1章 眷属 1-13 学術院2
まずは雷、風、土の3つの神術の概要を説明した。
「調べていてわかったんだが、習得自体は実は簡単なようだ」
「え、そうなの?」
「ああ。ここはいまいちまだ俺も根本の原理には辿り着けていないんだが…どうやら大元はどれも同じらしい。」
火、水、雷、風、土、その他全ての神術を操る力、その根源は同じである、と書かれた本があった。
「力の根源」というタイトルである。
神術を使えない俺にとってその感覚はわからないが、2人ならきっと感じられるだろう。
「なんでも神術というのは、極小の精霊が俺たちの頭を通して、思念を具現化するものらしい。」
「精霊?」
「まあ、俺もよくわかってないんだけどな。この世の全ての神術は、精霊たちによって機能している。精霊には何種類かあるらしいが…まあ、とにかく神術を使う時、皆は無意識でこの精霊たちを操作して、火や水を出しているというわけだ」
「へえ~~」
完全に初めて聞く内容だったようで、リルは感嘆の声を上げた。
アンネも興味深そうに聞いている。
「俺たちが普段腕や足、心臓を動かすときに、いちいち考えないでも出来るように、人間は皆何故かこの世界の一部を手足のように操れるらしい。まあ俺はできないけどな。」
自虐気味にそう言うと、2人はどういう反応をしていいのか微妙な表情だったので、
俺は話をそのまま続けた。
「俺としては本来その辺りは理論で解明できるはずだと踏んでいるんだが…まぁ、俺みたいな神術が使えない人間が未だに存在している以上、多分難しい問題なんだろう。」
「いつか解明されるといいね。」
リルは屈託ない笑顔で、俺を慰めてくれた。
こいつは歳を重ねて、美少年っぷりに拍車がかかってきた。
俺にその気はないのに、ドキッとしちゃうだろうが。
「そうだな…。さっき思念を具現化するといったが、つまり想像力こそが、神術を使う上で一番大事なんだ。それは火と水以外でも同様だ。」
「それは昔からそう習ってるね。今の授業も重点的に思念を強化してるし。」
「では他の神術を使うときはどうしたらいいか?簡単だ。雷なら雷を放つ思念、風なら風を操る思念、土なら自在に土を移動させる思念を紡げばいい。」
これだけ聞けば簡単そうに聞こえる。
だが1つ問題点があった。最も初歩的で大きな問題が。
「で、でも」
それに気づいたリルが疑問を投げかける。
「火や水はお父さんお母さんが使ってたから、すぐにイメージ出来たけど…。雷とか風とか、ましてや土なんて全然使っているところの想像がつかないよ…。」
そう。俺たちは幼少の頃から近しい人間が使用している姿を見ている。
ごく自然な行為として受け入れられていたからこそ、火と水の神術はすぐに使えるようになった。
つまり、俺たちが住んでいたど田舎では、誰もそれ以外の神術は使っていなかったということだ。
「まあそうだろうな」
「じゃ、じゃあ結局使えないってこと?」
「逆に考えてみろ。誰かが使っているところを何回も見て、思念を定着させればいいってことだろ?」
「誰かって、誰…?」
よしきた。
「ふふふ」
俺は待ってましたと言わんばかりに、鞄から一冊の本を取り出す。
この日のために練習しまくった成果を見せる時が来た。
「何これ?」
「俺が作った本だ」
「ジンが?」
「ああ。この本を見ているだけで、お前たちはまず、雷が使えるようになる…はずだ。」
「ええっ!まさかそんなこと出来るわけが…」
アンネもリルも訝しんでいる。
そうやって疑っているがいい。
2人の度肝を抜く瞬間が来たのだ。
ドキドキ。
「まあまあ、百聞は一見にしかず。だ!いくぜ!」
俺は2人に向けてバラバラバラと本をめくる。
「「!!」」
驚きの顔を上げる2人。いい反応だ。
「絵が動いてる!!」「え、絵うまっ」
そう。俺は何をしていたかというと、
何十枚もの紙にリアルな絵を描いて、1枚1枚少しずつ動きを変化させていった。
そうすることでパラパラと本をめくった時、絵が動き出して見えるのだ!
数ヶ月前、これに気づいた俺は、勉強の傍らでずっと絵の練習をしていた。
地道な努力の結果、雷を出す男、という本を創り出すことに成功したのである。
「フハハハハ!どうだ!」
「すごい!」「すごい…」
「そうだろう、そうだろう」
既に満足してしまいそうだ。
鼻高々である。
「ていうかジン、絵うますぎじゃない…?」
「画家になったほうがいい」
「そうだろう、そうだろう」
なんだろう、この気持ちは。俺、本気で画家を目指そうかな…?
「って違う違う。本題はそこじゃない」
「あのもしかしてジンが言いたいのって…」
「ここまで来たら私でも分かるぞ」
「そうだ」
「この本を使って、雷を出す思念、想像を訓練するのだ!」
「「やっぱり……」」
え、駄目?
予想外の反応に、ちょっと悲しくなる。
「…ま、まあでもこの本だけでも凄い価値だし!」
「…」
明らかに慰められている。
「ジン」
「アンネ、いいんだ。ハッキリ言ってくれて…気を遣わなくていい…」
「この本、しばらく貸してくれないか?」
「えっ」
「えっ」
アンネが更に予想外の発言をした。
「えっと…本気?」
「ああ」
アンネが雷の書(仮題)を手に取り、もう一度パラパラと本をめくった。
「だって、私達のためにこんなにジンが頑張ってくれたのだから、私も頑張ってみるぞ」
俺は泣きそうになった。
いや、ちょっと泣いていた。
「アンネ、お前ってやつは…」
「アンネちゃん…」
リルもちょっと感動していた。
「ジン、さっきはごめん!アンネちゃんの後、僕にも貸してよ!」
「リル、お前…!」
俺は最高の友人を持ったなと、改めて感じた。
それから毎日、空いた時間にアンネは雷の書をめくっていた。
何度も何度も。
雷を出す男(俺に激似)を見続けていた。
そこまで見られると、若干恥ずかしくなってくる。
…
それから更に数ヶ月。
入学から1年経とうとしたある日、
「ジン、リル、ちょっと来てくれ」
アンネから誘いを受けた。
学術院の裏には誰も通らない林があり、そこに案内された。
「これを見て欲しい」
そう言って指を地面に転がる枯れ枝に向けた。
その瞬間。
バチッ!
小さくはあるが、確実に枝が爆ぜ、焦げていた。
「マジかよ…」
雷の書は、本物になった。
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