1章 眷属 1-1 幼少期1
プロローグをお読みいただきありがとうございました。
これからようやく本編です。よろしくお願いいたします。
やがて諍いが生まれ
神々による闘争は終わることなく
この世に平和など、一度たりとも存在し得なかった
12の神々は皆、己の意思を断固として譲らぬ高慢ばかりであり
譲歩など知らず、他者を理解せぬものばかりだ
まるで遊戯のような争いに民は傷つき、苦しみ、それでも己の神を信じていた
なぜならば眷属にはそれぞれ「力」が宿り
自らが信ずる神の力の一部を行使することができたからだ
力を行使することで、神の奇跡を実感し、そして己の神に平伏する
また、掟により己の神を疑ってはならない
裏切ることは、即ち死である
こうして民は生まれたときから自分の神にすがることしか出来ず
死ぬまで戦いの運命からは逃れられない
―――――――――――――――――――――
「…ッ」
誰の目にもつかない森の中で、くぐもった声が響く。
俺と…同い年のリル。俺たちは悪ガキ3人に袋叩きに遭っていた。
「お前ら、また神術の適性がなかったんだってな」
「もう11歳になるのに、だっせえ!」
「…」
俺たちは何も答えなかった。
下手に抵抗すると、連中の嗜虐心を刺激し、更に暴力がエスカレートすると知っているから。
いつもなら、この後お決まりのセリフが来て、いじめは終了する。もう少しの辛抱だ。
「ゴミはゴミらしく、村の隅っこで固まって暮らしてろ!」
10歳とは思えない巨躯―リーダー格であるモートが、これでもかというほど顔を歪ませながら、ペッとツバを俺に吐き、2人の取り巻きとゲラゲラ笑いながら去っていった。
やっと解放されたことに安堵した俺は、肩を撫で下ろした。
「あー、やっと終わったか」
「うん」
リルはいつものこと、という感じでパッパと服に付いた土をはらい、すっと立ち上がる。
「俺のせいで、いつも悪いな。」
「…ううん。元はと言えば、僕が悪いんだ。」
僕に…僕にもし神通力があったら…。という言葉が続きそうだった。
7歳ぐらいから使える子もいるけど、10歳になったら皆使えるようになっている。
それが当たり前だ。
でも俺たちは…。
「…でも、ジンのおかげで辛くないよ。」
「俺があんなこと言ってなかったら、もうちょっとあいつらもおとなしかったかも知れないけどな…。」
もう既になんだか懐かしい。
数ヶ月前、俺達が「劣等生」として、緒にいじめられることになったきっかけ―
――――――――――――――――――
あの日、学校からの帰りに、少し森へ寄り道をしていた。
何と言うことはない。いつもと同じ道はつまらないと思っただけだ。
大人もあまり通ることはないが、俺はたまに気分転換で、この大木が生い茂る深緑へ足を運んでいた。
樹齢何年かわからないくらい立派な木々が並び、霊妙な雰囲気が辺りを包んでいる。
しかし俺はそこで見てしまった
神秘的な光景にはそぐわぬ罵声。
「こいつ、何ヘラヘラしてんだ!!」
あれは…
近所に住むリルだ。
何故こんなところに…と一瞬思ったが、直ぐにああいじめられているのか、と理解した。
俺自身も正直なところ、いつも何かとオロオロしているこいつを鬱陶しく感じている。
昔なんだか腹が立って、ちょっかいをかけたことがある。足をかけて転ばしたり、勝手に昼飯を奪ったり。
…だけど、全然悔しくなさそうで、泣きもしないし、反応がつまらないので直ぐにやめた。
しかし中にはそれでもやめない連中がいる。
モートを筆頭に、ウシ、ワタルの3人。典型的ないじめっ子集団。
何が楽しいのかわからないが、教室でも毎日からかっているし…
こうして、帰り道でもいじめていたというわけだ。
「おめえ昔はすげ~~いい扱いされてたよな。親父が元神官だかなんだかしらねえけど、大層可愛がられてたじゃねえか。それが今はどうだ?誰もお前に見向きなんざしねえ。なんでかわかるか?」
「…」
リルは微笑を浮かべたまま、俯き黙っていた。
「それはお前に才能がないからだよ!神通力のかけらも感じねえ!」
村の同年代の子供は皆、神通力を持ち、簡単な神術が使えていた。
めったに居ないが、12歳までに使えない子供は、一生神術が使えないと言われている。
もう俺たちは11歳だ。
なのにリルは…全く使える気配がない。
そして実のところ、俺も使えない。
俺がいじめの対象になってないのは、単にリルの方が目立っているからに過ぎないだろう。
リルは実際、小さい頃は凄い神術使いになると皆から期待され、特別扱いされていた。
今、その期待の裏返しが来ているというわけだ。
どちらかというと俺もいじめる側なわけで、
今まさに起きているいじめの現場を、見て見ぬ振りをした。
別に殴られているわけじゃないし、大丈夫だろう。
何故かモヤモヤしつつも、家へとその日は帰った。
そして次の日の帰り、なんとなく気になって同じところへ行った。
やはり今日もリルはいじめられているようだった。
…しかし様子がおかしい。
リルが腕で顔をかばうようにして、しゃがみ込んでいた。
「おら!!もっと苦しそうにしろよ!!」
モートが顔に向けて蹴りをいれていた。
時折苦しそうなリルの声が響く。
細い腕に痣が出来ていく。
放っておいて大丈夫なのだろうか。
俺の中で不安が湧き上がるが、巻き込まれるのはゴメンなので、その日も家に帰った。
そして来る日も来る日も、帰り道で、暴言を吐かれ、殴られるリルを俺は無視し続けた。
しかし、俺の中に巣くうモヤモヤも日に日に大きくなっていた。
俺だって、あいつを無視し続けたじゃないか。
今更になって助けるなんて、正義の味方のつもりか?
今日もリルは同じ場所でいじめられていた。
前よりも遠慮のない暴力に、流石のリルも苦悶の表情を見せていた。
偽善なのはわかっている…。
だけど…それでも、自問自答したくなってしまった。
父さんと母さんに、顔向けできるのだろうか…。
小さい頃に父さんは死んでしまったけれど、とても勇敢な人だったと母さんは言っていた。
『お父さんみたいに、かっこいい人に、あんたもなれると良いね』
その言葉を思い出した瞬間、俺は木の陰から飛び出していた。
突然の事に、いじめっ子3人は驚いた様子でこちらを見た。
だがそれが俺だと理解すると、直ぐに新しい獲物が来たと言わんばかりに、こちらへ近づいてきた。
「よおジン。どうした?お前もリルを殴りたいのか?」
俺の肩を叩きながら、モートはサディスティックな笑みを浮かべている。
「んなわけねえだろ…。」
モートの眉間がピクッと動く。予想外の言葉に驚いたようだ。
そう。言いたいことは1つだけだ。
すぅっと息を吸い、俺は大声で叫んだ。
「神術が使えないのは俺も同じだ。俺も殴れ!!」
そう言った後、モートは一瞬だけ訝しんだが…
次の瞬間には、顔にもの凄い衝撃が走り、吹っ飛んでいた。
正直、本当に殴るとは思わなかった。
威勢のいいことを言えば、少しは怯むんじゃないかと考えていた俺が甘く、
連中はその後も容赦なく殴る蹴るわで、殺されるんじゃないかというレベルで痛めつけてきた。
むしろ俺の放った言葉のせいで、以降のいじめが激しくなったように感じた。
…
その日、ボコボコにされた俺たちは、森の中で仰向けで転がっていた。
「大丈夫か?」
「うん…」
その場から動かず、俺たちは空を見ながら話していた。
「…ありがとう」
「…」
リルが、か細い声でそう言った。
お礼を言われることなんて何もない。
俺が勝手に巻き込まれて、挙げ句余分に殴られただけだ。
いじめを止めたわけでもなんでもない。
そう言いたかったが、それよりも言いたいことがあった。
「リル…」
「ん?」
「今まで、ごめん」
「…? よくわかんないけど、気にしないで」
俺の中にあったモヤモヤが、スッと抜けていくのを感じた。
「お前にとっちゃ、どうでもいいことだったのかもな…」
「きっと、そうだね」
自然と、お互いに笑みを浮かべていた。
…
そしてその後、1ヶ月に数回ある神通力のテストでも、今まで通り俺たちは適正を見いだされず、帰り道にはこうしていじめられるのであった。
お読みいただきありがとうございます。
しばらくは毎日更新予定です。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。
よろしくお願いします。




