1章 眷属 1-10 幼少期10
「…何これ?…紙?」
「これはな…恋文だ」
「え??」
「お前から、アンネへの…」
「え、ちょっ、どういうこと?」
「俺が勝手に書いた。いずれ別の機会で使うかも知れないと思って用意したんだが、
こんなところで使う羽目になるとはな…」
「なんでそんなもの用意してるの!?なんで今それが必要なの!!?」
リルはパニックだ。
「リルよ、すまない。俺はこの手紙をアンネに今から届けることにする。
もうお前たちが会えなくなるかも知れないからな。」
そう言いながら俺は、紙を丁寧に折っていく。
「待って待って!!意味がわからない!!なんでそうなるの!」
慌てふためくリルを無視して、俺は大きな声で宣言する。
「神イナンナよ!!お待たせいたしました!今から面白いものをお見せいたします!」
その場に居た皆がどよめいた。母さんが居たらきっと真っ青になっていただろう。
神に対してこうも良い意味では堂々と…悪い意味で無礼に啖呵を切っているのだから。
「ほお?意外と早かったな。どれどれ」
だが、そんな心配はよそに、当の神は待っていたとばかりに、ニヤニヤしていた。
「ちょっと!!ジン!」
後ろから俺をリルが制止しようとするが、もう遅い。
「とうっ!アンネ!受け取れ!」
「えっ?」
疑問を浮かべたアンネに向かい、ピューッと、俺は紙飛行機を飛ばした。
もちろんさっきのラブレターを折ったものだ。
「わあああああああーー!!!!!!!!!!!!!!」
リルが叫ぶ。その直後。
ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!
とてつもない威力の炎が空中で上がった。俺の身長の2倍以上もあろうかという炎の柱だ。
「「おおっ」」
その場にいた一同が声を揃えて驚きの声を上げた。
神イナンナもだ。
「はぁ…はぁ…」
後ろでリルが肩で息をしていた。
「なるほどなるほど、11歳でこの威力。見事じゃ。
中級神官にもここまでの威力を出せるものはそういない。」
満足そうに笑う神イナンナ。作戦は成功したらしい。
まあ万が一失敗してたとしても、別の面白さはあったかも知れないな。
2人をくっつける為に、日頃から準備をしていた甲斐があった。
「よしよし。これで何も出せなかったら骨折り損じゃったからなあ…。おい、リルよ」
「はっ、はいっ!!」
あまりの出来事に今まで立ち尽くしていたリルが、急いで跪く。
「大体の事情は村長から聞いておった。お前は悪くない。悪いのはそこにいる3人じゃ。違うか?」
神イナンナが、遂に審問を開始したようだ。
「その…いえ、確かに3人はアンネに酷いことをしましたが…ぼ…私が、過度な力で3人を殺めかけたのは事実です」
「そうじゃな。それは事実かも知れん。だが話が真実であれば、
そのままそこにいるアンネは殺されていたのかも知れんのじゃろ?」
「……それは……はい。…その通りです。」
言いづらそうにしつつも、リルはそれに答える。神の前で嘘をつくことは許されないからだ。
「おい、そこの3人よ。お前らは短剣でアンネの腹を刺そうとしていた。それは事実か?」
突然話を振られて、動揺するモート、ウシ、ワタル。
「ぼ、ぼくは違います!」
「刺そうとしていたのはこのモートだけです!」
ウシとワタルが、あっさりと白状する。自分たちが疑われることを恐れたようだ。
「お、お前ら…!!!」
モートが憤怒の形相を見せる。
「お前らだって、アンネを抑えつけていただろうが!!!同罪だ!!」
堪えきれず、モートは自分を見捨てたウシとワタルを糾弾する。
「お、お前たち!神の御前だぞ!静かにしろ!!」
それぞれの親が割って入る。
「うるせえ!!この裏切り者共が!!」
だが、モートの怒りは収まらない。
みるみるうちに神の表情はまた不機嫌になり、遂に、
「ええい喚くな!」
神による一喝。
「「…!!!」」
一瞬にして場は静かになった。
「アンネ、リルよ、そこにいる…ウシとワタルといったか。
その2人がお前を抑えつけていたというのは事実か?」
「…はい。」
「間違いありません。」
リルが肯定し、アンネも答える。
「なるほど。となるとアンネの危険を知りつつも、抑えつけていたお前たちにも罪はある。
子供といえな。」
「そ、そんな…。」
ウシが絶望する。
「神よ!どうかお慈悲を!」
それぞれの両親が地面に頭を擦り付け懇願する。
「そう心配するでない。そやつら3人は全身を焼かれるということで、
十分に苦しんだと考えておる。よって3人の罪は不問とする。両親であるお前らもな。」
皆その言葉を聞き、胸を撫で下ろした様子だ。
「神よ、感謝いたします」
モート、ウシ、ワタルの両親は改めて平伏した。
「そしてリルよ」
「はい…」
「お前とその両親もまた、3人を燃やした罪について不問とする。
完全なる正当防衛であったと判断した」
「よ、よかった…」
つい俺は呟いてしまう。
「神よ!!感謝いたします!!」
リルの父は堪らず地面に頭を盛大に擦りつける。
「神よ…ありがとうございます」
リル当人もまた、同様に頭を下げた。
「そ、そんな…」
モートだけは、納得が行っていないようで、当惑している。
うむうむと、満足したところで、神イナンナは話を始めた。
「よい。ところでリルよ。お前、神都―ドゥ・アザグの学術院で神術を学ぶ気はないか?
その力をこの村で野放しにするのは勿体ない。」
「えっ…!?ぼ、僕ですか…!?」
突然の誘いに慌てるリル。
リルの両親もまた、想定外の申し出に驚愕の表情をあげる。
それも当然だ。神イナンナの聖域でもある都市部―ドゥ・アザグ。
神都とも呼ばれ、そしてその学術院は、エリート中のエリートしか集められていない。
半ばスカウトのつもりで遠路はるばるやってきた、というところだろうか。
やはり無理をしてでも炎を出して正解だった。
「あ、ありがとうございます。神よ。しかし私の力は不安定で…
その、先程もジンに助けられてようやく使えるようになり、
また、アンネに教えてもらったおかげです。私よりも、アンネ、ジンが都市で学ぶべきです。」
「ほう、二人共お前を凌ぐほど優秀だと申すか」
「はい」
…え!?
アンネはわかるが、なんで俺まで。
俺が口を挟もうと思ったが、リルが続ける。
「アンネは村の子供達の中で、最も神術に長けています。そしてジンは…まだ神術は使えませんが、それを補って余りある勇気の持ち主です。」
「ほほー」
神イナンナは、アンネをじっと見つめた。
アンネは恐縮しながら、また頭を垂れた。
そして次に俺の顔をじっと見つめてきた。
なんというか、少し恥ずかしい。
(…ん?)
俺を見た神イナンナの顔が若干、変化したように見えた。
哀れみ…いや、感傷…?何とも言えない表情だったように思うが…。
気のせいかも知れない。
「…まあいいじゃろ。そうしたらこやつらもドゥ・アザグの学術院で共に学べば良い」
「え!?」「えっ」
俺とアンネが思わず驚きの声を上げてしまった。
母さんも、アンネの両親も目を見開き、驚きを隠しきれていない。
「お待ち下さい神よ!」
ここでモートが割って入った。
「なんじゃ」
「アンネはともかく…何の才能もないこいつが何を学術院で学ぶのですか!」
「はー…」
めんどくさい、といった感じで神イナンナがため息を吐く。
モートの両親は顔真っ青だ。何も言えず口をぱくぱくしている。
「神術以外にも色々学べば良いじゃろ。それにリルには2人が必要だと判断した。それで十分じゃ。」
「し、しかし…!」
解せない、といった感じで顔から悔しさが滲み出てしまっている。
「ならば、私こそ神都に行くべきです!!リルが行けるのであれば、私だって!」
「やめなさいモート!!」
遂にモートの父親が、息子の無礼に耐えかねて、モートの頭を掴み地面に叩きつけた。
「申し訳ありません、神よ。お許しください…!」
「は~~…まぁよい。モートよ、お前は全く反省しておらんようだなぁ…。」
心底呆れた表情で、神イナンナが続ける。
「お前も、そこの2人もとてつもない過ちを犯した。
今回は不問としたが、本来であれば即刻牢屋行き。
お前らの態度次第で一族の処刑すら考えておったわ。…自分のしでかした罪の重さがわかるか?」
「…」
「お前はまだ子供だ。リルの父親が救った命を無駄にするな。」
事の重大さにウシ、ワタルはようやく気づいたようで、若干震えていた。
モートはというと、父親に頭を抑えつけられたまま、それでもなお納得の行かない表情をしていた。
胆力だけは凄まじいやつだ。
「わかったか?お前たちはこの村で奉仕し、罪を償い続けよ。
そしてリル、アンネ、ジンよ。眷属の儀を終え次第、神都の学術院へ来い。以上だ。」
そう言い残し、神イナンナと従者は広間から去っていった。
「お、俺たちが…」
「神都―ドゥ・アザグの学術院…」
信じられない。
しかし、神の言うことは絶対だ。
その神自身が俺たちにそう告げた以上、遵守しなければいけない。
つまり、来年から学術院行きが決定したということだ。
今更自分がいかに危ない橋を渡ったか思い出し、
俺はその場でヘナヘナと地面に座り込んでしまった。
下手をすればリル達一家は当然、俺も、もしかしたら母さんも懲罰を受けていたかもしれないのだ。
思いつきとは言え、ラブレター作戦はあまりに恐れ多い行動だった。
今回はうまく行ったからいいが、あまりに危険すぎる。今後は控えようと心に誓った。
…その後はお祭り騒ぎだった。
この村からエリートが生まれるなんて、
それも3人も出世街道を進めるとは、誰も思っていなかった。
アンネ、リルの両親、そして母さんも…皆泣いて喜んでいた。
ありがとう。リル…。お前のおかげだ。
お読みいただきありがとうございます。
しばらくは毎日更新予定です。
面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。
よろしくお願いします。




