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1章 眷属 1-9 幼少期9

―國

神イナンナが統治する領域。

俺たちは決してここを出てはならない。その代わり、神の庇護を受ける。

12歳になり、神の眷属に認められれば、その力の一部を分け与えられるだろう。

俺たちは、外の世界を知らない。

…世界…?


―――――――――――――


その存在、その輪郭を目の端に捉えた瞬間。


 「…!!?」

『神』と思われる存在を見た瞬間、俺の頭の中で何かが揺れ動いた。

 

 馬に乗った何十人もの従者を引き連れ、その中央の黒い馬に乗っている褐色の女性。


 既視感…いや、記憶の底にある何か…を想起させる…。

 これも神である所以、その力の一部ということなのか…?


 明らかに異質で、纏っている空気、身につけている衣服がまるで普通の人間のそれとは違う。

 直接目にするのは初めてだが、これは神イナンナに間違いない…と、

 まるで本能に直接訴えるようだった。


(何故神がここに…?)


 神が直接こんな小村に赴くなど、あり得ないはずだ。

 都市部に住んでいる者ですら、祭事以外では滅多にお目にかかれないと聞く。


 俺以上にビビりまくっている村長が、恐る恐る神の前へ跪いた。


「か、神イナンナよ、斯様な矮小な村へ、ようこそお越しくださいました…。

 是非とも、村の集会場へとお進み下さい。」


「うむ」 

 狼狽しつつも恭しく案内をする村長に神イナンナ及び、その神官と思われる一行は付いて行った。

 数はおおよそ20人…神のすぐ近くは、女性の神官で囲まれていた。

 神の直属神官…というやつだろう。以前聞いたことあるが、國内随一の神術使いだけで構成されているらしい。

 全員女性なのは、何か理由があるのだろうか…。


 集会場へ到着し、黒馬より地に降り立った神イナンナは、声を上げた。


「3人もの子供を神術によって燃やしたという、その子供、そして関係者をここに集めよ」


 思ったよりも幼い声。だが、決して小さくはなく、透明でありながら、不思議と威厳に満ちていた。


「は、ははっ。今しばしお待ちを」


 神が直接来るだなんて、村長自身も知らなかったらしく、

 都市部より今回の事件の審判をする為、数人の神官が来るという程度に思っていたようだ。

 村長は大慌てで、関係者を集めはじめた。


 招集がかけられたのは、

 アンネ、リル、モート、ウシ、ワタル、そしてそれぞれの両親だ。

 俺も一応目撃者ということで参加することになった。


 村長と共にぞろぞろと集まった俺たちは、神を前にして明らかに緊張している。

 だが、モートだけはいつも通り不遜な態度を貫いている。

 腕を組んでふんぞり返っていた。

 恐れ知らずと言うか、ここまでくれば凄いとしか言いようがない。


 集められてから、その場にいるものは全員神イナンナに頭を垂れ、跪いた。


「面を上げよ」


 許可を得て、皆顔を上げ、神に向き合った。

 どうでも良いが広間は床がなく、直に砂利に跪くので若干膝が痛い。

 しかし有無を言わせぬ気迫の前に、じっと耐えるしかなかった。


「村長、全員を紹介しろ」

「は、はい」


 村長はガチガチに緊張しつつ、俺たちのことを紹介した。


「ほー、そやつが火をつけた子供か」

「さ、左様でございます。神よ」


 村長が恭しく肯定し、リルへ手を向けると、ドッとリルが冷や汗をかきはじめた。


「…リルよ、試しに火を出してみい」

「え、あ、…は、はい…!」


 出来るかどうかわからない、などとはとても言える空気ではなく、

 言われるがままに試そうとするリル。


 しかし。


「…」

「どうした?できんのか?」


 手が震えている。

 この前の出来事がトラウマになっているのか…?


「なんじゃ、つまらんのう…。11歳にして人を燃やすほどの炎、面白そうだからわざわざ来たというのに。」

「お、お待ち下さい。今しばし猶予を…」

「しょうがないのう。さっさとせい」


 リルが必死に炎をだそうと念じているようだった。

 30秒ほど経ったが、出る気配がない。


 …見るからに神は不機嫌な表情を浮かべた。

 なんとなくだが、このままではリルに不利な懲罰が与えられるような予感がした。

 リルが使う火の神術を見に来た、というのが本当の目的であるのなら、実現できなかった代償にリルへと一方的な処罰が下るんじゃないか…それこそ戯れに。

 絶対的な権力者をこれ以上不機嫌にさせてはいけない。俺はそう思いこんでしまった。

 気づくと俺は口を開いていた。


「お、恐れながら神イナンナよ」

「…なんじゃお前は」


 突然俺が喋るとは思っていなかったのか、皆驚いたように俺を見つめていた。

 口を開いた以上、もう言うしかない。


「私はジン。事件の目撃者の一人であり、また、リルの友です。申し上げたいことがございます。」

「…ジン…か。なんじゃ。述べてみよ。」


 めちゃくちゃ緊張しているが、自分の感情とは裏腹に、言葉はするすると口から出てくる。


「リルは、その、炎で人を殺めかけてしまい、心に傷を負っております。その炎を出す行為、そのものを恐れているのです。」

「…そうなのか?」


 神がリルへ向き合い、確認を取る。


「そ、その……は、はい…。昨日の光景を思い出すと、手が震えて…うまくイメージができないのです…」


 横で、モートがギリ…と歯を噛み締めているのが見えた。

 どうやらこいつは殺されかけたという恐怖よりも、

 リルに負けたという屈辱感が勝っているようだ。


「ほー、そうか。まあ使えぬと言うなら結局は同じこと。つまらん…さてどうするかのう…」


 ま、まずい。この程度じゃ駄目だ。


「お、お、恐れながら神イナンナよ!」

「なんなんじゃ、お前はさっきから…」

「少々お時間をいただけませんか!ほんの少しだけ!!」


 俺の無礼とも言える申し出に、一同がギョッとした表情をする。


「…なんのために待たねばならんのだ」

「こいつ…リルの真の力…もとい、神がお求めになった炎をお見せするのに、少々準備が足りていなかったのです!5分で構いません!何卒お時間を…!」

「…準備?…まあ良い。どうせここまで来るのに丸1日かかったのじゃ。5分くらいどうでも良いが…本当に使えるようになるのだろうな?」

「大丈夫です!!ありがとうございます!

 …おいリルちょっとこっちに来い!」


 跪いたまま2人で器用に広間の端まで移動する。


「リル、このままじゃお前とお前の父さん母さんは酷い懲罰にあう」

「な、なんでそんなこと分かるの?」

「俺の直感だ。あの気まぐれそうな神を喜ばせないと、やばいと思わないか?いいから信用しろ」

「そ、そんな…」

「俺がさらにあんなこと言ってしまった手前、

 お前が使えなかったとなると更に怒りを買うかもしれん。とにかく頑張れ」

「え、ええ~~~…」


 勝手に何とんでもないことに巻き込んだんだお前は、と言わんばかりに呆れた表情をするリル。

 だが俺は自分の直感を信じている。

 というか、もうやり始めてしまったので引けなくなってしまっていた。

 すまん…リルよ…。


「リル、辛いかも知れないが、ここを乗り切らないと永遠に俺たちは会えなくなる可能性もある。

 もちろんアンネともだ…。

 どんな理由があろうとも、神の機嫌を損ねたら終わりだ。

 お前のためにわざわざ1日も懸けてこんな小さな村に来たんだぞ?

 見ろ、あの顔を。絶対イライラしてる。」


 チラ、とリルは神の顔を見て、その圧倒的な不機嫌そうな顔に恐怖し、スッと俺の方へ向き合った。


「そ、そんな…僕たちが一方的に悪いってことにされちゃうの…?」

 明らかに怯えが含まれたリルの声。


「ああ…授業でならっただろ?神には絶対に背いてはいけない。

 神が黒と言ったら全て黒。お前が悪いと言ったら終了だ。

 家族共々、都市部の牢屋にぶち込まれるかもしれない。」

「ひいっ…」


 遂に歯をガタガタし始めた。ビビらせ過ぎたかもしれない。

 俺の杞憂だといいのだが、ないとも言い切れない。

 それほどこの神という存在は異質で、どう扱うべきなのか不明で、恐ろしい。

 頑張って炎が出せるなら、出すに越したことはない。


「でも…一体どうしたら…誰かを燃やすイメージなんてしたくない…」

「そうだろうな。要は人じゃなければ良いんだ。そこでこいつを使う」


俺は、()()()()を懐から取り出した。


お読みいただきありがとうございます。

しばらくは毎日更新予定です。

面白いと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援していただけると励みになります。

よろしくお願いします。

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