【メェナードさんへの想い】
空港から車ではなくオートバイを借りて来たのは正解だと思った。
何しろ街中は酷い渋滞だったから。
ところが郊外に出てみると、それは失敗だったかも知れないと思うようになった。
そのきっかけは、1回目の爆発音が聞こえたとき。
正確な方向まではヘルメット越しでは分からないが、この爆発音はメェナードさんの居るパリ支局の方からだと思った。
パリ支局に爆弾なんて置いていないことは分かっているが、あそこはスクラップ工場の跡地。
スクラップ工場であればアルミや鉄くずもある。
もちろんその2つは混ざり合うととても危険なので置き場は離れているが、意図的にそれを混ぜたとしたら……。
メェナードさんが、そのような危険なことをするはずはない。
つまりこれはメェナードさんのパリ支局を破壊しようとする誰かの仕業。
メェナードさんの身に危険が迫っているに違いない。
それなのにこのオフロードタイプのオートバイは、たいしてスピードも出ない。
しかも医療機器などの資材は私が背負っているバックパックと、オートバイに括り付けてあるから無理にスピードを出して転倒でもしてしまえば一瞬で全てが水の泡になってしまう。
車なら少々何かにぶつかったとしても何とかなるのだが……。
こんなにメェナードさんのことを思うのであれば、やはりあのケーニヒスベルク大聖堂で久し振りに彼と会ったときに私はメェナードさんの言うことを聞いて折れるべきだった。
死んだ人間はどういう経緯で死んだにしても、二度と戻って来ることはない。
私の誤った判断。
私の誤った憎しみに、メェナードさんを巻き込むわけにはいかない。
なんでも話せるメェナードさんだから、私はグリムリーパーへの復讐心を彼に話した。
復讐心なんて何も良い未来を生み出さないことを一番よく理解しているつもりだったのに。
私にとって一番大切なものは、死んだローランドやオルソン軍曹たちじゃない。
もちろんグリムリーパーを殺す事でもない。
私にとって一番大切なのは、メェナードさんと過ごす時間。
国境のホテルで、空いている食堂で初めて会った時から好きだった。
もっともガキだと思って舐めた態度をとって近付いて来たときは嫌な奴だと思ったけれど、次の日の朝出発する時に彼が居なかったのは本当に寂しかった。
おそらくその時から私の心はメェナードさんに夢中になっていたのだろう。
12歳としては頑張ってきたつもりだけど、その後言われたヘブライ大学の入学試験に合格するミッションを突き付けられたときは正直心が折れそうになった。
やれない事はないとは思ったけれど、準備期間が短すぎたから。
それでも頑張れたのはメェナードさんが居てくれたから。
私はメェナードさんと一緒に居たくて入学試験も無事に乗り切り、ファイファの研修施設での虐めにも耐えることができた。
以前の私なら、私を虐めた人はもちろん見て見ぬふりをしていた同級生や、そんなことを気にもかけない先生たちと共にあの施設を焼き払ったことは間違いない。
優しいメェナードさんの心が、私に我慢という力を与えてくれた。
そのとき2回目の爆発音が響いた。
かなり近い。
メェナードさんのパリ支局はもうすぐだというのに、その爆発音の破片は私の心臓に突き刺さったような不安を抱かせた。
早く行かなければ!
しばらく走るとパリ支局のある産業廃棄物工場につながる林道が現れた。
林道には真新しいタイヤ痕があった。
おそらくこれはナトーを救うために進入した外人部隊のものだろう。
ここから入って行くと、外人部隊に行く手を阻まれるだけでなく、水蒸気爆発が起こっている現場のすぐ横も通らなければならないので止めた。
“この緊急事態に、面倒なことをしやがって!”
私は道を先に進み、どこかにアプローチできるような所がないか探すと、人一人通れるような、けもの道があった。
結局オフロードバイクにしてきたことは正解だった。
吹き飛ばされる僕の手をナトーが掴んだ。
“馬鹿なことをするな!”と言う間もなく、強烈な爆風は僕たちの体ごと吹き飛ばす。
ナトーの体は僕にぶら下がるように飛ばされていたが、彼女はさっきまで僕が使っていた鉄パイプを足で蹴り上げると開いた方の手で握りそのパイプの先を崩れた塀の隙間に出来た亀裂に突き刺した。
僕たちはビルの側面にぶら下がる事が出来た。
屋上から落ちずに済んだが、僕たちが助かる見込みは極めて薄い。
ナトーの片方の手はパイプを握っていて、もう片方の手は僕の腕を握っているから身動きが出来ない。
それに穴に刺した鉄パイプの状態が、どうなのかも分からないから、下手に動くと外れてしまうかも知れない。
ナトーが唯一屋上にいる味方のエマ少佐を呼ぶが、彼女もまた今の爆発で再びパイプの下敷きになり身動きが取れなくなったらしい。
ナトーは次にハンスとブラームを呼んだが彼らはまだ4階に居たままで、ナトーに僕を握っている手を放すように言った。
ナトーが拒否すると、ハンスが銃を構えたがナトーは「誰も死なせはしない!」と言い、ハンスも銃をしまった。
僕は爆風を受けて朦朧とした意識の中でそれを聞いていた。




