【メェナードさん VS ナトー⑥】
ナトーは僕の出所が分かりにくい変則キックに戸惑いを見せていたものの、次第に対処できるようになってきた。
なんという学習能力の高さ!
さすがサラの妹だけのことはある。
しかしサラなら綿密に相手の特徴を分析して対処方法を見出て勝利を決定づけたところで自らの身を相手に晒し、決してナトーのように危険を伴うような行動はしない。
おそらくそこが、この姉妹の決定的な違い。
体が小さく、幼少期からたった一人で生きて来たサラと、体が大きく常に誰かの傍で育ってきたナトーの違い。
一人のサラの人生は、1度の失敗が命取りになり兼ねない。
ナトーの場合は、たとえ自分が失敗したとしても、リカバリーしてくれる誰かが居てくれる。
この屋上での戦いにしても、今は崩れたパイプに挟まれて身動きの取れないエマや、屋上に上がる通路を塞がれているハンスとブラームだってもうすぐ来る。
いま気絶している僕が雇った部下たちが、その時に目が覚めたとして彼らを止めるような働きは到底出来っこないことは明白。
つまり僕はナトーと戦いながら、ナトーの仲間が到着する時間とも戦わなければならない状況下に置かれている。
そしてそれはあのザリバン高原での戦いでも同じだった。
効果的な増援が全く期待できないザリバン側勢力と、時間と共に各方面から増援部隊が来る多国籍軍との戦いでは、常に時間を気にしていなければならない。
時間が経てば経つほど不利になるから、焦りが生まれる。
そして焦りは……“ヤバイ!僕も今その状況に陥っている!”
冷静でいたはずの僕が、いつの間にかナトーに有利になるように得意技を連続して出してしまっていることに気付いた。
得意技は不意に出すことで相手を惑わし、効果も期待できる。
なのにこう連続して繰り出していれば、相手にその軌道を学ばせているようなものだ!
僕はすぐに蹴りによる攻撃を止め、床に落ちていた鉄パイプを拾い上げると、ナトーの顔が一瞬曇るのが見て取れた。
危ない危ない、おそらくナトーは次に僕が蹴り出すところを狙っていたに違いない。
もう少し気付くのが遅ければ、今ごろ僕はこの床に気絶して、後はサラに迷惑をかけていたことだろう。
ナトーが合気道の達人で鉄パイプによる攻撃にも対処できることは部下たちに攻撃させて分かっていた。
だが合気道には限界がある。
合気道は本当の強さでない。
だから合気道をつかって相手に負けない手立ては取れるが、決して勝つことは出来ない。
部下が負けるのを目の当たりにしてきた僕が言うのも変な話だが、僕が差し向けた部下たちはとてもナトーに勝てるほどの技量がなかっただけ。
だが僕は違う。
おそらく世の中の悪党たちは、そう思って倒されて行くのだが、僕は悪党ではないから冷静に自分とナトーを分析した結果、僕は彼女には負けないことを確信した。
ナトーは振り回す僕の鉄パイプを避けて移動するだけ。
つまり逃げ回っているだけの状態だが、彼女はただ逃げている訳ではない。
僕の体力が早く消耗するように、わざと吹き飛ばされてきた瓦礫の散らかっている足場の悪い所を探して通り、背後に障害物のある所で鉄パイプを振らせている。
サラに似てナカナカ興味深いアイディアを持っている。
だが僕は過去に野球もやっていた。
しかもプロから声が掛かるほど打撃の才能は優秀だった。
だから瓦礫を投げてくるナトーに、その瓦礫を鉄パイプで打って返してやった。
ナトーは俺が避ける所を狙う作だったのだろう。
投げた瓦礫を打ち返されて、自分が避けることとなって驚いた顔は素直で可愛らしかった。
彼女の顔面を目掛けて打ち返すことでこの勝負は簡単にケリがつく可能性も高かったが僕は敢えてそれをしなかった。
彼女を殺すにしても、僕は綺麗な状態でその死体をサラに届けなければならない。
そして更に難しいのは、放っておけば死に、すぐに高度な治療を施せば生きていられるように始末したいと僕は思っているから。
そうすれば今は自分の大切な人たちを次々に殺していったナトーを恨み、復讐心に燃えているサラの心を正常な所に戻すことができると思う。
ナトーの生死をサラに選ばせるためには、なるべく綺麗な状態で届けなければならない。
そしてサラは屹度わかってくれる。
家族が唯一無二の大切な存在であるということを。




