この想いは気づいてはいけない
それは今まで見てきた腹に何か変えてるか分からない嫌な笑みとか貼り付けの笑みともまったく違っていて…。ただ、普通の男の子として笑う彼がいた。
夢でも現実でも見たことのないその純粋な笑顔はとても綺麗だと、何よりも彼らしいと思えた。
それと同時にこの人もただの子供なのだと思えて――愛おしいなと…
「―ッ!」
今、私何を考えて
カァっと頬に熱が集まるのが分かる。何考えてるのよ!!?
相手は殿下よ?気の迷いにもほどがあるわ。
思考を切り替えるよりも先にダンスが終わりを告げる。無事に殿下の足を踏むことなく終われたので良しとしよう。
熱くなった頬を覚ますように手で仰ぐ。
これはいきなりダンステンポを変えられたために、焦ってしまったからよ。
他意はないのよ。そうよ。他意はないの。
「リズ」
「殿下、ダンスを共にしてくださりありがとうございました」
「ああ、私もとても楽しかったよ。テンポ変えてもついてこれたのは君が初めてだったからとても楽しかった、本当に」
つまり、他の令嬢にもやったことがあり他の子だと殿下の足を踏んでいたと。それなら私も踏めばよかった。日頃のお返しに踏んでやればよかった。
スッと殿下が私に近づき、ショールの結び目に手を付け何かを施す。
殿下が離れると私のショールの中央部分にはシャンデリアの光を受けて煌めく花が収められていた。
その花は殿下と同じ金色を纏い、咲き誇る花―の形をした宝石はどこからどう見ても高価かつ貴重なものだ。
「で、殿下これ」
「おめでとう、リズ。君に出会えたことに感謝を」
その瞳はうっそりと熱を帯びているように見えて声が詰まる。
宝石の花と同じ色を纏うこの人が、私にプレゼントした宝石になんの意味もないと思うにはいろいろ無理があって…
どうして、この色にしたのかすごく問いただしたい。
だって、これじゃあ私が、否が応でも殿下を意識しているように思われるではないか。
「あ、、これ、、な、」
「君に似合うと思ったから。あとは私を忘れないようにするために…かな?」
言葉にならない私の声を殿下は易々と拾い、言いたいことを踏まえて教えてくれる。
聞きたくなかったような、どうしていいか分からない感情が溢れてやまない。
心臓がぎゅっとしてどうしていいか分からない。
ただ、この人の顔を見たらなんだか泣いてしましそうで。少し俯いたまま「ありがとうございます」と告げる。
それに満足したのか殿下は私の前から離れていく。
ずるい。こんなのずるいではないか。
貴方はそんな顔を私に向けてこなかったではないか。つまらなそうな貼り付けの笑みしか向けてこなかったではないか。いくら私が頑張っても見向きもしなかったくせに
なんで、今、あんな顔で私を特別扱いしようとするの?貴方はいつか私を殺す癖に…
コツリ
私に誰かの影がかかる。
俯いていた視線を上げればどこか困ったように笑いながら手を差し伸べるヒルデ様が立っていた。
「リズビア様、ひと時の夢を共にしませんか?」
ダンスの約束を確かめ合う形式的な言葉がヒルデ様から紡がれる。
ああ、そうだ。まだここはパーティー会場だ。
私がガーナ公爵家の令嬢として立ち居振舞わなくてはいけない場所なのだから…
一度深呼吸をして、閉ざしていた瞼を持ち上げる。
大丈夫。まだ、私はリズビア・ガーナとして立てるから―
「喜んでお受けいたします」
貴族子女としての笑みを彼に向け、その手に自身の手を重ねる。
リズが抱えている気持ちがいったい何なのか…
それを知ったらどうなるのか
誰も知ってはいけない秘密
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