【踏み抜けてしまった階段①】
何度も転びながら、森の奥に続くけもの道をオートバイで進む。
後輪が木の根に滑り空転して転びそうになったのを何とか足で踏ん張って耐えた。
もう熱くてヘルメットなど被っていられないが、ヘルメットを外したままで転倒して頭を打ってしまうと成すべきことが成しえなくなってしまうので、ここで一度ヘルメットを外して止まることにした。
止まると言っても、これは物理的に泊まるという作業に過ぎず、前に進まないという訳ではない。
こうして止まることで上がったままの血圧を下げて体温を冷ますことや、周囲の状況確認、そしてオートバイの操作に忙しくてなおざりになっていた部下との連絡を行った。
搬入搬出の都合で遅れて出発した医療班は順調にこっちに向かっていて、あと20分で到着できると返事があった。
20分……。
思ったより早いとは思うが、もっと早く来て欲しい。
けれども急がせてもし事故でもされたら到着時間がより遅れるだけでなく、緊急手術に必要な医療機器の不具合や医師の怪我によって万が一の場合に用意したものが役に立たなくなってしまうことも考えられる。
だから私は焦る心を抑えて、彼らに安全を最優先にして来るようにとだけ伝えた。
連絡を終えヘルメットを再び被ろうとして止めた。
なんとなくクラウディのことが気になった。
彼女もグリムリーパーに強い執着を持っている一人。
そしてクラウディは今このパリにいて、この状況も知っている。
彼女には余計なことはするなとは伝えてあるが、クラウディもグリムリーパーのせいで家族を失い私と同じような境遇。
もしも私が彼女なら、この復讐のチャンスをみすみす見逃すはずはない。
たとえそれで自ら死を選ぶ結果になったとしても。
クラウディに連絡を試みるが、やはり彼女は出ない。
予想通り。
私は急いでヘルメットを被り、オートバイを走らせた。
何かあってからでは、取り返しがつかない。
むろんクラウディによってナトーが死んでしまう事は一時的に悲しい気分になるのかもしれないが、その気持ちはおそらくすぐに収まる。
ナトーがグリムリーパーとして犯してきた罪は、一回の死で補えるようなものではないのだから。
ナトーは彼女が殺した全ての死を償わなければならない。
ただナトーはグリムリーパーと言う死を司る神。
もしこれが本当であるとすれば、彼女は決して人間の手によって倒すことは出来ない。
そればかりか神に逆らう者には必ず罰がくだされるはず。
“罰とは、いったい……”
私はそのことを考えるのが怖くて、無我夢中でオートバイを走らせた。




