今後の展望
オゥノと『斬頭会』のメンバーを衛兵に引き渡して簡単に事情説明をしたあと、ラクの元にカナデ達が駆け寄ってきた。
「ラクさん…!ご無事ですか?お怪我は?」
カナデはラクの無事を確認するように、首に手を添わせて入念に調べた。
「大丈夫ですよ。見てのとおりです。」
「よかった…。首を斬られたときは生きた心地がしませんでした。」
「相手の強みを正面から叩き潰す方が、手早く済むこともありますからね。」
オゥノの属性強化が武器にまで達していなかったのをいいことに、ラクはあえて首を晒して攻撃を受けた。
【地式強化 鉄】は地属性の属性強化で、身体の硬度を細胞レベルで鋼鉄並みに上昇させる。
生体としての柔軟さを維持したまま、動く鋼と化した肉体は並の武器では断ち切れない。
オゥノ程度の実力では薄皮一枚斬られない自信があったため無茶をしたのだ。
しかし、物理攻撃には強くとも熱や電撃にはあまり効果をなさない。
それに風の属性強化は、武器に纏えば速度とともに切れ味も上がる。
力押しで魔力のコントロールが苦手なオゥノだったからこそ、可能だった無茶とも言えた。
事情を知らないカナデからすれば、心配しても当然の行動だっただろう。
よほど心配をかけさせたのか、カナデは涙をこぼしながらラクに抱きつく。
得も言われぬ罪悪感に襲われたラクは、遠慮がちにカナデの頭を撫でて謝った。
「ご心配をお掛けしました。」
「…もう無茶はしないでくださいね。」
「善処します…。」
涙を拭ったカナデは、ラクの曖昧な返事にジトッとした視線を向ける。
頭を掻いて苦笑するラクの様子に、小さくため息をついて困ったように笑ったのだった
ラクの父親、カイは深刻そうな表情で声をかけてきた。
「ラク、お前…。」
カイの表情と態度からラクは先程の失言を思い出す。
いずれ除隊の件は話すつもりであったものの、魔獣騒動で言い損ねていたことに罪悪感を禁じ得ない。
「悪い、親父。魔法騎士団の件は…。」
「…いい嫁さん見つけたなぁ、ラク。カナデ嬢が相手なら俺も文句のつけようがねぇ。」
「そっちかよ!?いや、まだ気が早えし!仕事のこと気にしてねぇのかよ。」
思わぬ返答にラクはツッコミを我慢できなかった。
カイは仕事について、なんでもないことのように言葉を返す。
「そりゃ、お前にも色々あるだろうからな。口出しするのは野暮ってもんだ。で、これからどうするんだ。」
「この街にいるつもりだよ。ハンターでもアズマ先生の手伝いでも何でもやるさ。」
ジンはひげを撫でながら思案顔をする。
「お前さんがハンターになったら、儂らは食っていけんかもしらんな。」
「まさか。この街じゃ信用も実績も少ないんだ。まだまだジンさんは引退させないよ。」
ハンターのランクは一定期間の貢献度で決まる。
難度や危険度が高い依頼は貢献度も高くなる。
しかし、ハンターが受注できる依頼は最大でも自身の一つ上までだ。
それ以上は失敗の可能性が高く、依頼主へも迷惑がかかるため正式受注ができない。
一応方法がないわけでもないが、基本的には身の丈以上の依頼は受注ができないと考えていいだろう。
ラクは元軍人とはいえハンターとしての貢献度がないため、信用がなく例外なく最低のEランクからスタートとなるだろう。
しばらくは低難度をこなすことしかできず、上に上がっても一人でこなせる仕事の数はたかが知れている。
ジンの言う仕事を独占される未来が来るとは思えなかった。
少なくともトウカが一人前になるまでは、ジンにも手伝ってもらうことが多いだろう。
「老人使いの荒いやつじゃわい。」
ラクの物言いに、ジンは呆れた口調で呟きながらも笑顔は隠しきれていなかった。
ラクがハンターになることで、ジンの負担が減るのは間違いないからだろう。
実際、ラクを知る住民にとっては安心感が増すことになるのは明白だった。
「ラク君がハンターになってくれるなら、我々にとっては心強いね。」
「ただ、襲われたとはいえギルドが支援するAランカーを潰したことで、敵に回さないかが心配です。」
ハンターのランク制度の中でAランク以上は高位ランクと称され、ハンターにとってもギルドにとっても特別な存在となる。
Aランカーはその実力を認められて緊急クエストなどの強制依頼が発生する代わりに、ギルドから様々な支援を受けられる。
仕事の報酬でその日暮らしをするハンターにとっては、衣食住などで支援金が出る高位ランカーは夢の存在だった。
ギルドにとっても、緊急依頼を頼める高位ランカーは貴重な人材に他ならない。
そんなハンターを倒したとなれば、ギルドにとって邪魔な存在として敵対される可能性もある。
それを恐れての発言ではあったが、ヒビキはそれをはっきりと否定した。
「それは問題ないと思うよ。今回のオゥノの行動は、住民の生活を脅かす犯罪行為でしかない。マリナーク商会としても証言は惜しまないよ。」
いくら実力が高くて仕事もこなす人材だとしても、犯罪行為を認めればギルドの信用失墜にもつながる。
戦闘能力が高いハンターは、裏を返せば犯罪を起こせばどれほど被をが出すか分からない危険な存在とも言える。
ハンターズギルドは優秀な人間を囲い込むとともに、監視・監理を担う役割も果たしているのだ。
そういった点で言えば、オゥノと『斬頭会』は存在そのものがギルドの面子を潰していたとも言える。
戦力的に領主軍ですら取締を渋っていた存在を潰したとなれば、ハンターズギルドとしてはラクに感謝こそすれ敵対することはないだろう。
「オゥノのスポンサーだったバロン商会からの支援も無くなるだろう。ギルドとしては懐も痛いところだろうが、うちが支援すると言えばギルドとしても願ったり叶ったりだろうさ。」
「よろしいんですか?」
「もちろんだよ。心だけじゃなく、形に残るお礼も必要だろう?」
ヒビキはカナデの方を一瞥するとニヤリと笑った。
からかわれ慣れたラクは、釣られて笑みを浮かべて肩をすくめた。
「借金がかさむ一方ですね。」
「公私ともに、今後もご贔屓にしてくれればそれで十分さ。迷惑だったかい?」
「いいえ。喜んでお力になりますよ。」
正直、悪い気はしていない。
カナデは、ただでさえ見目麗しい美人な女性なのだ。
加えて今回の件で心配をかけさせたせいか、可愛らしい一面も優しい一面も見えている。
これからゆっくりお互いを知りながら仲を深めていくのもいいだろう。
カナデも同じ気持ちだったのか、一瞬目があった二人は笑い合ってまた宴の中に戻っていった。




