ドレスと対面
「お嬢様、おはようございます。朝ですよ」
「ん~」
もぞもぞと布団の中でまどろんでいる中、優しい声が、手がゆさゆさと身体を揺らす。
まだ寝ていたいんだ…。昨日読んだ小説がなかなか面白くて夜更かししちゃったんだ。
あと少し…
「7歳になられたのにまだ寝るんですか?」
ヴィオの若干の呆れ声が耳に届く。
いいんだもん。まだ7歳だから―
ん?7歳??
「7歳じゃん!!!!!!!」
勢いよく飛び起きたせいで掛け布団がベッドの端の方まで飛んでいく。
マジか。今日じゃないか
「そんなに勢いよく起きたら危ないですよ?」
「もう少しお淑やかに起きてくださいな」
レットとヴィオが困ったように呆れたように私を見ながら布団を直したり、窓を開けたりと仕事をする。
「おはよう、2人とも」
「「おはようございます。お誕生日おめでとうございます」」
「ありがとう。今年1年もよろしくね」
毎年、2人が専属になってからは2人が一番初めにお祝いしてくれる。
そして毎年―
「お嬢様が健やかに1年を過ごせますように」
差し出された一輪の紫がかった菫の花を受け取る。
それは決して大きくはない。むしろ花であれば小さな部類に入る菫。その茎には毎年赤の細いリボンがくくられている。
「ありがとう」
2人からの誕生日プレゼントは毎年菫の花を一輪。
ずっと前に何気なく言ったことをこうして守ってくれているのが嬉しくてついつい頬が緩む。
「本日は11時よりお嬢様とシルビア様のお誕生日パーティーが行われます。今から準備して1時間後にはマリン・ビーナが入室いたします」
「ビーナ様が直接来るの?」
「そのようです」
ベッドから抜け出し、洗面台へ向かいながら今日の予定を確認する。
「パーティーには王家からも来るようです」
それはおそらく皇太子だろう。
まぁ、それはシルにドレスの色を聞く時点でわかりきっていたんだけど。
「ウィル・デ・ファンネルブ殿下、ベルデクト侯爵夫妻が参られます。公爵家からはゼルダ公爵家、アンデルセン公爵家よりご婦人とご令嬢が参加されます」
アリスとハレンシンシ嬢も来てくれるのか!それはいろいろお話しできそうだ
今度2人の誕生日パーティーの際はうちの商会の何かをお送りしよう。
きっとその方がアロー達にもいい顔してもらえるだろうし、あちら側も得をするはず。
顔を洗って、化粧台に向かい合うようにして座ればヴィオが丁寧にくしで髪を梳かす。ヴィオの丁寧な手つきは天才級だと思うの。だって、だんだん眠くなりそうなぐらい気持ちいいのだもの。
「その他にも多くの方がいらっしゃいますが、お嬢様が主に抑えておくべきなのはベスタ侯爵家、ダルネス辺境伯家、リットン伯爵家、コングラッツ伯爵家、ヌベレット子爵家になるかと」
「…ベスタ侯爵家からは一体どなたが来るの?」
レットに鏡越しに尋ねれば、侯爵のみだと教えられる。
なるほど。奴は出てこないのね。
あんな奴に祝われるほど親密な仲ではないし、むしろ気分が下がるから来るなと念じてしまったではないか。
安心して息を吐きだせば、どうやら髪の手入れは終了したらしく、次は顔や腕を行っていく。
「レット、例のドレスをシルビアに届けてくれるかしら?」
「かしこまりました」
同じ時間に起床しているのならそろそろドレスの話を向こうでも侍女たちとしているだろうし…
レットがドレスの入った箱を丁重に抱え、部屋を退出して少し経てばビーナ様の来室の時間となる。
「ごきげんよう、麗しの華。本日はお忙しい中お時間いただけ光栄ですわ」
「ごきげんよう、ビーナ様。本日はお越しいただけてこちらこそ光栄ですわ。よろしければ、この後のパーティーにもご参席くださいな」
「よろしいのですか?」
「ええ、是非本日の主役である私達のドレスについて皆様に教えて差し上げてくださいな」
ニコニコと笑いながらビーナ様に伝えれば意図を察したのか「光栄ですわ」と了承してくださった。ありがとう。話が分かる商人で本当に助かる。
おそらく今日の主役はそのドレス、装飾に関して貴婦人・ご令嬢にずっと捕まったままであろう。絶対そうだと自信をもっていえるけどね!
でもそれだとお菓子が食べれない!ケーキなんて口にできるかすら怪しい。
それなら本人よりも詳しい人がいれば、しかもその人がドレスを用意したとなれば人間はそちらに群がるものだ。
詳しい話を聞きたいなら挨拶をした後はそちらに行くだろう。
その間に私はケーキを食べれるということだ。
私はパーティーとかお茶会とか好きではないし得意でもないから唯一の楽しみなんてお菓子ぐらいなのだから…それすら取り上げるなんてことはしないでほしい。
それにこれはビーナ様にとっても商品の売り込みが出来決して悪い話ではない。両者にとってWIN―WINな関係だから断るなんてしないと踏んだうえでの提案でもあったのだけどね。
「リズビア様が本日着られるのはこちらの品になります」
ビーナ様が用意したのはライトブルーを基調としたドレスで、流行のものとは少し違いレース生地をふんだんに使用している。むしろレース生地の方が主体と言ってもいいものかもしれないものだ。
ショールにはドレスよりも繊細で緻密なデザインの肌触りのいい見たことのない生地が使用されているようだった。
「綺麗…ありがとうございます、ビーナ様」
「御礼には及びません。こちらは私からの御礼という名のプレゼントですから」
「それでも礼を言わせてください。これほどまで綺麗なドレス初めて見ましたもの」
「気に入っていただけたのならば何よりです。さぁ、レディ舞踏会への準備を始めましょうか」
艶めかしく微笑みを浮かべたビーナ様とその後ろに控える侍女たちのいい笑顔に情けなくも「ヒッ」と声が漏れてしまったのは許してほしい。
ここからしばらくは誕生日パーティーのお話になります。
あと一か所フラグをたてましたね。リズビア~




