【和解への第一歩】
「いいのか、それで」
僕はナトーに話しかけた。
なぜ手を離さないのかと聞くと、彼女は聞いていたんだろうとだけ答えた。
そして少し考えたあと、思いもかけないことを言った。
「俺には貴様の体を屋上に持ち上げる力はない。だからお前は俺の体に掴まって自力で屋上に登れ」と。
しかしナトーは戦いの中で着ていた服は剥ぎ取られて。まるで裸同然。
そのことを気にして言ってもなお僕に登れといったので、僕が登った後で僕が君を助ける保証はないことを伝えると彼女はそれでも死者が2人出るよりはマシだと言った。
死者が2人出るのが嫌ならその手を放せという僕に、彼女は嫌だと答えた。
グリムリーパーは死の使いではなかったのか……。
戸惑いながらも僕は悪党らしく悪態をつきながら、彼女の体をチェックしながら登った。
均整の取れた体には女性特有の皮下脂肪は薄く、筋肉に武装されていた。
それでも胸と尻にはタップリと皮下脂肪が付いていて、この部分が彼女のタフに戦えるエネルギーの源になっているのだと思った。
実際にボディービルダーのようなマッチョマンは脂肪が少なくて持久力はない。
皮下脂肪は、いってみればラクダのコブと同じで大切なエネルギー源となるものだ。
ナトーは理想的な女性らしい体型と、理想的な戦士の体型を併せ持っている。
屋上に登った僕はすぐにナトーを助けずに、次にまた爆発が起きたときのことを考えて安全策をこうじてから、ナトーを助けるために身を乗り出そうしたところ4階の窓から思い切り身を乗り出して拳銃を向けているハンスに気が付いた。
彼も自分の兄を殺したのがナトーである事にはもう気付いているはずなのに、なぜそのナトーを守ろうとするのだろう?
以前から僕はそれを不思議に感じてきたが、今は少し分かる気がする。
ナトーは戦争を戦ってきただけに過ぎない。
戦争だから敵を殺した。
イラク、そしてアフガニスタンと。
しかし彼は甘い。
いくら戦争だとわりきったとしても、許すことのできる関係と出来ない関係があることを。
たまに会う友人としてなら許すことも出来るだろうが、それが家族となれば許せないときも必ずでてくる。
家族の中での我慢は意外に長くは続かない。
そしてそのとき家族の絆は崩壊してしまう。
ハンスを見たあと、ナトーの目を見た。
彼女の目は、救いを求めてはいなかった。
まるで僕の次にする行動をただ観察しているだけのような冷静で無機質な眼差し。
だがそれはまさに僕の心を射貫くような、神の眼差しそのものだった。
グリムリーパーは死を司る神であり、尊く、決して殺人者ではない。
だから戦争ではない今の状況下で、彼女は僕の部下を誰一人として殺さなかった。
僕はナトーの手を強く握り、上に引き上げた。
「わかっているのか? 俺を助けたと言う事が、お前にとって、どのような事を意味するものなのか」
引き上げたときに、ナトーが言った。
僕は「まあな」と他人事のように答えると、彼女は何故助けた?と更に聞いてきた。
正直に僕は「自分を見つめなおす時間のため」だと答えたあと、人生において、たとえ立ち止まったとしても、そう言う時間も必ず必要になると付け加えた。
これはナトーへの返事と言うよりも、僕とサラのために必要な事だと思った。
僕たちにはおそらくお互いの気持ちを整理し合う時間が必要なのだ。
いままで僕たちは自分のやるべきことに真直ぐに向き合っていて、相手の気持ちを深く考える時間もなかった。
おそらくサラは、こう考えているのだろう。
おそらくメェナードさんは、こう考えているのだろうと。
相手の邪魔になることを気にして、お互いに無理に話し合うことを避けていた。
でもそれは間違いだった。
僕たちは檻の中と外で、ゆっくり話し合うことが重要で、その時間をナトーは提供してくれたのだ。




