【メェナードさん VS ナトー⑤】
サラの妹ナトーは、素晴らしく勘が良い。
戦っているうちに自分でも可笑しいほど楽しくなってきた。
まるでお互いにクイズを出し合っているみたいだ。
もっともナトーの方が、そう考えているかどうかは分からない。
僕が思うに彼女はサラと違い頑固なほど真面目を絵にかいた性格のように見受けられるから、きっと僕のようにこの格闘戦を楽しんでいるわけではないだろう。
これがもしあの好奇心旺盛なサラだったら、思いもよらない攻撃の仕方やビックリさせるような奇抜なアイテムを繰り出してきて試合後に僕たちは洒落たカフェでその話をして何時間も楽しむことになるだろう。
たとえばと思い、ナトーに少し威力の弱い裏拳を出してみる。
ナトーは合気道の達人でもあるから、この裏拳を逆手に取って投げ技を繰り出そうとして止めるはず。
何故なら彼女は、僕がわざと手を取らせて彼女が投げを打つタイミングに合わせて投げを打つことに気が付くだろう。
案の定ナトーは僕の裏拳に手を伸ばしたが、掴む寸前に慌てて手を引っ込めた。
どうしたのかと聞くと、僕に「いま何をしようとした」と怒るような顔をして言った。
死神と呼ばれ、世界を震撼させた冷徹無比の狙撃手のくせに、ナトーは甘い。
これがサラだったら、おそらく指輪に仕掛けた何らかの機能を使って、サラの手を取った瞬間に僕はKOされてしまうだろう。
サラは勝つことに手段は択ばない。
何故か?
それは勝負の目的で最良な結果が、勝者になることだからだ。
ナトーに僕の得意な軌跡の読み難い右のミドルキックをお見舞いする。
初めての対戦で、このキックの軌跡を正確に読み切ったヤツは居ない。
ナトーも過去の対戦相手と同じ様にまだ読み切れていないが、上手く僕が狙っている付近を肘でガードしてみせたのはさすがだ。
しかしこのキックは僕の90キロの体重が乗ったキックだ。
とても体重70キロ足らずのナトーに防げるはずもなく、キックをブロックした彼女の体は少し横にブレた。
ホンの小さなミスだったが僕はそれを見逃さず立て続けに左の後ろ回し蹴りから右のハイキック左からのフックに右のストレートとラッシュし、ナトーは一旦傾いてしまった体を修正できないままそれらの攻撃をただ避けながら逃げるしかなく僕はナトーをビルの壁際迄追い込んだ。
彼女がようやく体勢を戻すことができたのは、崩れ残った塀に背中が当たった時だったが、その1メートル隣の壁はさっきの水蒸気爆発の衝撃で崩れ落ちていた。
あの攻撃を受けながら後ろを確認する余裕はなかったはず。
これはおそらく偶然ではない。
ナトーは計画的に不利な体勢を断ち切るために、僕をこの場所に誘導したに違いない。
ボクシングでも相手が後退している間は、勢いに乗った攻撃をすることができる。
観客はそこで一斉に盛り上がるが、相手をロープ際に詰めてからは効果的な攻撃がしにくくなり以外にこのロープ際というのは曲者。
つまり有効な攻撃を打ち続けるには、一定の距離が必要なのだ。
「1mズレていたら、下に落ちて死んでいたな」
僕はフィニッシュを考える間を相手に悟られないように、ナトーに声を掛けた。
追い詰められたナトーは、ダメージがあったのか膝が折れその場に座り込むようになった。
一瞬その行動に目を縦に動かしてしまった僕は、次の行動がほんの少し遅くなり、ナトーはその低い姿勢から回転して僕の足を払った。
咄嗟に避けたが、やはり一瞬遅く、僕は少しバランスを横に崩してしまった。
直ぐに起き上がったナトーは、僕がバランスを崩した方向に側転しながら、上がった脚で僕の首を蹴る。
決して威力のある蹴りではないが、既にバランスを崩しかけていた僕は更にバランスを崩し横にふらついた。
ナトーは側転から立ち上がると、僕がよろめく方向にキックを放ち、僕の体は大きく後ろに仰け反ってしまった。
体幹がズレた状態では攻撃の動作は出来ない。
ナトーは様々なカンフーキックで波状攻撃を掛けてきて、僕はいつの間にかさっきナトーを追い詰めた塀まで追い込まれていた。
「1mズレていたら、下に落ちて死んでいたな」と、ナトーが僕と同じセリフを言った。
“コイツ、とてつもない負けず嫌いだ!”
やはりサラの妹だけのことはある。
血は争えない。
いつの間にか僕はサラに代わってナトーを殺す事よりも、とことんこの子と戦ってみたい衝動にかられた。




