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虫森  作者: 小円説
虫森〜森の変化と、希望との出会い〜
7/10

日常崩壊〜絶望の刻の時〜

「うーん、いい朝だ」


窓から差し込む柔らかな光に目を細め、僕は伸びをした。階下からは朝食の匂いが漂ってくる。

「おはよう、お母さん。お父さん」

「ああ、おはよう」

食卓につく父の顔は、いつになく険しかった。

「どうしたのお父さん。そんな暗い顔をして?」

父は少しの間、躊躇するように視線を彷徨わせたが、意を決したように息子を見据えた。

「……今すぐ、この森から出る準備をしてくれないか」

「えっ? どうして。この森は、父さんが一番好きな場所だったじゃん」

「今日、いつものように橋まで行ってみたんだ。そうしたら……アメリカ軍だ。何百人という兵士が車両から降りて、橋を完全に封鎖していた」


「西橋を……? あの、唯一の出口を?」

この森は周囲を巨大な湖に囲まれた、島に近い特殊な地形だ。船を使わずに外界へ繋がる道は、あの橋一本しかない。

「でも、ただ近くで何かトラブルがあっただけかもしれないよ」

「そうだといいんだが……どうしても胸騒ぎが消えんのだ。いいから、備えだけはしておいてくれ」

「わかったよ」

父さんの取り越し苦労だといいんだけど。軍人が来るような物騒なことが、この平和な場所で起こるはずがない。そう、平和なまま――。


『――ドォォォォォォンッ!!!』


凄まじい爆発音が、窓ガラスを震わせた。

「なんだ!? 何が起きた!」

慌てて外へ飛び出すと、村に一つしかないガソリンスタンドが、黒煙を上げて激しく燃え上がっていた。


「なんてことだ。これじゃあ、安定して船を動かすことなんてできやしないぞ!」

誰かが叫んだ言葉が、冷水のように住民たちの間に不安を広めていく。

「どうしてこんなことに……」

「明日からの生活はどうなるんだ」

「まさか、橋にいた軍人たちが……?」

「見に行くぞ! 何があったのか確かめるんだ!」

野次馬となって火災現場へ駆け出そうとする村民たち。僕もそれに続こうとしたが、強い力で家の中へと引き戻された。


「なにするんだよ、お父さん!」

「……逃げるぞ」

父の言葉は短かった。しかし、それは今まで聞いたどの言葉よりも重く、悲壮な覚悟に満ちていた。僕はその気圧されるような気迫に、ただ頷くことしかできなかった。


「地下通路を通って逃げることにしよう」

家族全員が賛同した。船が使えなくなる悪天候の日や、橋が壊れた時の備えとして、湖の下を通って陸まで続く地下通路を掘っていたのだ。


「でも、他の村民たちにも知らせたほうがいいんじゃない?」

「そんなことをしている暇はない。逃げるのが先だ」

「でも、」

「『でも』じゃない。逃げるんだ」

そう言って、父親は僕を殴った。


そのまま、少し気まずい空気が流れながらも、僕たちは地下通路の入り口までやってきた。

「よし、こっちは使えるみたいだな。中に軍人がいるかもしれないから、父さんだけ先に行く。無事がわかったら知らせるから、それまでここで待っていろ」

「わかった」

「無事でいてね、あなた」

「ああ」


『ギィーギィー』

不意に、妙な音が聞こえてきた。

「母さん? この音、何かわかる?」

そう聞きながら母親の方を振り向いた瞬間、すでにそこに母親はいなかった。


代わりに立っていたのは、骨と皮ばかりの、目まで裂けるような大きな口を持った人形の怪物だった。


『バーン!』

僕は反応できなかった。しかし、幸運にも怪物の拳は僕から逸れた。

だが、その代わりに衝撃で地下通路の入り口が崩れ、閉じてしまった。

僕は、次の瞬間にはそこから逃げ出していた。

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