【メェナードさん VS ナトー③】
「司令!」
部下に呼ばれてモニターを見ると、見張りの2人がナトーとハンスに締め上げられているところだった。
やはり見張り2人だけでは駄目だったが、ナトーの実力を考えれば人による見張りなど意味がないことは最初から分かっていた。
たとえ部屋に10人配置しておいたとしても、奴は最初のターゲットから銃を奪い取り残りの9人を瞬く間に撃ち殺すだろう。
それが死神と呼ばれる所以でもある。
死神は本当の神なのかも知れないと思った事が何度もある。
今回も上手く捕まえたのは良いが、監禁した部屋で彼女と話をしている僅かなタイミングでナトーの仲間たちが外の監視カメラのセキュリティシステムに気付かれずに侵入した。
エマと言うDGSEの女将校が仕掛けたお色気作戦に、我々のセキュリティ担当者たちはまんまと引っ掛かってしまったようだ。
だが、その侵入した部下たちも、私は閉じ込めることに成功した。
ナトーとの対決は誰にも邪魔はさせない。
私はサラに恨まれたとしても、彼女の手を血によって汚れさせないし、彼女の生涯にわたって傷を残したくはない。
サラが自身の妹を殺すというのであれば、喜んで私がナトーと刺し違えるつもりだ。
もっともナトーが私の仕掛けた罠に上手くハマれば、私が命を懸けることもないのだが。
しかしナトーは私が仕掛けた巧妙な罠に気付き、部屋から脱出した。
だがこれも想定内。
ザリバン高原で私の仕掛けたタコツボの爆破トリックを見破った彼女なら、こんなトリックに易々と引っ掛かるとも思っていなかった。
だが次は、どうだろう?
まもなくミランを乗せたヘリがココにやって来る。
まさか幼い頃、赤十字難民キャンプで自分に優しくしてくれたミランが我々の側に居るなんて気が付けばナトーも動揺するだろう。
屋上へ続く通路は防弾仕様のシャッターで閉ざしてあるから、いまからこれを開けようとしても間に合わない。
ヘリと言うやつは、低空で飛んで来るので信じがたいほどの爆音を発生させながら近付いて来る。
ナトーが私を止めるためには、ビルの窓から屋上に上がって来るしかないが、屋上から地上へと伸びていた排水管はこの日のために全て撤去してあるからそれに掴まって上がって来ることは出来ない。
上がってくるためには窓から身を乗り出した一人の肩の上に、もう一人を立たせて、更にその肩の上に上がらなければ屋上には手が届かない。
少しでもバランスを崩せば3人共地上に落ちて死ぬ。
つまり一人の並外れた勇気と技量だけでは、屋上に来ることは出来ない。
屋上には沢山の水蒸気が霧のように立ち込めていた。
外人部隊の奴らが、我々を逃がさないようにワザワザ視界を悪くさせている。
しかし彼らは分かっていない。
水蒸気は手や足を滑りやすくさせることを。
しかし奴は屋上にやって来た。
ナトーの顔はまだ見ていないが、一緒に屋上に上がった仲間の人数が少なくなっていることからすぐに彼女が来たことは分かった。
霧の中でミランを乗せたヘリはナトーの射撃により片方のエンジンをやられたので後退させた。
双発エンジンでなかったらヘリは墜落していたことだろう。
なんという正確な射撃……しかも、いつの間にか私の仲間はことごとく倒されていた。
後退させたヘリが私を回収しようとして再び接近を試みる。
余計なことを。
どうやらミランと言う男も、私同様に悪人になる素質には恵まれていないようだ。
と、そのとき、ドーンと言う爆発音とともに体が空気に押された。
さっきから立ち込めていた水蒸気は更に濃く、しかも熱くなった。
テルミット反応!
外人部隊の奴らが、しきりに水を撒いていたのはこの目的のためだったのか。
さすが、ナトーの仲間たちだ。
屋上の端にあったパイプラインはこの爆発のために崩れたらしく、ナトーの後に屋上に上がり彼女を援護していたもう一人の悲鳴が聞こえた。
直前に起きたパイプの崩れた音から察すると、パイプに挟まれたのか怪我をしたことは確かなようだ。
これにより、屋上で自由に動くことができるのは私とナトーの2人きり。
死神の実力とやらを、とくと拝見させてもらおう。
だが私は負けない。
たとえ死ぬにしても、サラのために私はナトーを道連れに死ぬ。




