表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
こんとん大戦  作者: 寿
58/68

天宮緋影


 長官は口をへの字に曲げた。

「そうじゃったのう、この二人は戦さが終わったら、元の暮らしに帰っていくんじゃったのう」

 どうにかならんか参謀、と大佐に顔をむける。

「ワシらはヤワラギの平和と独立を守るために戦っちょるんじゃが、それでもこんな娘御の願いひとつかなえられんとなると、それもまた問題じゃろ」

 腕を組み、しきりと長官は首をひねる。

「長官、おっしゃることはわかりますが、ここは………」

「おう、そうじゃったな」

 長官は思い出したように取り繕った。

 緋影も駄々をこねている場合でないと察したか、俺の胸から離れた。

「おほん、ワシが連合艦隊司令長官じゃ」

「海軍少尉、大矢健治郎と民間人天宮緋影です」

「君たち二人に来てもらったのは、他でもない。我が国としてはなんとしても、バルチック艦隊を殲滅せにゃならん。そこで、天宮さん。貴女の不思議な力をお貸しいただきたいのじゃが、いかがかな?」

 バルチック艦隊がどこから来るのか?

 来たとしても殲滅できるのか?

 いやそれ以前に、勝つことができるのか?

 それを可能にしたい。

 藁にもすがるような思いで、勝利を渇望している。

 それ故に、天宮緋影を呼び寄せたのだろう。

 もちろん緋影は、ハイと頭を下げる。

「長官がお望みとあれば天宮緋影、軍艦に乗りヤワラギ艦隊に寿(じゅ)を、バルチック艦隊には(じゅ)を賜りましょう」

 長官はカラカラと笑った。

「なかなかに勇ましい娘さんだ。連合艦隊司令長官として、戦艦三笠に歓迎するよ」

「おまかせ下さい!」

 と、ここで長官は話を区切り。

「ここからは、私人東郷の話になるのだが、緋影さん」

「なんでしょう、長官?」

「申し訳ない………この東郷、この通り頭を下げます」

 いきなり脱帽、長官は頭を下げた。

「本来ならば守られなければならない緋影さんを、軍艦に乗せてともに戦火をくぐらせなければならないのは、ひとえに帝国海軍の………いや、この東郷のだらしなさが原因。どうぞお許しください」

 当たり前のことだが、ヤワラギ帝国海軍連合艦隊司令長官は、たった一人しかいない。

 昨今の世界情勢においては、我が国の内閣総理大臣よりも重職にある人間だ。

 その長官が、若い娘に頭を下げている。

 大臣か帝か、そのくらいしか頭を下げる相手のいない、連合艦隊司令長官がだ。

「お顔をおあげください、長官」

 緋影はそっと微笑む。

 まるで叱られることを恐れる子供に、慈しみをおぼえた母のように。

「長官がお気になさる必要は、まったくございません。………天宮緋影という職は、そういうものなのですから」

 国難あらば立つ。

 立ちて国に報ゆ。

 例え死すとも。

 何度でも人としてよみがえり、必ずや皇の大恩に報ゆ。

 それこそが、天宮緋影であると優しく述べた。

「天宮緋影は一人ではありません。代々子々孫々、天宮緋影は受け継がれてゆきます。幸いなことに私のような、国難に挑む天宮緋影もいれば、なにごともなく平穏に次の世代へ名を引き継ぎ、残念と肩を落とす天宮緋影もいました。例え身は、ヤワラギの海に消えるとも、天宮緋影は滅ぶことなしです」

「天宮緋影とは………それほどまでに過酷なものなのですか………。個人の欲を棄て、希望を棄て、ただ一途に国を思う。そのような生き方しか、許されとらんとか!」

「欲をかなえるためには、かくしてかくすればかなうと知りながら、それより重い天宮の名です」

 長官の節くれ立った手をとる。

「などと申しておきながら、私の役割はバルチック艦隊を呼び寄せることだけ。………そのあとの戦さは、お願いしますね」

 きっとヤワラギ帝国に、吉報を届けてください。


 それこそが乙女・天宮緋影の切なる願いであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ