1章 眷属 1-2 幼少期2
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「このままじゃ本当にそのうち殺されるかもな」
「流石にそこまでしないと思うけど…。」
「どうかな」
実際に2ヶ月ほど一緒にいじめを受けてみてわかったが、連中は加減というものを知らない。
何かの弾みで一線を超えてしまうんじゃないか。
得も言えぬ恐怖が俺の中にはあった。
(なんとかしないと…)
俺だけでなく、リルもこのままでは危ない。
俺のせいでいじめが激化しているかも知れないのだ。俺に責任がある。
日が暮れ、ボロボロの俺たち。肩を並べて、とぼとぼと帰っていた。
「…じゃあ、また明日。」
「また明日。」
リルと別れ、自分の家に入る。
学校と同様に丸太で作られた、なんてことはない。ごく普通の家だ。
父さんが死んでしまってから、母さんと2人で暮らしている。
父さんの分も働く母さんに、心配をかけまいと殴られて痣になった箇所は、隠すようにした。
「ただいま」
「おかえり」
どうやら食事を作っているようだった。
土鍋で野菜を煮込みながら、話しかけてきた。
「今日の適性テストはどうだった?」
「いつもと同じ」
「そう…」
少し悲しげな顔をしながら、鍋の中の野菜をかき混ぜていた。
神通力がない母さんは、いつも俺に申し訳無さそうな表情を浮かべていた。
当の俺はというと、あまり気にしていなかった。
もし今後神術が使えなかったとしても、少し残念に思わないでもないが、
母さんの子であるという実感が湧いて、むしろ誇りに感じるだろう。他の子供達とは違うのだ。
「母さんだって、力が使えなくても父さんと結婚できたし、こうして暮らしていけてるでしょ」
「…」
「俺は母さんの手伝いができれば、それでいいよ」
母さんは、はぁ、とため息を付くと、器にスープをよそい始めた。
目は悲しげなままだったが、口元は笑っていた。
食事を済ませ、家の手伝いを終えた頃には、外はすっかり暗くなっていた。
夜になると時間がよくわからない。
村の中央にある日時計はもう機能していない。
灯りのロウソクももったいないので、さっさと寝ることにした。
……
…
昔から変な夢…それも同じ内容の夢を見ることが多かった。
嫌なことがあった日とか、悲しい出来事があった日、
ムカつくことがあった日の夜は必ずといっていいほどこの夢を見る。
見たこともない場所、淀んだ空気、巨大な建造物、奇妙な服を着た人々…。
そんなところを一人で歩き回る。ただそれだけの夢。
ひどく孤独で、泣き出しそうになる。
現実でも辛いのに、夢の中でも辛いなんて。
ただ、今日の夢はいつもと違った。
雑然と並んだ不可思議な物体、黒くて硬い地面。ここまではいつもと同じだ。
ただ、いつもなら地面がある場所にぽっかりと巨大な穴があいていた。
中は完全な暗闇。
普通なら怖くて逃げ出すところだ。
だが何故か、その暗さに温かさを感じた。
自分と同じ…。いや、自分自身なのかもしれない。
誰かに呼ばれたような気がして、穴の中へ飛び込んだ。
恐れはない。
どんどん落ちていく。落ちて、落ちて、やがて光も届かぬ深淵へ沈んでいく。
落ちて…落ちて…
…
……
それから2週間後、また適性テストがあった。
順調に力を伸ばす者、変わらない者、むしろ成績が下がるものと様々だった。
そして俺たちは―
「ゴミはゴミらしく、村の隅っこで固まって暮らしてろ!」
いつもと同じく、テストの後にボコボコにされていた。
(今日は危なかった)
前よりも、明らかに酷くなっている。
顔こそ外しているものの、今回は危うく肋骨が折れるところだった。
こいつらがいなくなるまで、いつも通りうずくまるつもりだったが、今日は様子がおかしい。
最後に例のお決まりのセリフを吐いてからも、ずっとそのまま立っているのだ。
「そういえばよぉ」
モートが嗜虐的に俺たちを見下ろす。
「今日の適性テスト、俺、めっちゃ能力上がってたらしいんだわ」
そう言いながら、左の手のひらからボッと火を出した。
メラメラと燃え盛る火は、どんどんと大きくなる。
モートが何をするのか、なんとなく想像できた。
あんなの食らったら、火傷じゃ済まない。
「さ、流石にそれはまずいんじゃ」
「力を人に使うなって、言われてるし…。」
取り巻きのウシとワタルも、流石にビビって躊躇しているようだ。
「こいつらは人じゃねえだろ。なら何の問題もねえ」
恐怖と痛みからか、体がうまく動かない。
(やばい…)
本気だ。
マジで俺たちを殺す気だ。
リルはというと、ガクガク震えながらちびっていた。
モートの常軌を逸したその眼に、怯えているようだ。
リルは、俺のせいで燃やされる。
それはダメだ。せめてリルだけでも守らないといけない。
「お…お…」
「ああ?」
「おお…おおおぉ、おれ、俺に!俺を燃やせ!!俺だけ!!」
出来る限りの大声で、そう叫んだ。
皆の視線が俺に集中する。
我ながら、わけのわからないことを言っている。
「なんなんだよお前は…」
火の勢いが増す。
「正義の味方のつもりかオラァ!!!!ムカつくんだよ!!!!!」
モートは狂ったように叫び、燃え盛る左手をそのまま俺に向けた。
(母さん、ごめん…)
俺の顔に炎が迫り、寸前―
「お前ら!!」
力強く、けれど透き通るような美しい声が森に響いた。
「何をしている…!」
「おまえか…」
すんでのところで、少年は左手を引っ込める。
(あいつは…)
アンネだ。
クラスの中心的存在のあいつが、何故ここに…。
俺の声が聞こえたのか?
「今、炎をそいつに向けようとしていたな?」
「だからなんだよ」
「神術を人に向けてはいけないと、教わっただろ!!」
「うるせえな」
モートがアンネをギロッと睨む。
「力が使えねえこいつらは、人じゃねえ。ゴミは燃やしてもいいだろうが」
「…本気で言ってるのか」
「ああ。お前も思うだろ。お荷物なんだよこいつらは」
「なんだと?」
「力が使えねえってことは、ろくに村の役にも立たねえ。授業もこいつらに合わせてる。馬鹿らしいと思わねえか?」
「…」
「こんな出来損ない、さっさと焼いちまったほうがいいんだよ」
「………そうか。」
アンネは俺たちの前へ、かばうように立ち塞がる。
「なら、私も一緒に焼くんだな」
「ああ??」
「私は、二人を人だと思ってる」
すっと、一呼吸置いて
「そして、共にこの村で暮らす仲間だ。」
そう、俺たちに言ってくれた。
「二人の仲間である私も、お前から言わせればゴミということだな」
「はああ?」
「同じゴミなら、一緒に焼いてみろ」
「…」
めちゃくちゃだ。
俺もリルも、その場にいた全員が呆気にとられていたが、
有無を言わせない覇気があった。
「ちっ…わけわかんね。帰るぞ」
モートは面倒くさそうに、森の外へと向かった。
取り巻きたちは安堵した様子でついていった。
へなへなと、リルはその場にへたり込む。
「危なかった。助かった」
「あ、ありがとう…。」
俺たちは各々礼を述べたが、アンネは少し悲しそうに、
「いや…もっと早く来ていればよかった」
ボロボロになった俺達を見ながら、そう言った。
「さっき、森の前を通り掛かった時に、お前の声が聞こえたんだ」
その場でアンネはクルッと半回転する。美しく長いブロンドの髪が宙を舞った。
適性テストではモートをも超える神術の才能を持ち、
男勝りなサバサバとした性格に加えて、美しい容姿を持つため、俺自身も密かに憧れていた。
そんなあいつが助けに来てくれたのだ。
そして俺に向かって、
「俺を焼け!…だったか?
…私も、真似したくなったんだ。」
笑いながら、そう言った。
ドクン…
胸が熱くなった。
こいつ…可愛いかもしれん……。
「いや、その…咄嗟に…」
「ふふ」
アンネはまた、先程の真剣な面持ちに戻り、問いかけてきた。
「二人共、もしかしていつもこんな目に遭っているのか?」
リルと俺は、俯きながらどう答えるか迷っていた。
「まあ…」
俺が、ボソッと肯定すると、
「そうか…」
うーんと、考えた後、アンネの口から思いも寄らない言葉が出てきた。
「よし、これからは私も一緒に帰ろう。」
「「えっ」」
どういうつもりだろう。
「さっきも言っただろう。私達は仲間だ。」
「いや、でも…」
「君も巻き込まれるかも…。」
「いいさ。どの道変わらない。」
俺達の心配もどこ吹く風、俺たちに手を差し伸べてくる。
それは女の子らしく綺麗で、だけどとても力強い。
「そういうわけで、これからよろしくな」
どこまでも真っ直ぐな瞳に、俺たちは抗うことなど出来る筈もなかった。
お読みいただきありがとうございます。ようやくヒロイン?登場です。
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