1章 眷属 1-12 学術院1
あれから半年。
不慣れな都市部での生活に四苦八苦したが、
アンネとリルのおかげでなんとか無事に過ごすことが出来た。
初年度…1回生と呼ばれるらしいが、案の定俺たちは奇異の目を向けられた。
推薦で入学する生徒自体、ほとんどいないというのもあるし、
俺たち3人が特待科と呼ばれるクラスに配属されたのも理由の1つだ。
専門分野でクラスが分けられているのだが、
ここ特待科は特に目的が定まっていない若者が集められた、ごった煮という感じだった。
そんなわけで、他のクラスの連中からは変人集団という目で見られがちである。
神術専門のクラスがあるのだから、アンネとリルはそっちに配属されるべきなんじゃ…と思ったが、
恐らく2人を俺と同じクラスにするために学術院側が配慮してくれたのだと思う。
結局俺が足を引っ張っている。
クラスの中でも神術を使えないのは俺だけで、
どうやって入学したんだ?と同クラスの生徒から質問攻めにあったりもした。
その度にアンネ、リルと共に推薦で入学したと答えると、皆信じられない、という顔をしていた。
いや、実際に言われたりもしたし、嫌がらせも何度か受けた。
アンネとリルはクラスの中でも抜きん出た実力を持っていたため、
皆直ぐに推薦で入学したというのも頷けたようだ。
だが俺はと言うと、神術も使えず、これと言って特技もない。
完全にクラスで浮いていた。
都市部で暮らしていてわかったが、神術が使えないと言うだけで、もの凄い差別を受ける。
田舎のあんな小さい村ですら俺はいじめの対象だったわけだから、
人が多くなればそれだけ目の敵にする連中が増えるのだろう。
神官たちが目を光らせている以上、暴行などの苛烈ないじめを受けたりはしなかったが、陰湿な言葉を毎日のように受けていた。
そんな俺をアンネとリルはいつも心配していた。
しかし、俺はめげなかった。
村で散々酷い目にあっていたし、慣れていたというのもあるが、
母さんが言っていたことを忘れないようにしていたからだ。
「神術が使えなかったとしても、必ず道はある」
俺が今身に余る学術院に籍を置けているのは、リルが俺を推薦してくれたからだ。
それに、アンネも俺の修行に付き合ってくれていた。
今だって火をまともに起こせず、水も出せない俺の生活面を支えてくれている。
あいつらの為に、何か出来ることはないかと入学時に考えた。
考えた結果、神術の知識を得て、2人の手助けをできるよう、ひたすら勉強することにした。
俺は、皆が神術の実習をしている間、特別に学術院附属の図書館で学ぶ許可を得た。
どうせ実習したところで神術が使えるようになるわけではないのだから、
もっと別のことに時間を使うべきだ。
学術院附属の図書館は、3階まであり、それぞれの階にとてつもない量の書物が貯蔵されていた。
一生かけても全てを読むことは出来ないと思ったが、出来る限り多くの本に目を通すことにした。
俺が興味を持ったのは、神術の仕組みそのものだ。
そもそも神通力とは一体どうやって人に宿っているのか、
推測できる材料がこの場所には沢山あるように思えた。
しばらくそうして勉強しているうちに、
幼少期に神術が使えるようになったきっかけについて、統計がまとめられている本を見つけた。
結論から言うと、やはり、人の感情が大きく揺れ動く時、神通力に目覚めるパターンが多いらしい。
つまり、アンネが寒さで凍えていたときの不安、リルが目の前の惨事を止めたいという願い。
そういった強い感情だ。
また、より強い神通力を持つものほど、
より強い感情の振れ幅がなければ目覚めないという統計結果が書かれていた。
リルがなかなか神通力に目覚めなかったのは、強大な神通力を持つが故だったようだが…果たして本当にそうなのだろうか。
俺はどうなんだろう?普段から感情の振れ幅が少ないせいで、神通力に目覚めていないだけなのか?
もしかすると母さんもそうなんだろうか?
いや、あまり期待しすぎないほうがいい。
そうやって希望を持ちすぎると、やはり駄目だったときのしっぺ返しが凄まじい。
俺は俺で、神術が使えないなりに頑張るんだ。と改めて決意した。
更に勉強していくうちにわかったことがある。
それは神術にはもっと多くの種類があるということだ。
俺たちが初歩で学んだのは、火と水の神術。
これらは生活をする上で最も有用だとされているため、子供の頃から教育をさせる。
今アンネ、リルが習っている授業だって、基本的には火と水の神術の強化だ。
火はより強く、そして威力を調整出来るように。
水も同様だ。
そして複合神術。火と水を掛け合わせること。
これが卒業するまでに出来れば、一人前と言われている。
その中で抜きん出た力を有する者だけが、更に次の段階へと進める。
イナンナ様の治癒の神術のように、神術にはもっと多くの種類が存在するのだ。
この本に書かれているのは、
・雷の神術
・風の神術
・土の神術
についてだ。
これらの神術が初等教育で教えられていない理由は、
火や水が生活により役立つのに対し、雷、風、土はさほど重要性は高くなく、習得する優先度が低いからだとされている。
更に、この3つの神術に関して言えば、神通力そのものが強くなければ使ってもさして威力が出ず、
小指ほどの雷、弱々しい風、少しだけ盛り上がる土、という程度の効果しか得られない。
卒業するまでに学術院で神通力も強化し、それにふさわしい者だけが、教わる資格がある。
俺はこれだ、と思った。
アンネもリルも、入学してから半年しか経っていなのに、
既にとてつもない才能の片鱗を見せている。
というより、同学年の生徒全員と比べても明らかにトップの2人だ。
俺がその他の神術もうまく教えることさえ出来れば、若くして稀代の神術使いになれるかも。
そんな予感がした。
俺自身が使えないというのなら、2人が使えるように俺が頑張ればいい。
…
「「火と水以外の神術?」」
「ああ、そうだ。お前たちなら絶対使える。」
あれから更に3ヶ月程、じっくりとその他の神術やそれに付随する知識について学んだ。
遂に教える段階に来たと思えたので、2人を俺の自室に呼び、話し始めた。
触りだけ説明したが、授業では習っていない内容なので、いまいちピンと来ていないようだ。
「興味はあるけど…勝手にやっていいのかな?卒業した人たちがやっと習える内容なんでしょ?」
リルが不安そうにいう。
「まあな。でも、図書館の本に書いてあることを実践しちゃ駄目なんて規則はないだろ」
「そりゃまぁ、そうかもだけど…」
うーんと考えているリルを横に、
「話を聞こうか」
と、アンネが口を開いた。
「ジン、お前が私達のために何か役に立とうと、勉強を続けていたんだろう?」
リルはハッとした。思い当たる節があったらしい。
「そうだよね、ずっと何か勉強してるな、と思っていたけど…」
「まあ、お前たちのためになるかは、まだ良く分からないけどな」
「折角何ヶ月も勉強してくれていたんだ。とりあえず、詳しく教えてくれ。
その上で、やっていいかどうか、私は判断する。」
「ああ、そうしてくれ。リルもそれでいいか?」
「う、うん。そういうことなら…」
了承が得られたところで、話を始める。
記念すべき初授業といったところだ。
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