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百折不撓のアルゴリズム-semicolon-  作者: 一ノ瀬隆
三章 千変万化のソードブルーム

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14話 剣の盟主

無音の空間の中、再降臨を果たしたその男──────弦弥とかいう神代の剣豪は、ゆっくりと目を開き、その手に握られた太刀を無造作に一振りした。


ピュンッ!!


ただそれだけの、魔力も乗っていない純粋な剣閃。

だが、その一振りが生み出した鋭い風圧と圧倒的な覇気によって、丘を覆い尽くしていた純白の花たちは、まるで新たな主君の帰還に平伏するかのように一度だけ激しく揺れ──────直後、ピタリと一切の動きを止めて静止した。


風は止み、完全な静寂が剣の墓場を支配する。

自然のうねりすらもたった一本の太刀で従えてしまう、その常軌を逸した剣気。アタシは背筋に冷たい汗が流れるのを感じながら、息を呑んで立ち尽くすことしかできない。


弦弥は、刀身に微かな光を纏ったその美しい太刀を静かに下段に構えると、かつて共に戦ったロッドの気配を空気に感じ取るように目を細め、凛とした声で朗々と告げた。


「......盟友の招聘により、拙者、弦弥・セイラム、ただいま馳せ参じた」


その言葉の響きは、ロッドの途方もない威圧感とは違う、どこまでも研ぎ澄まされた氷の刃のような武士の静けさを持っていた。

彼は自身の愛刀を愛おしそうに、そして誇り高く見つめると、五百年の眠りから覚めた誓いを天へと放つ。


「この華剣シラサギに誓って、もう一度、貴殿らのために刀を振るおう」


白い花の海の中心で、静かに、しかし燃え上がるような闘志を秘めて宣誓する神代の剣豪。

その隙のない完璧な佇まいと、シラサギと名付けられた美しい太刀の輝きを前に、アタシはただ圧倒的なまでの『本物の強者』のオーラを肌で感じ取っていた。


静寂に包まれた白い花の海。

神代の剣豪が放つ、肌を刺すような絶対的なプレッシャー。アタシはこれからの壮絶なやり取りを覚悟して、無意識にゴクリと息を呑んだ。


すると、弦弥はピタリと静止していた華剣シラサギをスッと鞘に納め──────。

先ほどまでのストイックで冷徹な武士の顔から一転、人の良さそうな、とても爽やかでフランクな笑顔をパァッと浮かべたのだ。


「......まあ、堅苦しいのはここまででいいだろう!」


「............は?」


「幾万年ぶりの外の空気は最高だな! これからよろしく頼むぞ、ローズ殿!」


......キモイ! なんでこの人、初対面なのにアタシの名前知ってるの!?!?!?!?


アタシの脳内で、先ほどまでの感動と緊張感が盛大な音を立てて崩れ去っていった。

いや、冷静に考えれば、さっきアタシの頭の中に直接語りかけてきたロッドが、この弦弥という男と何らかの念話のようなもので繋がっていて、アタシの情報を事前に伝えていたのだろう。理屈は分かる。


でも、直前まで死ぬほどかっこよく「拙者」とか「宣誓」とか言っていた男が、起きて早々いきなり名前を呼んで満面の笑みで距離を詰めてくるのは、ただひたすらに気味が悪い。情緒の落差が激しすぎる。


圧倒的なまでの強者のオーラから、一瞬で『距離感のおかしい謎の剣士』へとクラスチェンジした弦弥を前に、アタシは完全に自分のペースを見失ってしまった。


「......う、うん。よろしくお願い......します」


あんなに凄まじい威圧感を見せつけられた直後ということもあり、アタシはドン引きして引きつった顔のまま、らしくもなく中途半端な敬語で返すことしかできなかったのだった。


「............」


「............」


気まずい沈黙が流れる中、弦弥は不意にソワソワと視線を泳がせ始めた。

そして、屈強な剣豪らしからぬ仕草で頬をほんのりと赤らめ、まるで意中の相手に告白でもするかのようにモジモジと語りかけてきたのだ。


「......それでなんだが、一つお願いを聞いてくれないか......?」


「......な、何よ」


妙な距離感と態度の急変に、アタシは背筋をゾワリとさせて身構える。

すると、弦弥は照れ臭そうにしながらも、その瞳の奥にギラリと物騒な光を宿してこう言い放った。


「五百年間、ずっと刀を振れず、とっても退屈だったのだ。......頼む、拙者と一戦交えさせてくれ」


......もう。昔の人ってイヤ!!!!!


アタシは内心で盛大に頭を抱え、全力で叫んだ。

顔を赤らめて言うような台詞じゃないし、目覚めて数分で初対面の女の子にふっかけるお願いの重さじゃない。こいつもまた、ロッドとは別のベクトルで完全に頭のネジが飛んでいる自己中心的な戦闘狂だったのだ。


だが、彼の腰にある華剣シラサギから放たれる尋常ではないプレッシャーと、今にも抜刀しそうなワクワクとした武者震いを見るに、ここで「NO」と言って大人しく引き下がるような男ではないことくらい、アタシの勘が告げている。


「......はぁ。どうせ拒否権なんてないんでしょ」


アタシは深いため息を吐き出し、背中のゲヴェニアに手を伸ばした。

こうしてアタシは、呆れ果てて断ることもできず、神代の剣豪が五百年ぶりに体を慣らすための、絶対死人が出るレベルの恐ろしすぎる『ウォームアップ』に強制的に付き合わされる羽目になったのだった。

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