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1章 眷属 1-7 幼少期7

―未だ開花しない、神術の秘められた力

一般的に、幼少期、大きな感情が動くときに、それは解放される。

しかし、幼くして精神が成熟しすぎている者は

多少のことで動揺しない。

より強く心を揺らすきっかけがなければ…。


―――――――――――


 森の中で光る、炎の元に辿り着いた。

 そこで俺が見たものは、想像を遥かに超える、恐るべき状況だった。

 モート達と思われる3人が燃え、木の傍らにはボロボロになったアンネ、

 そして口を開けたままへたり込み、動かないリル。


「おい!!!アンネ、大丈夫か!?何だこれは!」

「ジン…!」

アンネが俺に気づき、こちらを向いた。その顔は大きく腫れあがっていたが、俺に続けざま叫んだ。


「誰か、大人を呼んできてくれ!!!3人が、3人が死んでしまう!」

「…!」


 燃え始めてからどれくらい経っているのかわからないが、このままでは間違いなく命を落とす。


「わかった!!…アンネ!水は出せるか!!」

「あ、ああ…そうか、わかった!」


 俺の意図にすぐ気づいたアンネは、3人に向かい水を放った。

 不得意な神術で、威力こそあまりなかったが、ひとまず消火させるには十分な量に見えた。

 リルは未だ呆然とし、俺の存在に気づいていないようだった。


「すぐ戻る!それまでアンネは3人を頼む!」

 とうに体力は残っていなかったが、それでも俺は走り、森を脱した。

 俺の家の周りには、何件か家がある。最短で助けを呼ぶにはそこらを周るしかなかった。

 そっちに戻る途中で、遠くに人影が見えた。リルの母親と、父親だ。


「おおーーーーーーい!!!」


 俺は全力で叫んだ。

 2人は直ぐに気づき、俺の方へ走ってきた。


「どうしたんだい!」

「モートが!皆…皆が…燃えてる!!とにかく来てくれ!!」


 俺の尋常ではない語気を真剣に捉え、俺と共に森へと戻っていった。


 俺とリルの両親が辿り着いた時、炎はもう消えていた。

 だが、モート達3人は真っ黒に焦げ、ぐったりとし動かなかった。


「これはまずいな…」


 3人の様子を見たリルの父親の口からこぼれた。


「まだ微かだが息はある。すぐに治療する。お前はアンネを。」


 妻にそう指示し、リルの父親は3人に向かって手をかざした。

 その直後、手から大きな白い光が溢れ、3人の体を包み込んだ。

 同様に、リルの母親もアンネに向かって手をかざし、光を作り出していた。


(治癒の神術だ…)


 もっと幼い頃、怪我をした時、周りの大人が良くこうやって治療してくれていたが、

 あれらはただのかすり傷だった。

 神イナンナの恩恵である治癒の神術は、

 どのような傷や病気でもたちどころに治すことが出来ると習った。

 だが命に関わるような大怪我に対して、本当に効果があるのか…?

 そう、疑問を抱き続けていた。

 目の前にいる3人は、もう死んでいるとすら…。

 リルの父親が言うには、まだ息があるようだが…。


 そう思っていた時。

 時間にして言えば、ほんの3、4秒だっただろうか。

 聞いたことのない不思議な音が聞こえ、

 3人を包んでいた光がスーッと消えた。

 リルの父親は手を下ろし、フーッと息を吐き、呟いた。


「なんとか……間に合った」

「な…治ったってことですか?」

「ああ」


 俺は信じられない、という気持ちで3人へ駆け寄った。

 服はほとんど焼け落ちていたが、黒焦げた皮膚は元に戻り、確かにいつもの3人がそこにいた。

 ゆっくりと呼吸をし、まるで眠っているように地面に横たわっていた。


「本当に…生きてる…」


 こんなにあっさりと、一瞬で治療できるものなのか。あれだけの大怪我を…。

 治癒の神術、もとい神イナンナの恩恵を目の当たりにし、驚愕と同時に恐怖すら覚えた。

 俺の脳の奥で、何かが警鐘を鳴らしていた。これは、何かがおかしい…。

 しかし、今は3人が助かったことを喜ぶべきだろう…。


「こんなに重体の者を癒やすのは、いつ振りだったか…。とにかく間に合ってよかった…。」

リルの父親は安心したように独りごちて、自分の妻の方へ歩いていった。


「そ、そうだアンネは!?」


 3人があまりに大怪我をしていたせいで、アンネのことを後回しに考えていた。

 あいつだってとんでもない怪我をしていたのだ。


「大丈夫だよ」


 リルの母親が俺に優しくアンネの無事を教えてくれた。

 顔の傷は綺麗に癒え、歯も生え、元通りの美しい表情を取り戻していた。

 アンネも随分疲れていたのか、それとも治癒の効果かわからないが、安心したように眠っていた。


「よかった…。」


 残るはリルだ。先程から放心状態で、何も喋っていない。


「おい!リル!おい、大丈夫か!」


 俺はガクガクとリルの肩を揺さぶるが、まるで反応がない。


「しょうがねえな…!」


 反応がないリルをなんとか立たせ、肩を貸しながら家へと送り、

 リルの両親はモート達3人を家へと送り届けるため、それぞれの親に助力を求めに行った。


 リルはその日何もしゃべることはなく、アンネも眠ったままだったため、

 状況の把握は次の日へと持ち越すことになった。



 次の日、俺は学校を休みアンネとリルの様子を見に行くことにした。

 母さんも、それがいいだろうと言ってくれたので、まずはうちから近いリルの家へ向かう。


 リルはかなり憔悴している様子だったが、多少喋られるようにはなっていた。

 ゆっくりとだが、昨日のことについて話してくれた。

 両親にも先程説明したようだ。


 一通り聞き終わったところで、俺は驚愕した。

 まさかリルが3人を燃やしたとは…。

 アンネの危機がきっかけとなり、神術の才能が開花したようだ。


 神術が使えるようになった事自体は非常に喜ばしいことだ。

 だが、その神術の炎により、3人は大怪我を負った。

 あと少しリルの両親の到着が遅れていれば、3人共死んでいただろう。

 その事実に対するとてつもない後悔と、自分自身への恐怖でリルはずっと俯いたままだった。


 無理もない。今まで誰も傷つけることはなかったリルだからこそ、ショックが大きいのだろう。


 リルの傍にいてやりたかったが、アンネも気がかりだ。

 リルの話を聞く限り、アンネだってもう少しで命に関わる大怪我を負うことになっていた。

 その恐怖は計り知れないものだろう。


 リルの家を後にし、少し離れたアンネの家へと向かった。


お読みいただきありがとうございます。

しばらくは毎日更新予定です。

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よろしくお願いします。

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