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こんとん大戦  作者: 寿
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レストラン


 ルーレットが回された。

「ベットをお願いします」

 ディーラーの言葉を、出雲鏡花が訳してくれた。

「レディファーストです、お嬢さんからどうぞ」

 バロンはキザな仕草で緋影をうながした。

「では失礼しまして」

 緋影は黒のエリアにチップを積んだ。

 バロンは赤のエリアだ。

 これまでの流れを当たり前のように見ていたが、なにも緋影がギャンブルの席に着く必要は無い。

 もしかすると緋影は、単にルーレットで遊びたかっただけなのでは?

 いや、もっと踏み込んで言うならば、ギャンブルをやりたかっただけなのでは?

 ディーラーはウィールにボールを投入した。

「ベットの変更はございませんか?」

 緋影がうなずく。

 バロンもうなずいた。

「ノー・モア・ベット」

 ベットの変更は、もう許されない。つまり、ここからが本当の勝負だ。

 ボールの勢いが落ちてくる。

 使鬼たちはバロンの裸体など忘れたように、ルーレットへ視線を注いだ。

 ボールは19番のスロットに落ちた。

 赤、バロンのゲームだ。

 黒のエリアに積んだ緋影のチップが、無情にも回収された。

 キリッという音がした。

 見ると緋影が、奥歯を噛み締めている。

 パキッという音がした。

 見ると出雲鏡花が、ルーレット用のチップを、指先で割っていた。

 使鬼たちは、ホウッと息をついている。

 つーかお前ら、主の危機に立ち上がらんでいいのか?

 二戦目がはじまる。

 緋影はまたもや黒にベット。これは正しい手だ。同じ色に連続して、ボールが落ちる確立は低い。

 が、しかし!

 ボールは9番のスロットへ。

 またしても赤だ。

 つまり緋影の敗北だ。

 全裸確定である。

 と、思ったら?

 他の人間からは姿が見えない、輝夜がボールをつまんだ。

 そのまま31番のスロットに放り込む。

 判定は黒、緋影のゲームになった。

「こんなの有りかよ」

 独り言のつもりだった。

 しかし出雲鏡花が反応する。

「あら、なんのことですの? 私にはサッパリですわ」

 わかってやがるな? 使鬼たちの存在に。

 本人はとぼけているつもりだろうが、俺には丸わかりである。

 何故なら緋影が、とても悪い笑顔で出雲鏡花に目配せしているからだ。

 とりあえず、ラバーマッチである。

 星が一対一のイーブンで迎える、決勝の三戦目をラバーマッチと呼ぶ。

 今度は二戦目を落としたバロンが先攻。

 すべてのチップを、赤のエリアに積んだ。

 観客から、「おぉ!」と声がもれる。三戦連続して、変わることなく赤に張ったからだ。

 緋影も当然のように、すべてのチップを黒に積む。

 すでにルーレットは回転し、ボールも投入されていた。

「ノー・モア・ベット」

 ディーラーは勝負を宣言する。

 ルーレットの回転と、ボールの勢いが落ちてきた。

 象牙色のボールはスロットに落ち着く振りをして飛び出し、またスロットに入り込んでは飛び出しを繰り返す。

 どこに納まる?

 使鬼たちがイカサマをするとわかっていても、ボールの行方を目で追ってしまう。

 ボールは35番に落ち着いた。

 黒のスロットだ。

 緋影の勝利を、ディーラーが宣言する。

 バロン明石は天を仰ぐように、大きく息を吐いた。

 いつの間にか服を着ていた。油断のない男だ。

「負けましたよ、お嬢さん」

 明石大佐が握手を求めてきた。

 気をつけろ緋影、大佐はスケベったらしい色男だ。握手しただけで赤ちゃんができるかもしれんからな。

 そう、正装すると明石大佐は、実に男前が上がった。

 どこからどう見ても、上流階級の一流紳士にしか見えないのだ。

「どうやら今夜は、貴女のための夜のようだ」

「まだお昼ですけど?」

「では、ランチなど御一緒にいかがですかな? 私が良い店を紹介しましょう」

 大佐の案内で、ルーレット用のチップを現金に変換する。

 あえてホテルを出て、大佐は裏通りに入った。

 ビルディングの谷間を通り抜け、静かなたたずまいの宿屋兼レストランに入る。

 テーブル席が三つだけの、こじんまりとした店だった。そして昼時だというのに、客は少ない。

「ここは人目を忍んで訪れるような店なのでね」

 簡単に言うと、密会などに使われる店らしい。

 女給が歩み寄ってきた。

「四名なんだけど、奥は空いてるかな?」

 女給は空いておりますと答え、大佐を案内する。俺たちはそれに続いた。

 女給はよく太った白人女性で、肌が驚くほど白い。

 そして歌うような滑らかさで、フランス語を操っていた。

「オロシヤ人なんだよ、彼女は」

 大佐は俺の目を見て言った。

 つまり、この店がどのような店なのか察しろ、ということだ。

 大佐のおかげでオロシヤ本国は、革命運動真っ盛り。

 その大佐が出入りする、オロシヤ人のフランス・レストラン。

 つまりこの店は、反オロシヤ政権勢力の拠点ということになる。

「大丈夫なんですか?」

 かえってこのような店は危ない。

 その認識で、大佐に訊いた。

 大佐は振り向き、ふたたび俺の目をとらえる。

「大丈夫な時は、大丈夫。そうじゃない時は、そうじゃない。そんなものだよ、僕の仕事は」

 いやしかし、俺たちは大佐の護衛のために海を渡って来たのだ。あまり「運を天にまかせる」的なことは言わないでもらいたい。

 大佐は笑い出した。

「おいおい、そんな困った顔なんかするものじゃないよ。僕は君たちだけが頼りなんだから」

 全然頼りにされてる気がしない。

 むしろ大佐の場合、カジノで全裸になっている方が安全なのではと疑ってしまう。

「達観してらっしゃいますね」

 緋影が言う。

「そう見えるだろ? だが実際には、不安と恐怖で胸が一杯でね、貴女のように素敵なマドモアゼルの膝で、甘えていたいん………」

「お断りします」

 緋影、速答。

「ではそちらの貴婦人………」

「高くつきますわよ?」

 出雲鏡花、電光石火のお断り。

 しかし、もしも出雲鏡花が大佐の申し出を、受け入れるようなことになったら………。


 海を渡り大陸を越えて、パリへ飛来する脚部、胸部、そして頭部。

 大佐の目の前で合体し、完成するジャイアント・出雲大介・ロボ!


 ………うん、あのバカならやりそうだ。

 もしもそんなことになったら、ヤツの暑苦しさでパリの気温が上昇してしまうだろう。

 迷惑だから絶対来るなよ、出雲デカブツ大介。

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