧倒的な広さにある。大陸の南側ほぼすべてがこの国の領土になるほどデカいのだ。先生の話によれば、これは大昔に世界を支配していた源流の国『エルザナ王国』の広大な名残だという。


「......なんていう歴史の授業で習った小難しい話はどうでもいいとして」


アタシはヘルメットを脱ぎ、フルスロットルで回していた思考を強制的にストップさせた。

過去の政治や国境線のお勉強は、今の旅には直接関係ない。重要なのは現在だ。アタシと弦弥は今、その広大なリスタリアの南の辺境にある『レイージュ』という小さな村に居る。


さっき、道を尋ねた気のいい村人から聞いた話によれば、ここはただの辺境の村ではないらしい。

なんでも大昔、世界を救った『勇者』と『剣聖』が眠りについた神聖な地であり、その勇者を崇める人たちが巡礼に訪れ、そのまま定住して形成された歴史ある村なのだという。


「のどかで、すっごくいい村ね〜」


アタシはブレイブバスターから降りて大きく背伸びをしながら、深呼吸をした。

ヴァイドヘイムの王都のような、最近のせわしない都市開発ですっかり忘れていた『自然の豊かさ』を全身で感じることができる。どこまでも続く深い緑の香りと、澄み切った空気、そして木漏れ日が優しく降り注ぐ平和な景色。


弦弥とのウォームアップで少しばかりささくれ立っていたアタシの心は、レイージュの美しい自然によって、じんわりと穏やかに癒されていくのを感じていた。


村ののどかな空気をいっぱいに吸い込み、少しだけリフレッシュしたところで、アタシはハッと重大な事実に気がついた。


「......んで。ここからどうすればいいの〜!? ロッドさ〜ん!!!」


アタシは天を仰ぎ、頭の中にいるであろう癪に障るロッドに向けて大声で叫んだ。


よくよく考えてみれば、この村の近くにあるという遺跡『リィンカーベルグ』とやらの詳細な場所も、そこで何をどうすればいいのかという具体的な情報も、アタシは奴から一切教えられていないのだ。ナビゲーターとしてあまりにも不親切すぎる。


数秒の沈黙の後、脳内に直接、心底間抜けな声が響き渡った。


『......ん? なんか言ったか、ローズよ』


......聞いてないのかよ。


アタシはピキキッ、とこめかみに青筋が浮かぶのを感じながら、深く、ひたすらに深いため息を吐き出した。神代の英雄のくせに、都合の悪い時だけ通信を切っているんじゃないわよ。


「あのですね。ここで封印されている英雄は、どうやったら解放できるんでしょうかね〜!?」


嫌味をたっぷりと込めた、怒り度数百パーセントの作り笑い声で再び問いかける。

すると、ロッドは少しだけもったいぶるような間を置いてから、酷く真面目な、しかし一切の具体性を持たない神託のような言葉を告げた。


『勇者は、希望に溢れたところに現れることはない。......今キミにできることは、弦弥の特訓を受けることくらいだ』


「......は?」


『そういうことだ。健闘を祈る』


プツンッ。


「............」


そんな、曖昧な......。

希望に溢れたところに現れないって、どういうこと? まさか、この平和な村に絶望的な危機でも訪れない限り、その遺跡の勇者とやらは目覚めないって言いたいの? それに、結局アタシの当面のタスクはあのバトルジャンキーのシゴキに耐えることだけなの!?


ツッコミどころが多すぎて、怒りよりも先に疲労感がどっと押し寄せてきた。

見た目こそ二人とも爽やかなイケメンだけれど。中身は幾万年前からアップデートされていない、自分勝手でマイペースな神代の『老人』たちだ。


......この老人二人と出会ってから、アタシの情緒が目に見えて不安定になった気がするわ


平和だったアーゼリア家での退屈な日々が、今となっては少しだけ恋しい。

アタシはブレイブバスターのシートに力なく突っ伏しながら、この途方もない厄介な旅が無事に終わったら、絶対にこいつらに何時間も説教して、山のように文句を言ってやろうと、小さく、しかし固く心に誓ったのだった。

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