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プロローグ 後編

―――――――――――――――――――――


その日、奇妙な夢を見た。



どこか、知らない場所に僕は居る。

とても寂しい風景…。

見渡す限りの砂漠。


音はしない。風も吹いていない。

完全な静寂…。まるで時が止まっているかのようだ。


しばらく歩くと、謎の巨大な黒い穴があった。


ゆっくりと穴へ近づいてみる。

穴の奥には何も見えなかった。

海のど真ん中に存在するブルーホールのような違和感。

何故だろう。

恐ろしいが、入ってみたい。


怖いもの見たさというのだろうか。

この奥に待ち受けるのは、恐らく「死」だ。

飛び降りて、助かるわけがない。

だというのに、足はその穴へ向かっていく。

一歩ずつ、ゆっくりと。


…あと一歩で、穴へと落ちるだろう。


しかし躊躇せず、踏み出した。

落下が始まる。




一体どれだけ落ちただろうか?

もはや光は届かず、暗闇に包まれていた。


それでも落ち続ける。


暗闇に。




待ち受けていたのは「死」であり

同時に生まれ変わる感覚…


朧気な意識、いや、意識はないのかもしれない。

無意識とさえ言える曖昧な場所に、

「神殿」が存在した。

僕?はそこへ向かう。


何故か?

大事な人が待っているからだ。


神殿の扉を開き、中央に立つ人影を視る。


「やっと…」



―――――――――――――――――――――



目が覚めた。

なんだか頭が重い…。

何か、大事な夢を見た気がしたが、思い出せなかった。


若干の頭痛を感じながらも携帯端末を確認したところ、

鈴木から返信が来ていた。


『午後3時からなら空いてる』


久々のメッセージにも驚かず、シンプルに返信してくれる鈴木に感謝する。


『じゃあ、午後3時過ぎに、○○駅前のカフェで』

『了解』



約束の時間よりも前だが、先にカフェへ入り、鈴木を待つことにした。

コーヒーだけ頼み、若干そわそわしながらしばらく待っていると、


「よっ」


鈴木が僕の座っている席までやってきた。


「田村、久々だな。んで、急に呼び出してどうしたんだよ。用件も言わないし。」


 鈴木は不満そうに口を開く。

 それはそうだ。久しぶりに連絡をして、何の用件も言わないなんて不審すぎる。

まさかこれから呪われている(かもしれない)球を渡されるとは思うまい。


「ごめんごめん、なんか説明しづらくて。直接見せたほうが早いかなって。」

「見せるって何を?」

「これ」


 スッ、とカバンから、昨日持ち帰った水晶球を取り出す。

 相変わらず、妙なオーラを放っている…ように感じる。


「なんだこれ?」


 それを手渡すと、鈴木は不思議そうに表面を眺めた。


「昨日山にあった不思議な洞窟で見つけたんだ。

 でもこれがなんなのか、内側に刻まれている文字がなんなのかわからないんだ。」

「洞窟…?文字…?」


我ながら意味不明な説明と思いつつ、鈴木の様子を見ると、

 訝しげにしながらも、学者としての好奇心が刺激されたのか、少し嬉しそうに水晶球を手に取った。


「…」

「どう?どんな感じの内容?」

「まあ、ちょっと待て。…何語だこれ…。」

「やっぱ日本語じゃない?」

「見たら分かるだろ」


そう言って鈴木は水晶を僕に向けるが、なぜか視線は逸らしてしまった。


「いや…実はまだしっかり見てないというか…調べてないんだよね。」

「…なんで?」


 訝しがる鈴木。

 それが呪われた水晶球だと思うからです。

 中を覗こうとしたら、奇妙な感覚になりました。

 正直に言っても、鈴木は引いたりしないだろうが…。

 久しぶりに会ってそんなこと言う奴がいるか?

 誤魔化すことにした。


「す、鈴木に1番に見てもらいたくてさ。まあまあ、取り敢えず見てみてよ。」


「…まあいいけどな」


 僕の適当な理由に全然納得がいっていない様子だが、しぶしぶ解読を再開してくれた。

 どこから取り出したのか、いつの間にかルーペを使って水晶球を詳しく観察している。

 そうして5分後。


「全然わからん」


 お手上げ、といったポーズを取り、鈴木は球を机にそっと置いた。


「鈴木がわからないなんて相当だな。」


「俺の知る限り該当する言語は存在しない。自分で言うのもなんだが、大抵の言語は見ればわかるからな。…なんか既視感はあるんだけど…。」

 鈴木が全くわからないとは、想定外だった。もしかして、ヴォイニッチ手稿とか、そういう類のものだろうか。

 都市伝説好きの性か、妙にワクワクしてきてしまった。


 それはどうやら鈴木も同様だったようで、嬉しそうにルーペで観察しつつ唸っていた。あの鈴木ですらパッと見ではわからない、未知の言語のようだ。


「それよりも、この文字列の篆刻精度が異常だ。中央に行くにつれて文字が細かくなっているが、俺が持参したこのルーペ程度では全ては読み取れない。イタズラだったとしても、すごい技術だな。」


 感心した様子で水晶の中央付近を覗き込む鈴木。


「どこでこれを見つけたんだっけ?山の洞窟とか言ってたけど。」

「ああ、それなんだけど…」


―――――――――――――――――――――


僕は自分がこの水晶球を見つけた経緯、謎のメールが来たこと、発見場所や時刻など、出来るだけ事細かに教えた。


「…言っていることが本当だとしたら、まだ発見されていない遺構かもな。メールの差出人が何者かは謎だが…。

 過去その辺りに人間が住んでいたという記録はない。

 …しかし棺か…。一度その場所へ直接調査に行ってみたいな。大発見の可能性もある。

 もしかすると、そいつが作られた年代の手がかりが見つかるかもしれないぞ。」


「僕としてはすごく嬉しいんだけど、いいの?准教授と言ったらめちゃくちゃ忙しいだろうに。」


「それがウチの研究室は今、そこまで忙しくないんだよな。

 こういうの好きそうなやつ誘って調べに行ってくるよ。」


「ありがとう、助かる…!」


心強い味方ができた。


「こいつについて先に調べておくから、一回ウチの研究室まで来なよ。」


「いいの?」


「ああ。発見者を無碍にする気はないんでね」


 本当にありがたい。

 そして、そこからは取り留めもない世間話に興じて、夕方にはお開きとなった。


家に帰り、「K」と球の話をしていると、段々と眠くなってきて、

気づくと椅子の上で寝落ちしてしまった。


「おやすみなさい…ジン」


―――――――――――――――――――――


 また、同じ夢を見た。

 次の日も、また次の日も。


 だというのに、目覚めた頃にはすっかり忘れている。

 夢を見ているときだけ、思い出せる。

 とてもとても大事なことなのに、忘れてしまう。


―――――――――――――――――――――


 最後に憶えているのは、鈴木がメールしてくれた日、

 研究室へ行ったその時までだ。

 ()は確か…研究室にある顕微鏡で、球を"完全に見た"。


 そこから何日が過ぎたのかわからない。

 でも今日、俺は会社へと向かっている。

 在宅で働けるというのに。

 

 まるで目的があるかのように歩みを進めた。

 なぜなら、俺だけが知っていることがあるからだ。


 今日俺が、●●ということ。


 何故かはわからないが、まるで「記憶」に埋め込まれているようだった。

 だというのに、まるで恐怖を感じない。

 それが当然だと思っているのか。必要なことだと理解しているからか。


 駅に向かってはならない。

 会社へは辿り着けないというのに。


 駅で、俺は電車を待っていた。

 定刻。遅くもなく、早くもなく。

 電車が来て、


 俺は、後ろから突き飛ばされた。


―――――――――――――――――――――


薄暗い洞窟の中、まだ何も知らない者たちが棺を調査していた。



 「これ…鈴木さん、まだ確証は持てないですけど、是非そのご友人に連絡して下さい」


 「ああ…勿論そのつもりだ」


 「ここ、本物の()()ですよ」

プロローグが長くてすみません。次からは転生後の本編となります。

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