1章 眷属 1-6 幼少期6
―その他の神術
大まかに神術は火、水、土、風、雷、系統外の6種類に分類される。
人々には得意とする属性が存在し
周囲や家庭環境が要因で大抵が1、2系統と言われている。
リルの父親は土及び系統外の治癒、アンネは現在のところ火を得意としている。
しかし、如何に神術に長けていようと、同族に向けて攻撃系の神術を行使することは神の法により、厳しく禁じられている。
つまり、アンネはこの時点で、単なる成績優秀な女学生でしかなかった。
――――――――――――――
「何をするんだ!!離せ!!」
アンネちゃんが、モートの取り巻き二人によって地面に押さえつけられている。
それを見下すように、モートは立っていた。
「アンネちゃん…!!」
何故モートたちは、僕とアンネちゃんを今日狙ったんだろう。
ジンがいないタイミングを見計らっていたのか…?
「おーおー、優等生様もこんな状況じゃ何も出来ないわなぁ。」
アンネがいくら神術に秀でているといっても、それを人に向けるのはご法度だ。
つまり、肉体的に勝っている少年2人に押さえつけられてしまっては、もはやどうにもできない。
「お前達…!何をする!!さっさと離せ!」
アンネが怒りの形相を浮かべ、モートを睨みつける。
「おーおー怖いねえ。お前に本気で火の神術を使われたら流石の俺もマズいからなぁ。
水の神術はしょぼい癖に、火だけはいっちょ前だもんな。
でも、お前はそんなこと、できないよなぁ?
人に向けて使っちゃいけないって、お前が言ってたからなぁ。」
「…」
「俺はな、ジンとかいうバカは勿論、そこでビクビクしてるリルも気に食わねえ。
何の役にも立たねえゴミだからだ。
…だがな、それ以上にお前も前から気に食わなかったんだよ。」
モートはその場でしゃがみ、ペッ!とアンネちゃんの顔にツバを吐きかけた。
しかしそれでもアンネちゃんの瞳は鋭いままだ。
そんな態度にモートは一層腹を立てた。
「ムカつくんだよ、その目。優等生ぶって周りからちやほやされて、いいやつ気取りやがって。
弱いものを助けた正義のヒーローのつもりか?バカが。
お前の何もかも吐き気がするんだよ!」
「…だったらなんなんだ」
「簡単だ。お前のそのクソみたいな性格を俺たちが矯正してやるんだよ」
ここでモートが、以前僕たちに見せた嗜虐的な笑みをニヤァ…と浮かべた。
「ふん、やれるものならやってみるがいい。」
「じゃ、遠慮なく。」
直後、モートがアンネの顔を躊躇なく思いっきり殴りつけた。
「ッ…ガハッ…!」
アンネの口が切れ、血が飛ぶ。
「アンネちゃん!!!」
僕は飛び出した。しかし、モートがビッと手で僕を牽制する。
「おーーっとお前はそこから動くな。動いた瞬間炎でお前も焼くし、こいつも焼く。
神術も使えねえカスはそこでこの女がボコボコにされるところを黙ってよく見てろ!」
モートは明らかに異常だ。
押さえつけている二人は何を考えているんだ。
なんとか説得しないと…!
「ウシ!ワタル!そんなことに加担してたことが親や先生たちに伝わったら、君たちもただじゃ済まないだろ!今すぐ離すんだ!!」
「黙れつっただろゴミが!!」
モートの蹴りがリルの脇腹に食い込む。
「リル!!」
僕はあまりの痛みと衝撃にたまらずその場でうずくまってしまった。
「手間かけさせんな。教えてやろう。こいつらもな、アンネがムカつくんだとよ。」
「…!」
アンネちゃんは、その言葉にショックを覚えたようで、それから黙ってしまった。
「まあでもこいつらにはアンネを殴る度胸まではねえみたいだからな。代わりに俺がやってやるってことよ。…んじゃ、憂さ晴らしさせてもらうぜ」
そこからは酷いものだった。
モートはあらゆる方法でアンネちゃんを痛めつけ、
その度に自分の下僕になるよう命令した。
しかし、アンネちゃんが屈することはなかった。
目の前で繰り広げられる残虐な行為に立ち向かうこともできず、
僕は見ていることしか出来なかった。
…
「は~~~、全くお前は強情だなぁ。こんなに優しくしてやってんのに、なんで一言言えないかねえ。
私はあなたの下僕です。ってな。」
何が優しいもんか。もうアンネちゃんの顔は腫れ上がり、
歯は折れ、血が彼女の服を汚していた。
「…うるひゃい…言うわけ無いだろ…」
血だらけで腫れ上がった唇でも、アンネちゃんの抵抗の言葉は続いた。
だが、歯が折れたせいで上手く喋られないのか、明らかに口調は弱々しい。
モートはその様子を楽しんでいるかのような口調で嘲る。
「一言言っちまえば、俺の親父に頼んでそのひでえ顔治してやってもいいんだぜ。
まあ、元に戻るかはわかんねえけどな!!アハハハハ!!」
完全に狂った表情でモートは笑っていた。
どうしたら、この状況をどうにかできる…!?
「あと半刻くらいで6時になっちまうな。そんじゃしょうがねえ。最終手段といくか。
…おい、お前ら、しっかり押さえつけとけ」
モートにそう命令されたウシとワタルは、ぐっと力を込め、アンネを地面から離れないようにした。
(な、なにをする気なんだ…)
モートが懐からなにかを出した。
暗がりで鈍く光る刃先―短剣だ。
黒曜石の出来ており、切れ味はかなりのものだろう。
「治癒の神術ってよ~、学校じゃあどんな傷や病気でも治せるつってたけど、本当だと思うか?
あのバカ教師が適当なこと言ってるんじゃねえか?
本当はどこまで治せるんだろうな。試してみたくねえか?」
そう言いながらモートは短剣をゆっくりとアンネちゃんの顔に近づけていった。
これから何をされるのか、アンネちゃんは悟ったようで、顔が青ざめていた。
「や…やめてくれ…」
「ハハハハハハ!!ついに弱音吐きやがった!あのアンネ様がよ!
…だがもうやめねえ。今から下僕になるっつったって許してやらねえ。」
ゆっくりと短剣の先端はアンネちゃんの下腹部へと移動していった。
「これも授業で習ったよなぁ、ここのあたりに、赤ん坊が出来るなんかがあるんだっけか?
まあよく覚えてねえけど、ズタズタにしても治せるのかなあ??気になるよなぁ??
もし治癒できなかったら、お前一生子供産めないかもなぁ!!」
ゲラゲラと何か薬物でも摂取しているかのような高揚とした笑いに、
その場にいる誰もが恐怖していた。取り巻きの二人でさえも、表情が強張っている。
だが、だが、
こんなこと、許されるはずがない。
僕に力さえあれば
僕に力さえあれば!!
憎い、あいつが憎い!!
「じゃー、時間もないから行くぜ」
短剣を振り上げ、一直線にアンネちゃんの下腹部へと刃は向かっていった。
こんなこと、許されるはずがない……!!!
「やめろおおおおおおおお!!!!!!!!!」
僕は叫んだ。
そして、思念した。
こいつらが
焼かれて死ぬ姿を。
強く強く強く強く強く強く強く強く、念じた。
そして、現実になった。
「ぎゃああああああああああああああああああ!!!!!!」
モート、ウシ、ワタルの体が発火した。
周辺の木の高さまでに炎は昇り、3人を包んでいた。
アンネちゃんは目の前の衝撃的な光景にただ呆然としていた。
……
全速力で走って10分。いつも俺たちがいじめられていた森へとたどり着いた。
しかし様子がおかしい。何か焦げた臭いがする。
「森の奥で…何かが燃えている?」
うっすらと赤い光が見えた。
「まさか、あいつらが火を使ったんじゃねえだろうな…!!」
とてつもない焦燥感を覚え、残りの体力を使い切るつもりで走り続けた。
「アンネ!!リル!!無事でいてくれ!!!!」
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